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botanin5
2024-11-14 02:55:10
41522文字
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薬さに♀(小説)
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そして好きを知る
ハッピーエンド
・獅子王→女審神者の表現があります。
・軽めですが、戦闘の描写があります。
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「では、行ってきます!主君!」
楽しそうな秋田と、手をつなぐ一期を笑顔で見送る。ついに花火大会の日がやってきた。うちの本丸は出不精が多いようで、花火大会へ行くと言ったのは半分くらいだろうか。残った面子は、本丸でスイカを食べながら手持ち花火を楽しむそうだ。むむ。それも惜しい。
獅子王に言われた通り、今日は浴衣に身を包んでいる。あまり派手に着飾るのは苦手で、白地に薄紫の花が散っているシンプルなものを選んだ。
薬研は厚たちと連れだって先に本丸を出ていた。後からあの子と合流するのだろうか。少しだけ気持ちが燻る。今日は、獅子王へのお礼も兼ねているんだから、楽しまなきゃだめだ!私が楽しくなかったら、きっと彼も楽しめない。よし、美味しいものたべまくろう!と意気込んでいると、獅子王が玄関にやってきた。
「主!お待たせ!」
「大丈夫だよ!浴衣着れた?」
「見ての通り!かっこいいだろ?」
普段が洋装の獅子王は浴衣を着るのに手間取ったようで、最終的に鶴丸に着せてもらっていた。てっきり派手な柄を選ぶと思っていたのに、シンプルな紺の浴衣でいつもより大人びて見える。いや、実際は私よりずっとずっと年上なのだけれど。きらきらな金色の髪がよく映えていた。
「うん、かっこいいよ!」
「よっしゃ!
…
じゃ、行こうぜ」
そっと獅子王が手を差し伸べる。手、繋ぐのか。少し緊張しながら手を預ける。しかし、その手は玄関の段差を越えたところでぱっと離された。思わず獅子王を見上げる
「どうしたんだ?」
「
…
あ、えと
…
手、繋ぐのかと思った」
「あ~、
…
繋ぎたいけど。まだかな~って、思ってさ」
何がまだなのかは、聞かないで置くことにした。おそらく、私の気持ちのことだったから。
花火大会はかなり賑わっていた。屋台がたくさん出て美味しそうなものが所せましと並んでいて、ふらふら目移りしてしまう。
「あっ!あれ!あれ食べよう獅子王!」
「どれだ?」
「たい焼きクレープ!」
「うお!美味そう!」
来るまでの不安はどこへやら、獅子王と屋台を巡るのはとっても楽しい。もぐもぐとクレープを口に運んでいると、前からやってくる人に気づかずぶつかってしまった。
「わぁ!!ごめんなさい!」
「いや、俺も前を見てなかった。すまん」
聞き覚えのある声にばっと顔を上げると、目の前にいたのは薬研藤四郎だった。どきり、とクレープを握る手に力が入るが、良く見れば、うちの薬研ではない。ほっと肩の力が抜けたところで気づいた。やば、クリームが
…
!!
「あ、あの!ごめんなさい、貴方の浴衣にクリームが
…
!」
「ん?
…
あぁ、別に気にすんな。洗えば落ちる」
「でも、シミになっちゃうんじゃ」
「いいさ。もう着る機会もない」
吐き捨てられた言葉に驚いた。ぶつかって悪かったな。そう言って、薬研藤四郎は人ごみの中に消えていった。
「主、もうすぐ花火の時間じゃね?」
後ろから獅子王に声をかけられてハッとする。腕時計を確認すれば、あと15分ほどで花火が始まる。うわ、こんな場所にいたら綺麗に見えないよ
…
!
「ほんとだ
…
!どうしよう、どこか見やすいところに移動する?」
「そーだな~。川の方に降りようぜ!」
「おっけ!行こう!」
人ごみをかき分けて屋台の隙間を抜ける。堤防を下れば、砂利が敷かれた河原に出た。
貸し出しされていたレジャーシートを持ち、どこかいい場所がないかとうろうろしていると、木陰の方から、泣いているような声が聞こえた。気になって、足を進める。主?とこちらを呼ぶ獅子王の声が少し遠い。
そこにいたのは、あの女の子と、うちの薬研だった。女の子は泣いていて、薬研がそっと頭を撫でている。目にした瞬間、息が止まって、何の音も聞こえなくなった。女の子が薬研に抱き着く。あ。自分の口から、声が漏れた。ざり、と後ずさった音に気付いた薬研が、こちらを向く。目が、合った。
「え、ちょ、主!?」
どこいくんだよ!と叫ぶ獅子王を置いて、砂利の中を走り出す。審神者になってから草履は履きなれてしまった。堤防を駆けあがって、人ごみに紛れ込む。息が苦しかった。どんっと勢いよく誰かにぶつかってしまい、思いっきりしりもちをついた。
「うわっ!!とっ、なんだ!?」
「あれ!?大将じゃん!大丈夫!?」
「大将~、ランニングでもしてたのか?」
体当たりしてしまったのは、うちの本丸の厚だったようだ。驚いて涙がひっこむ。立てずにいると、信濃と後藤が腕を掴んで引き上げてくれた。さらに信濃はぽんぽん、と浴衣に付いた砂まで払ってくれた。優しい。
「あ~る~じ~!!
…
あ!?お前ら何してんの?」
「あ、獅子王さん!ちょっと~そっちこそ大将ほったらかして何してるの!」
「主が急に走り出したんだって!
…
あれ?お前ら三人か。薬研は?」
どきり。薬研の名前が急に出てきたため、止まっていた涙が再びじわじわと溢れてくる。
「薬研ならさっき、知り合い見つけたってどっか行ったけど
…
って、大将!どうしたの?おしり痛かった?」
我慢できずに零れてしまった涙を見た信濃が、頭を撫でてくれる。しなの
…
、耐えられなくなって抱き着こうと手を伸ばしたところで
「大将!!!」
と私を呼ぶ薬研の声がした。
反射的に声がする方を見る。薬研が、人ごみをかき分けながらこちらに向かって走ってくるのが見えた。え?薬研?と驚いた声を上げる信濃をすり抜けて、反対方向へと走って逃げる。
再び屋台の隙間を抜けて、河原へと降りた。そのまま砂利道を走ると、ぴりっとした痛みに気づいた。止まって足元を見ると、指の間から血がにじんでいた。
ひゅるるるるる
――――――
どぉん
頭上で花火の音がする。わぁ、と少し遠くから歓声が聞こえる。
思わずしゃがみ込んで、ぎゅっと浴衣を握りしめた。
「
―――
っはぁ、はぁ、
―――
大将」
びくっと肩が揺れる。
ざり。薬研がこちらに近づいてくるのが分かる。足は疲れ切っていて、もう立ち上がれなかった。薬研を視界に入れるのが怖くて、目を瞑って顔を伏せる。彼はしゃがみ込んだままの私の正面にやってきて、同じく膝を折ったようだ。そっと頬に手が添えられる。
「顔上げてくれ、大将」
「っ、やだ」
「なぁ」
「どっか、いっ
―――――
」
て。ぐいっと両頬を持ち上げられて、顔が上がる。思わず目を開いた。薬研と目が合う。少し困ったように眉を寄せているが、どう見ても
……
嬉しそうだ。は?予想と反する薬研の表情に、呆気にとられて涙が止まる。
「
…
なんでわらってるの」
「
…
ん?あぁ、すまん。顔に出てたか
…
」
少し視線を逸らせた薬研の頬は、いつもより赤い
…
気がする。さっきまでのもやもやは、どこかに吹っ飛んでしまっていた。薬研がこちらに視線を戻す。やっぱりその目は、嬉しそう。
「妬いたんだな?」
「
…
は!?」
「ようやく、この間、大将が怒ってたことに合点がいった。なるほどなぁ」
「はい!?ちょっと、急に、なんなの!?」
一人で納得している薬研を前にしてたら、どうにも恥ずかしくなって、ぐいぐい下がろうと試みるが顔を掴む手はびくともしない。あぁ、そういえば言ってなかったな。そう呟いた薬研は、これまた幸せそうに笑った。
「好きだ。大将」
つん、とまた涙が出てきた。
すき。好き。『好き』!!
「う、っふぇぇぇぇぇ、わた、私も、私も薬研が好きぃ、っ」
「泣くな泣くな」
頬を抑えていた手を片方外して、薬研は優しく私の頭を撫でる。おそるおそる両手を持ち上げていくと、気づいた薬研がぎゅっと引き寄せて抱きしめてくれた。すとん、と地面に座り込んだ薬研に体重を預けて、こちらも力いっぱい抱きしめる。
「薬研、好き!大好き!」
「ん。俺も大好きだ、大将」
そっと薬研と目を合わせる。やわらかな藤色の瞳は、いつもよりずっとずっととろけていた。薬研の手が、うなじをすっとなぞって後頭部へ回った。自然と近づく顔に目を閉じる。
ゆっくりと唇が触れる。それは、とても甘くて、優しかった。
どぉん、と打ちあがる花火の音が、ずっとずっと遠くに聞こえた。
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