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botanin5
2024-11-14 02:55:10
41522文字
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薬さに♀(小説)
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そして好きを知る
ハッピーエンド
・獅子王→女審神者の表現があります。
・軽めですが、戦闘の描写があります。
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もう夏だ
ひびが入った左腕のギブスが取れて、秋田をだっこしてもびくともしないほどに回復した。
これで何もかも元通り
…
って、言いたいところなんだけど!!このひと月で大きく変わってしまったものがある。
「大将。荷物は俺が持つ。治るもんも治らねぇぞ」
「こら大将、いくら暑くなってきたからって、そんな薄着でうろつくな」
「おっ大将、今日は髪結んでるのか。似合うな」
「団子買ってきたんだ。一緒に食わねぇか、たーいしょ」
よぉ大将、なぁ大将、たいしょうたいしょうたいしょうたいしょ
…
薬研の距離がどうもおかしい!
最初は、左腕を気遣ってくれているんだなと嬉しく思っていた。近侍であるがゆえ、たいていは自分の側にいてくれることも、今まで通りと言えば、そうだ。しかし、段々あれ?なんか変だぞ?と感じ始める。段差の前で、手を引いてくれるようになった。朝、起こしに来てくれるようになった。休憩時間も、執務室から出て兄弟の世話をしにいくことが格段に減った。そして、これまでは私が薬研を探していたのに、今度は薬研が私を探すようになった。これは一体どうしたことか。
いつもの日課である刀装作り。薬研が作ったものを布きれで磨いていく。彼は黙々と作業をこなしているが、半年前より確実に座る位置が近くなっていることを意識してしまって、集中できない。
「ねぇ、薬研」
「なんだ?」
「ちょっと近くない?」
「そうか?」
「近いよ!さっきから肘が当ってる!」
「別にかまわんだろ」
いや、かまうよ!私の心臓が!
平然と私の心を乱す薬研に、すっかり参ってしまっていた。
もう一つ。気づいたことがある。目だ。私を見る薬研の目が、以前よりずっとずっと柔らかくなっていた。甘いチョコレートを溶かして、上からはちみつをかけたようにどろっとしていて、直視できなかった。薬研の中で何かが変わったことを告げる藤色のそれは、私を動揺させた。
ここで思い出していただきたい。
そう。私は薬研のことが『好き』だったはずだ。
今までの私だったら『好き』だと思う相手に『好き』を返されたら、大喜びで小躍りしてその手を取っただろう。でも、今回は、何か違う。薬研を見れば、その種類はどうあれ私への好意が格段に高まっているのは明らか。なのに、私は今までみたいに自分から薬研を追いかけることができなくなっていた。薬研がいると、苦しくて、恥ずかしくて、でも嬉しくて、温かくて、ぐしゃぐしゃにかき混ぜられる気持ちで、おかしくなりそうだった。自分が自分じゃないみたいで、頭がぐるぐるした。
今回の『好き』は、なにか、違う。悲鳴を上げる私の脳みそが選んだ答えは、逃げる事だった。
「ねぇ、あるじさ~ん。最近、薬研の遠征多くない?」
「そ、そうかな」
「多いよ!ボクこんなに近侍を頼まれたことないもん」
あるじさんのお手伝いできるのは嬉しいけどさ~、と作業に戻る乱にどぎまぎする。露骨すぎただろうか。薬研を遠征に出す回数は、意識的に多くしていた。心臓がもたないのだ。薬研は特に怪しむ様子もなく、わかった、といつも隊長を引き受けてくれる。
心に余裕を持つ時間を多くとれるようになった半面、比例して増えていくものがあった。薬研の土産だ。必要ないと伝えるのに、「俺が大将に渡したいんだ。ちっとばかし付き合ってくれ」と聞いてくれない。それは食べ物ばかりで、どれをとっても美味しくて、実を言えば密かな楽しみになってしまっていた。若干、体重が増えたことは、気のせいだ。細かいことを気にするのはよくない。うん。
「悪くなかったぜ」
「あ!薬研じゃん、もう帰ってきたの?おかえり~」
「今日の代理は乱か」
「今日も、だよ!」
「薬研、おかえりなさい」
「おう、資材は倉に運んどいたぜ。これは土産」
ぽん、と手に乗せられたのは、可愛い包みに入った金平糖だった。美味しそう!思わず笑顔がこぼれる。
「きれい
…
ありがとう薬研!」
「ん、大将のその顔が見たかったんだ」
「薬研~ボクにはないの?」
「お前らへの土産は広間に置いてきてる」
「え!?早く行かないと食べつくされちゃう!薬研、近侍交替!あるじさん、ボク行ってきてもいい?」
「もちろん!ありがとね乱」
また後でね!と廊下へ飛び出す乱を見送って、はた、と気づく。あ、二人っきりになってしまった。薬研は先ほどまで乱が座っていた座布団にゆっくりと腰を下ろした。
「遠征、どうだった?」
「いつも通りだな。今回は鶴丸がいたおかげで寄り道が増えちまったが」
「鶴丸は外へ出るの好きだもんね」
大丈夫。普通に話せている。ほっと息をついて、少し足を崩す。金平糖の包みを開けて中身を小さな和紙に転がす。ひとつ摘まんで口に入れた。甘い。
「美味しい。いつも悪いなぁって思ってはいるんだけど、段々楽しみになってきちゃって」
「それでいいさ。俺が大将に美味いもん食わせてやりたくて勝手にやってることだ」
「
…
でも最近ちょっと、太ってきたんだよね」
「そうか?」
「へぁ!?」
困ったなぁ~なんて金平糖をもう一つ口に含んだところで、薬研に頬をつままれた。
「大丈夫。柔らかくて気持ちいいぜ」
「ひー!それがダメなんだって!てか急になにするの、金平糖出るとこだったよ」
「おっとそりゃ失礼」
びっくりした。指が離れた頬が熱い。
「でも、本当に美味しい。薬研はすごいね、お土産にくれる食べ物、いつもおいしいよ」
「あー、遠征の帰りに寄る店がいつも同じでな。そこの看板娘と顔なじみになっちまって、どれが美味いのか教えてもらってんだ」
ちくり
小さな針が、胸に刺さった気がした。そうなんだ。薬研が自分以外の女の子と話をする場面は、上手く想像できなかった。金平糖が、少し色あせてしまった気がする。そう思ってしまったことがなんだか悲しくて、落ち込んだ。さっきまで軽かった心臓が、重く感じる。
「大将?」
「
…
薬研に選んでいてほしかったな」
「
…
ん?」
あ、口に出してた。場を繕うようにさっと立ち上がる。このままだと、あまり良くないことを言ってしまう気がした。もうすぐ夕ご飯のはずだから、私、手伝ってくる!薬研は休んでて!!そう叫ぶように伝えて執務室を後にした。
「手伝いにきたよ!」
のれんをくぐって台所に突入すると、そこにいたのは椅子に座って火にかかった鍋をぼーっと見つめる獅子王だけだった。料理はもうほとんど出来てしまっているようだ。こちらを向いて、あ、主か
…
と言う獅子王はなんだか覇気がない。そういえば、このひと月は薬研がべったり張り付いて世話をしてくれたこともあり、あまり獅子王と顔を合わせなかった気がする。
「あんまり元気ないね」
「んー、そうだな」
「なにかあった?」
隣に座ってそっと尋ねる。獅子王は鍋をじっとみたまま言葉を発さない。どうしたんだろう。彼は、私の前ではいつも明るい笑みを絶やさないから、焦る。誰かと喧嘩でもした?それとも私がなにかしちゃった?獅子王の視線を追って、鍋に目をやる。大きな業務用の鍋のふたが、振動でコトコトと小さく音を立てている。今日はカレーらしい。獅子王がこちらを向いたことが気配でわかる。視線を合わせると、大きなグレーの瞳がじっと私を見つめる。
「あの雨の日」
「雨の日?」
いつのことだろう。梅雨が明けたのは半月ほど前だ。それまではほぼ毎日が雨だった。
「主と薬研が抱き合ってたの、見た」
あの日の記憶が蘇って、一気に体の温度が上がる。自分の瞳が揺れたのが、分かった。
「やっぱ、主は薬研のこと、『好き』なんだろ?」
「
…
そう、なのかな」
「まだ、自分でもわかんねぇの?」
わからない、のだろうか。理解しようとしていないだけかもしれない。
視線を落として、膝の上で握りしめた自分の手を見る。そこに、獅子王の手が伸びてきた。ぎゅ、っと手を握りしめられる。思わず顔を上げた。獅子王の瞳が、まっすぐこちらに向けられていて、少し怯む。
「俺は、主のこと、『好き』」
え。反射的に開いた口からは何も言葉が出なかった。獅子王は少しだけ笑うと、ふい、と横を向く。前髪に隠れて、表情が見えなくなった。握られたままの獅子王の手は、かなり熱い。
「主を見てたら、誰を追いかけてるかなんてのは
…
ずっと、分かってて。諦めなきゃなーって考えてたんだけどさ」
「ししお、」
「主が、まだ本当の『好き』を認めないんなら、俺も諦めねぇから」
再びこちらを向いた獅子王の目に射抜かれて、何も言えなかった。
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