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botanin5
2024-11-14 02:55:10
41522文字
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薬さに♀(小説)
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そして好きを知る
ハッピーエンド
・獅子王→女審神者の表現があります。
・軽めですが、戦闘の描写があります。
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「主さま!目が覚めましたか!」
視界ジャック、こんのすけのドアップ。うわ、びっくりした。
何をするのです!こんのすけは心配していたのですよ!と喚く顔をそっと押しのけて体を起こすと、ここは病院のようだった。本丸には無い白いカーテンと、タイルの床。ベッド。なんでこんな所にいるんだろう。ぼんやりとした頭で考えていると、左腕にぴりっと痛みが走った。
途端にぞわぞわと悪寒が背中を這い上がる。そうだ、本丸に、敵が。急に胃を持ち上げられたかのような吐き気に襲われる。とっさに口を押えると、吐くのならばこちらに!とこんのすけが前足を出してくれた。いや、さすがにそれは。涙目になりながらもなんとか凌いで、ベッドの横に置いてあったペットボトルの水で喉の奥を洗い流す。呼吸を整えたところで、こんのすけに状況を聞いた。
「今回の敵の襲来はこの地域全体で起こったのです。あの通信機器は偽物でした。本来の政府による機器の配布日は、来月です。何者かによって、この地域の軍事物資配送施設にあの通信機器が持ち込まれ、審神者さま方のもとへ届けられたようです。我々の受信機と難なく通信できていたことが大きな問題となり、政府内でも厳格な調査が行われております。審神者さまの中には数名ほど殉職された方もおります。各本丸への襲撃は同時刻一斉に行われ、また、地域全体ということもあり、他の本丸に応援を要請することは不可能でした。」
主さまは無事で良かったです。そう言って私にそっとすり寄るこんのすけを抱きしめる。
「
…
うちの本丸のみんなは、無事?」
少し声が震えた。
「俺たちは全員無事だぜ。君の刀は一振りも折れちゃいない」
「鶴丸!」
病室の入り口から顔を出したのは鶴丸国永だった。驚いたか?なんて楽しそうに笑いながらこちらへと近づいてくる。驚いたよ
…
。すぐに廊下からパタパタと足音が聞こえて、加州が部屋に飛び込んできた。
「ちょっと、鶴丸さん先に行かないでよ!あー!!主!目が覚めてるーーー!!!」
「おいおい、もう少し声を落とせ加州」
「あ、ごめん。
…
主、良かった。目、覚まさなかったらどうしようかと」
「え、私そんなに寝てたの!?」
「いや。襲撃があったのは昨日だぜ。今はまだ午前中だ」
「普通に寝て起きただけじゃん
…
!」
それでも心配だったの!と私を抱きしめる加州の頭を撫でる。みんな無事なのか。良かった。この様子だと、怪我したのって私だけなんじゃないの
…
。どんくさくて申し訳ない。
「あ、主。俺、検査の結果を聞きに行ってたんだ。吐いてたみたいだったから、緊急搬送されたんだよ?頭を強く打って、のーしんとう?ってやつになってたみたい。でも、頭はもう大丈夫。左腕はひびが入ってるから3週間くらいは治らないって。腕、痛い?」
「そうだったんだ。ありがとね加州。うーん、ちょっとだけ。」
そうか。折れてはなかったんだ。でも、3週間か
…
生きてるだけよかったと思っておこう。左腕はギブスで固定されていた。そんなに大げさなものではないので、もしかしたらもっと早く治るのかもしれない。検査結果によれば、私の体にその他これといった異常は無いようだ。本当に良かった。ただ、全身が筋肉痛になったようにだるい。私の膝にちょこんと座るこんのすけに尋ねる。
「私はもう本丸に戻れるの?」
「はい!主さまの治療はすでに終わっておりますので、目が覚めたら帰還して良いと聞いております。」
「そっか。じゃあ帰ろう!」
「おいおい、君は目が覚めたばかりだろう。もう少し休まなくていいのか?」
「いい。帰ってみんなの顔を見た方が、早く元気になれるの」
「主のそういうとこ、俺好きだよ」
ありがと加州!と今度はこちらから抱きしめて、持ってきたんだ、と鶴丸に渡された自分の服に着替える。
「でも、加州は分かるけど、鶴丸が来てくれるとは思わなかった。」
少しだけ、薬研は居ないのか、と思ってしまった事は言えない。
「俺だって君が心配だったんだぜ?」
「ほんと?」
「当たり前だ」
「鶴丸さんはねー、病院って場所がどんなところか気になって気になって仕方なかったんだよねー?」
「なるほど」
「ちょっと待ってくれ!確かに気になったことは認めるが、君が心配だったのも本当なんだ!」
「ふふ、分かってるよ。来てくれてありがとう、鶴丸」
まったく。頭をがしがしと掻く鶴丸の背中を押しながら出口へと向かう。今回の治療代は全て政府が負担してくれたようだ。早く帰って、みんなにありがとうを言わなくては。獅子王と薬研には守ってもらったし、何か別にお礼をしたい。ああ、みんなの顔が早く見たい!目が覚めた時の不安はもうどこかへ行ってしまって、心はすっきりと晴れ渡っていた。
「ただいまー!」
玄関に入り大きな声で帰還を告げると、軽い足音と共に奥の廊下から短刀たちがやってきてくれる。もう大丈夫なの!?心配しました!わ!その腕どうしたの!?口々に言われて返答に困り、とりあえず大丈夫だよと笑っておくことにした。広間へと移動すると、待っていてくれたらしい刀剣たちの姿があった。簡単に声をかけて無事とお礼を告げる。やはり、怪我をしていたのは私だけだったみたい。江雪さんの隣に座って、お茶でも飲もうと伏せてある湯呑に手を伸ばしたところで、バタバタと廊下を走る音がした。障子が勢いよく開いたかと思うと、私の視界は一瞬できらきらの金色に染まった。
「主
…
!よかった
…
!!」
「ちょ、獅子王、いたい、痛いから!」
そして苦しい!
ぎゅう、と獅子王に抱きしめられる。いたい、という私の声を聴いてすぐ悪い!と身体を離し、左腕のギブスを見ると顔を歪めた。左腕を巻き込まないように、もう一度ゆっくりと抱きしめられる。獅子王の金髪が耳にそっと触れて、すこしくすぐったい。
「腕、痛むか?」
「今すごく痛かった」
「それはごめん」
「冗談だよ。そんなに痛くない。獅子王は怪我してない?」
「俺が怪我なんかするわけないだろ!」
「えー?いつも、ぴかぴかにしてくれよな
…
って手入れ部屋に入っていくのは誰だっけな~」
「
…
うるせ」
あれ。いつもだったら「ったく!主は一言多いんだって!」って笑ってくれるのに。私が目の前でぐったり倒れていたことが、思った以上に堪えているのかもしれない。ぽんぽん、と獅子王の背中を撫でる。互いに言葉を発せずにいると
「俺らはいつまでお前らの熱い抱擁を眺めてりゃいいんだ」
と同田貫に言われてしまった。うわ、そうだ、ここ、みんな居るんだった!獅子王も我に返ったようで、悪い!と私の体を離すと、耳まで真っ赤に染めた顔を手の甲で隠してばっと立ち上がった。そして、無事で良かった!じゃあな!と再び廊下を駆けていった。呆然と見送った私の横に、お茶請けを持ってきてくれたらしい一期一振が座る。
「嵐かよ
…
」
「獅子王どのは、かなり落ち込んでおられましたからな」
「え?」
「主を前にして、先に敵へと向かったことを後悔していたようです。主の元へ駆け寄るべきだったと」
「そんな、獅子王があの大太刀へ向かっていってくれたから、私はあの場を凌ぐことができたんだよ?すごく、すごく助けてもらったのに」
「では、落ち着いてからそう話してあげると良いでしょう」
「
…
うん、そうする」
いつのまにか湯呑に注がれていたお茶を飲み、一期が持ってきてくれた個装の煎餅を開けようと指に力を入れる。あ、左手、上手く力が入らないな。悪戦苦闘していると、一期がそっと私の手から煎餅を抜き取って袋を開けてくれた。ありがとう。いつも自分の隣に座っている薬研とは違って、並ばない肩の高さに違和感があった。あ、そうだ薬研は?すい、と広間に視線を巡らすが、薬研の姿はない。あれ?
「ねぇ、一期」
「なんですか?」
「薬研は?」
「ああ。薬研なら自室で謹慎中です」
「は!?」
謹慎!?なんで!?
「決め事を破った罰だそうです。本丸が攻撃された際の薬研の持ち場は、本来ならば主の自室でしたから。私は、結果的に主を守ったのだから必要ないだろうと言ったのですが、本人が聞かないものでして。それに、長谷部どのも、決めた意味が無くなってしまうから形だけでも罰は与えよう、と」
「そんな!
…
でも、うーん
…
」
「
…
長谷部どのは、冷静になるための時間を用意してくれたのだと思います。」
「え?」
「あのときの薬研は、
……
いえ、
…
お茶のおかわりはいりますか?」
一期はそこで言葉を切った。
広間を後にしたが、なんとなく薬研に会いに行くことが憚られて、近侍を加州に頼んで今日の日課に取り掛かる。薬研の顔が見たい。お礼が言いたい。でも、謹慎中に顔を出すのも気が引ける。まして「冷静になるための時間」などと聞いてしまったからには、不用意に邪魔をするわけにはいかない。
日課を終わらせた夕方、庭で陸奥守や大倶利伽羅と手合せをしている獅子王のもとを訪れた。あの時は本当にありがとう、と告げると、ちょっと恥ずかしそうに笑ってくれた。
「なにかお礼がしたいんだけど
…
」
「お礼?いや、別にいいって!主を守るのも俺たちの役目みたいなもんだろ」
「気持ちの問題!まあ、みんな戦ってくれたのは同じなのに獅子王にだけ物をあげるってわけにはいかないから
…
何かお願い聞くよ。手伝うこととかないかな?」
「お、おう
…
うーん、あ。
…
いや
…
ちょっと考えてもいーか?」
「いつでも大丈夫!力仕事だと今はまだ手伝えないし、決まったらまた教えてね」
「おー」
ちゃんとお礼が言えてよかった。少しだけほっとして、庭を後にする。そろそろ晩御飯の時間も近い。食事の用意を手伝おうと台所の入り口に掛けてあるのれんをくぐった。全員に当番が回るように決めているのに、なぜかいつも居る燭台切光忠と、疲れ切った様子の御手杵がいた。他の子は畑に行っているのかもしれない。
「だから~俺は刺すことしか出来ないんだって!」
「そんなこと言わないで御手杵くん。集中してやれば魚を捌くくらい君にもできるから」
「手伝いに来たよ!」
「お~動いて大丈夫なのか、あんた」
「何言ってんの、昼からちゃーんとお仕事やってました~」
御手杵がぐしゃりと私の頭をなでる。おいちょっと待て、いま魚触った手だろそれ。あ、わりぃ、と笑いながら手を離す御手杵を軽く睨んでから、何か手伝うことがないか光忠に聞いてみた。
「いや、君その腕で何ができるの
…
?」
「あ、うーん食器運ぶとか?」
「片手じゃ危ないでしょ」
「ええ~!何か仕事をおくれよ~お願いだよ~」
何かしていないと落ち着かないのだ。おでこをぐりぐりと光忠の広い背中に押し付ける。彼は少し考えるそぶりを見せた後、そうだ、と顔を上げた。
「じゃ、薬研くん呼んできてよ」
「へぁ!?」
「本当は彼も今日の食事当番なんだ。まぁ、短刀くんたちが手伝ってくれてるから手は足りてるし、まだ部屋を出ないって言ったら別にいいんだけど、一応声かけてきてくれないかな」
「
…
わ、わかった」
空が曇っている。すん、と匂いを嗅いでみれば湿った空気が感じられて、すぐ雨が降るかもしれないと思った。ゆっくりと廊下を踏みしめる。少し遠くから堀川と加州の声が聞こえた。洗濯物を取り込んでいるのだろう。この時間は、家事当番や手合せをしている刀剣が多く、ほとんどが母屋に集まっている。個人の部屋がある棟は人の気配がなかった。渡り廊下をゆっくりと進んでいると、ぽつ、と雨が降り始めた。
「薬研、いる?」
本格的に降り始めた雨の音に負けないように、いつもより大きな声で呼ぶ。ここに来るまで誰にも会わなかったうえに、雨で外の音が遮断されていて、この世界に自分しかいないような不思議な感覚に陥っていた。
「大将か?」
「うん。入っていい?」
「
…
あー、今出るから待て」
畳を踏みしめる音が聞こえたかと思うと、スッと障子が開いて薬研が顔を出した。なんだか久しぶりな気がする。内番時の服だが、白衣を着てなければネクタイも眼鏡もしていない。いつもより幾分くだけた格好に、少しどぎまぎする。
「どうした?」
「あ、光忠がね、食事当番どうする?って」
「あー
…
。そういや今日当番か
…
忙しそうだったか?」
「ううん。手は足りてるから、来ても来なくてもいいって感じだった」
「そうか」
薬研はやや視線を下げて、何か考えているようだった。大人しく待っていると、ふっと顔をあげて柔らかく笑う。
「なぁ。少し話さないか」
薬研が部屋から座布団を持ってきてくれたので、縁側にゆっくりと座る。雨はまだ降り続いており、時折、弾かれた雨粒が膝に置いた手の甲を濡らす。話ってなんだろう。なんだか緊張してきた。隣に腰かけた薬研は、じっと庭の紫陽花を見つめる。大きな雨粒が、紫陽花の葉をぽつん、と揺らした。
「腕は痛むのか?」
こちらを見ずに突然話しかけられたため、少し肩が揺れる。
「大丈夫だよ。しっかり治療してもらったから。」
「そうか」
どうしたんだろう。おそらくこれは本題ではない。いつも自分の考えをハッキリと話す薬研にしては珍しい。再び沈黙が落ちる。薬研の視線はいつの間にか紫陽花から外れて、膝の上で組んだ自身の手に向けられていた。
「刀を向けられた大将を、見つけた時」
「
…
うん」
「心臓が、潰れるかと思ったんだ。」
ぽつぽつと話し始めたゆったりと低い声に耳を傾ける。
「一瞬声が出なくてな。頭ん中では、早く大将の所へ行かねぇとって考えてんのに、足が全然進まないんだ。振り下ろされる刀が、嫌にゆっくり見えた」
「
……
」
「情けねぇだろ」
「
…
そんなことない。それに、ちゃんと私のこと助けてくれたよ」
こちらを向いて苦笑いする薬研の顔が、なんだか泣いているように見えた。
「薬研が来てくれて嬉しかった。本当に本当に、ありがとう。
…
あの時、助かる自信は無かったけど、死んじゃう、って不安もなかったの。心のどこかで、薬研が助けてくれる!って思ってたのかも。ほら、私って能天気なところあるし。すぐ気絶しちゃったけど、それもきっと薬研の背中を見てあんし
――
」
なんとか励ましたいと紡いだ言葉は、薬研が私を抱き寄せたことによって途切れた。自然と胸に飛び込む形になる。薬研の心臓の音がとくん、と聞こえてくる。あの時と違って、薄い薬のようなにおいがした。ぎゅう、と肩を抱きしめられる。穏やかな気持ちだった。でも、ちょっと体勢がつらい。ぎこちない動きで薬研の背中にそっと手を回す。触れた瞬間、彼がぴくりと跳ねたのが分かった。ゆっくりと薬研の細い腰を抱きしめる。そっと目を閉じた。聞こえてくるのは、雨の音と、心臓の音だけ。薬研の肩の力が抜けていくのが分かった。私の頭に、頬が添えられる。小さな、小さな声で
「守れて良かった」
と呟いたのが聞こえた。
驚いてぱっと目を開くと、肩をがっしりと掴まれて身体を起こされる。え?
素早い動きについていけないまま目を白黒させていると、薬研は手を離してさっと立ち上がった。
「そろそろ飯の時間だな。行こうぜ、大将」
呆然と見上げる私に、いつもの笑顔で手を差し伸べる。きっと今の私はとてつもなく間の抜けた顔をしているだろう。大将?と首をかしげる薬研。なんで、なんでこんなに平然としてるんだ
…
!薬研がまったく分からない。くそう。差し伸べられたそれに自分の手を重ねると、ぐいっと勢いよく引かれて立ち上がる。ぱっと手が離れて、ほら、と促されて足を動かす。雨の音はかなり小さくなっていた。
「今日の晩飯は魚か」
「え!なんでわかったの!?」
「大将の頭から魚のにおいがした」
「へ?
…
ああ!それは、さっき御手杵が!!」
すっかりいつもの空気に戻っていた。薬研の表情は先ほどよりずっと晴れやかだ。元気が出たのなら良かった。でも、どうしたんだろう。いつも私の一歩前を歩く薬研が、今は隣を歩いている。普段は薬研の背中をついていくばかりだったのに。少し不思議に思いながらも、軽い足取りで食堂へと向かった。
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