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botanin5
2024-11-14 02:55:10
41522文字
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薬さに♀(小説)
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そして好きを知る
ハッピーエンド
・獅子王→女審神者の表現があります。
・軽めですが、戦闘の描写があります。
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「主君!お買い物に行きましょう!」
仕事がひと段落ついて、広間でくつろいでいた江雪さんの隣に座ってのんびりとおやつを食べていると、廊下をパタパタと駆ける音がして秋田が元気よく顔を出した。そのまま私の隣へきてちょこんと座ると、顔をきらきらさせながら身を乗り出して話し出す。
「今、長谷部さんと燭台切さんが台所で、もう米やお肉が無くなってしまいそうだとお話していたんです!お買い物へ行くなら僕も連れて行ってください、ってお願いしたら、それなら主と一緒に買ってきてほしいものが他にあるんだってメモを頂戴しました!」
ま、眩しい
…
!秋田の勢いに若干気圧されながら、手渡された紙を見る。米や魚肉類は注文すれば届くはずなので、外へ買い物に出る必要はない。おそらく、外に出たがる秋田のために簡単な用事を作ってくれたのだろう。やはり、そこに書かれていたのは必需品ではなく、本丸から少し離れたところにある繁華街で売られているお菓子だった。
「歌仙が気に入ってたお菓子だね。よし、買いに行こうか!着替えてくるから、秋田も準備しておいで!」
「はい!!!」
ぱぁぁ!と顔を輝かせた秋田が勢いよく部屋を出て行く。江雪さんに、気をつけてくださいね
…
と見送られて私も部屋へと向かった。
繁華街に着くと、とりあえず日用雑貨を見て回ることにした。せっかくここまで来たのだし、秋田もいろいろなお店を見て回った方が楽しいだろう。それに、お菓子を先に買って持ったままうろつきたくない。秋田と手を繋いで繁華街をのんびり歩く。店の前を通るたびに喋りが上手い店員に捕まってしまうのも、なんだか楽しかった。しばらくすると、秋田がきらきらと目を輝かせて足を止めた。甘味処のようだ。歩き回って少し疲れたこともあり、入ろうかと声をかけると、こちらを見上げてさらに目を輝かせ、ぎゅっと繋ぐ手に力を入れて、はい!と大きな返事が戻ってきた。
「お店、満席だったの残念だったね~」
「いえ!主君と一緒におやつを食べられるなら、どんな場所でも美味しいので大丈夫ですよ!」
「も~~!かわいいなもう!!!」
「えへへへ」
ぐりぐりと秋田の頭を撫でる。残念ながら甘味処は満席だったため、どうせなら外で食べようか、と持ち帰り用のおはぎとペットボトルのお茶を二本買った。本来の目的地であるお菓子屋さんの近くに、屋根つき休息所のある公園があったはずだ。政府の管轄内であるこの地域には政府の職員と審神者、繁華街に勤める人々、そして刀剣男士しかいない。遊ぶ子どもがいないため公園には遊具を置いておらず、手合せができる広い空間といくつかの休息所、公衆便所があるだけだ。繋いだ手を振って歌いながら二人で公園を訪れる。
「涼しいところがいいなぁ」
「あ!主君、あそこにしましょう!」
秋田が指したのは、公園内の森林近くに設置された休息所だった。テーブルとベンチ付き。いいね!と笑い合って、近くの水道で手を洗ってからそっと腰かける。おはぎを広げると、わ~と秋田から声が漏れた。相変わらず目はきらきらしている。私は一つでいいから残りは秋田が食べて!と言えば、え、いいんですか!?とまあるいほっぺを赤くさせた。談笑しながらおはぎを食べていたところで、秋田がひとつ転がしてしまった。反射神経が良すぎるのもいかがなものか、秋田はとっさにおはぎを手でにぎってしまい、べっとりと餡子がついてうわぁ!と焦った声をあげた。微笑ましい様子に思わず笑みがこぼれて、水道でハンカチを濡らしてくるから、ちょっと待っててねとベンチを離れる。
初夏とは思えない暑さで、水道から出る水がとても気持ちいい。ハンカチを軽く絞ったところで、ふと、森林に目を向けた。ほんとうに。なにげなく。
完全に油断していた私の目に映ったのは、林道の木陰から垣間見える薬研藤四郎と橙の着物を纏った可愛らしい女の子だった。
ひゅ、と息を飲みこんだ。あれは、うちの薬研だ。私の、薬研藤四郎だ。
私の場所から見える薬研は後ろ姿で、どんな表情をしているのか分からないが、相対する女の子はとても嬉しそうに笑っている。だめ、見ちゃいけない。頭の中で誰かの声がする。ああなんだ、これは自分の声だ。警告を無視して視線を少し下げれば、女の子が両手でしっかりと薬研の手を掴んでいるのが見えた。もう、見たくないのに、足が凍りついたように動かない。固まったまま、目を離せないでいると、女の子はいたずらっぽい笑みを浮かべて、薬研の頬に口づけた。
完全に息が止まる。頭をがつんと殴られたような衝撃が襲う。敵に蹴り上げられたときよりも、ずっとずっと痛かった。その勢いに押されてようやく視線を外すことができ、自分の草履が目に入る。
いたい、あたまがいたい。むねが、くるしい。いきができない。
今にも足の力が抜けて、倒れ込んでしまいそうだった。息って、どうやって吐いてたっけ。じんわりと涙が浮かぶ。視界に映る色がすべて抜け落ちていく。何かが胸でとぐろを巻いて、両耳に這い上がってきた。耳鳴りがする。あたま、いたい。やげん。
「主君?」
っは!
控えめに声をかけられてようやく世界に色が付く。過呼吸になりかけていた肺を落ち着かせて、ゆっくりと息を吐く。顔を上げて振り向くと、秋田が心配そうにこちらを見ていた。半泣きになっている私の顔を見た秋田が驚いて息を吸う。
あ、いま大声を出されたら
…
!!
ぱっと手を挙げて、大丈夫という意思を見せる。上手く気をそらせたようで、秋田が大声をあげることはなかった。
「
…
大丈夫ですか?どこか、ぶつけたんですか?」
少し泣きそうになった秋田が私の怪我を確認する。
いま口を開いたら、そのまま泣きだしてしまいそうだった。目を閉じて、大きく深呼吸する。秋田は、大人しく見守ってくれていた。
「っ、これ、を。濡らしたから、手、」
やっとで絞り出した声は、ひどく震えていた。秋田はそっとハンカチを受け取って、自分の手を拭う。ハンカチについた餡子を水道で洗って絞ると、そっと私の頬に当ててくれた。段々落ち着いてきて、今すぐここから逃げたくなった。後ろの林道をもう一度視界に入れることなんて、到底できそうにない。秋田が、薬研に気づく前に。早く移動しなくては。
「お菓子、買いに行こう。秋田」
はい、と言った秋田の表情を見たら、自分が上手く笑えていないことなんて明らかだった。
再び手を繋いで、今度はお菓子屋さんに向かう。秋田は何も聞かない。その気遣いに、子どもの姿をしていても長く生きてきたんだと実感して、同時にひどく情けない気持ちになった。さっさとお菓子を買って、さっさと帰ろう。もう頭痛は収まり、心臓もいくらか落ち着いていた。しかし、もやもやとした気持ちだけが残っている。もう、お風呂に入って眠りたかった。
お菓子屋さんに着くと、耳慣れた声が聞こえてきた。
「なぁ鶴丸!!これは?」
「おいおい、それはこの間、長谷部が買ってきたばかりだろう。獅子王は甘いやつがいいのか?これなんかどうだ」
「え~、餡子が入ったやつにしようぜ~」
今朝、遠征に出した第二部隊の面々だった。鶴丸と獅子王の他に、加州と安定、堀川の姿も見える。背中を嫌な汗がつたっていく。この部隊には、薬研も入っていたはずだ。先ほどの場景が掠めて、思わず足が止まる。手が緩むと、秋田が遠征部隊の元へ駆けていった。
「みなさんお買い物ですか!?」
「え?秋田じゃん。なんでここにいるの?もしかして主と一緒?あ!主~」
秋田に抱き着かれた加州が視線を巡らして私を見つける。嬉しそうに手を振ってくれたため、少しほっとして、こちらも手を振りながら近づく。
「みんな遠征帰り?」
「そー。遠征が終わったら、いつもこの店に寄ってお菓子買ってんの。たくさん種類があるし、季節によって変わってくから、飽きないでしょ?」
「そうだったんだ。うん。いつも美味しい」
加州の隣に立ってお菓子を眺めていると、突然後ろから抱きすくめられる。
「あっるじ~!」
「わ!ちょ、獅子王!?」
「迎えに来てくれたのか?」
「違うよ、光忠にお菓子を買ってくるよう頼まれたの。ねぇ暑い!」
わりー!とようやく離れてくれた獅子王の笑顔が眩しい。あの台所での宣言通り、獅子王は積極的に私に話しかけてくるようになっていた。いつもだったらどぎまぎしてしまうが、今は少し、気が楽になったように思う。光忠にどれ頼まれたんだ?と聞かれてメモを見せると、あ~アレだな、と店の奥へ買いに行ってくれた。戻ってきた獅子王からお菓子が入った紙袋を受け取ろうとすると、ひょい、と避けられる。
「ちょっと、遊んでる?」
「へへ、主が可愛くてつい」
「~~~~っ!そういう事!恥ずかしいから言わな
―――
」
「ん?大将か?」
ぴたり
突然後ろから薬研の声が聞こえて、あからさまに体が固まった。振り向くのが、こわい。主、どうしたんだ?と不思議そうな獅子王の顔に集中する。どうやら、その判断は正解だった。
「薬研さん。今日はありがとう!えっと、
…
よろしくね」
「おう。じゃあな」
「うん!」
店の方へ駆け込む軽い足音。転ぶなよ。大丈夫~。知らない女の子と会話する薬研の声。あぁ、耳も塞いでおくべきだった。顔が強張っているのが分かる。獅子王の袖を、無意識に掴んでいた。察してくれたらしい獅子王が、ぼふん、と私の頭に鵺を乗せた。少し苦しいけど、顔が完全に隠れてくれたことにほっとして、肩の力が抜ける。
「薬研くん!」
「お、秋田じゃねぇか。買い物か?」
「はい!主君と二人で、お菓子を買いに来ました!」
あ。秋田、何もしゃべらないと、いいな。少し不安がよぎったが、公園での出来事を秋田が口にすることはなかった。本当に、いい子だ。
「なら、みんなで帰るか。大将も、そろそろ顔見せてくれよ。帰ろうぜ」
「い、かない」
「
…
どうしたんだ?」
話しかけられて、とっさに返事をしてしまった。
まずい。次、喋ったら、絶対声が震える。涙が出そうになるのを堪えているせいで、頭が痛い。獅子王の袖を握る手に、力が入った。
「俺と主はデートして帰るから、お前ら先に帰ってていいぜ!」
突然そんなことを言い出すから、びっくりして獅子王の顔を見上げる。こちらに一瞬目配せしてから、再び待っている仲間たちの方を向く。
「何言ってんだよ、今から帰って丁度晩飯くらいの時間だぜ?」
「残しといてくれたら、戻ってからゆっくり食うって」
「だが、」
「まぁいいだろう、薬研。じゃ、俺たちは先に本丸へ帰るぜ。晩飯は光忠に言って残しといてもらう。」
「おー、ありがとな鶴丸」
加州たちも不満そうにしてくれたが、私がてこでも動かない気でいることが、分かったらしい。歩き出す足音が聞こえる。ごめん。ごめんねみんな。
完全に足音が聞こえなくなると、獅子王が私の頭を覆っていた鵺を取る。私の顔を見て困ったように笑うと、袖を握っていた手をそっととられた。
「ちょっと寄り道してから帰るか」
うん、ありがとう。絞り出すような声を、獅子王の耳は拾ってくれただろうか。手を引かれてゆっくりと足を進める。後ろのお菓子屋さんから、先ほどの女の子の明るい声が聞こえた。
「店長~!来週の日曜日、お休みちょうだい!」
ぐるぐると、普段はたいして働かない脳がこんなときばかり思考を巡らす。
来週の、日曜日。
それってたしか、この近くの川で打ち上げられる、花火大会の日
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