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botanin5
2024-11-14 02:55:10
41522文字
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薬さに♀(小説)
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そして好きを知る
ハッピーエンド
・獅子王→女審神者の表現があります。
・軽めですが、戦闘の描写があります。
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本丸が始まってから一年経って今は梅雨の時期。迎え入れた刀剣男士の数は五十を超え、出陣先は夜戦が中心となっていた。薬研に近侍を任せるようになって半年。第一部隊の隊長としても頼もしい背中を見せてくれている。
今日も雨が降っていた。
新参者であった不動行光の練度が上がり、そろそろ三条大橋へ行く部隊に入れてみようという話になった。
不動にはまだ自暴自棄になる気があるのに、短刀だけで構成された部隊に組み込んで大丈夫だろうか。出陣を見送るために傘を差して外に出る。しかし、門の前に立ってもなかなか「いってらっしゃい」の一言が出てこなかった。
心配と不安が織り交ざった顔をしていたのかもしれない。不意に薬研が私の頭を撫でた。
「俺が面倒見るから大丈夫だ。大将は安心して帰りを待っててくれ」
「どーせ俺は、薬研に面倒みられなきゃ出陣もできねぇダメ刀だよ~っと」
「ちったぁシャキッとできねぇのか、よ!」
「げ!ケツ叩くんじゃねぇよ薬研!」
今から出陣するとは思えない気の抜けたやり取りを見て、ほっと肩の力が抜けた。大丈夫。薬研がいるんだから。笑顔で見送って、笑顔でおかえりを言うんだ。
「よし!不動、出陣先でいつまでもお酒飲んでちゃダメだからね?誉取ってきてくれると嬉しいな」
「ん~俺はダメ刀だからな~」
「いざという時はできる子だって知ってるんだから」
「ひっく、はいよ~」
「大将」
「はいはい、薬研。
…
信じてるからね。ここで待ってる」
「おう」
じゃ、行ってくる
うん。いってらっしゃい
不動の襟を掴みながら第一部隊を率いて薬研は門の暗闇へと消えた。
ここはまだ日が高いのに、門を挟んだ向こうは、夜だ。
執務室に戻ると、近侍の代理を引き受けてくれた獅子王が通信機器の用意をしてくれていた。
賽子や陣形選択など、出陣している部隊とは常に連絡を取っていなくてはならない。傷ついていく彼らの様子をただ見守ることしか出来ないのは苦しいが、何も知らずに傷ついた彼らを迎え入れるだけよりはいくらかましだと己を奮い立たせる。一年経ってみても、戦に慣れることなどなかった。顔を引き締める私を見た獅子王が呆れたように声をかけてくる
「主、いっつも気ぃ張りすぎ。」
「だって」
「俺らまで緊張しちゃうだろ~」
「
…
ごめん」
別に悪いことじゃないんだけどさ、と獅子王は自分の横に座布団をぽんっと置いて、私の手を引いて座らせる。
「主が俺らのこと信頼してくれてるのはよく分かってんだけど。ちょっと過保護だよな」
「え、そうかな
…
いや?」
「全然、いやとかじゃないって。まー、中傷で途中帰還は物足りねぇ~!って思うこともあるけど。お守りくれてんだしさ、もう少し冒険してみてもいいと思うぜ」
「う~ん。そうは言ってもなぁ」
全て数値化されているとはいえ、予想通りに敵が動いてくれるとは限らない。重傷になるまで粘らせてしまった事は何度もある。しかし、帰ってきた時の苦しそうな声。痛みに歪む顔。手入れ部屋を一瞬で満たす血の香り。それらを目の当たりにするたびに、泣きたくなるほどの後悔に襲われて、私も苦しくなるのだ。皆のためを思う気持ちもあるが、自分を守るためでもあった。ずるいのかもしれない。
「特に、主は薬研のこといっちばん信頼してるわけだしさ~。ちょっと妬けるけど」
「へ!?いや
…
その
…
まって、信頼は同じくらいしてるよ。みんなのこと。ほんと。」
「そっか」
「そうだよ」
「じゃ、一番好きなのが薬研って言った方がいいか」
「はぁ!?」
なんだか今日は、いつもと違う方向へと話が展開している。常日頃の私の様子を見ていれば、薬研に好意を抱いていることは明らかだろう。うん。分かってる。それは分かってるけど。第三者に「薬研が好きなんだな」なんて、改めて言われたことは無かった。主はまた薬研にくっついて回ってるよ。飽きないね、って微笑ましいと言わんばかりの優しそうな目で見守られているばかりだった。
『好き』
……
『好き?』
「獅子王から見ても、私って薬研のこと『好き』なんだと思う?」
「思う」
「そうなんだ
…
」
「違ぇの?」
「いや、好き
…
なんだと思う」
「思う?」
「えっと、その
…
恋愛の意味での『好き』ってよく分からなくて
…
」
口ごもる私を獅子王が訝しげに見る。薬研のこと。他の刀剣男士に対する『好き』と違うのかと聞かれれば間違いなく「そうだ」と答えるだろう。恋愛の意味で『好き』なのか。それがどうにも分からない。そもそも恋愛の意味の『好き』ってなんだ?友達は『好き』にもいろいろあると言っていた。まだ一つの『好き』しか分からない私は、知らない気持ちを想像で差別化して比べるなんて芸当ができなかった。友達の言葉を思い返す。
(彼に自分のこと見てほしいと思う?)
薬研はいつでも私を見てくれている。優しく包み込んでくれている。うーんと考え込む私を眺めていた獅子王が不意に視線をそらす。
「好きとかじゃないのかもな」
「え?」
「そーだな
…
それは、あれじゃね。萌え」
「も
…
え?萌え?」
突然何を言い出すんだ。獅子王の口から「萌え」なんて言葉を聞きたくなかった気がする。このタイミングで言うからには、本来の意味である「草木が芽を出す」としての用途ではないだろう。萌えか
…
なんか久しぶりに聞いたなその表現
…
うーん。そんなにしっくりこないけど、そうなんだろうか。
「つまり、主はまだ恋をしてないってことだと思うんだよ」
「へ?
…
あーそう?なの、かな?」
「そう」
獅子王の声のトーンがいつもより低い気がする。
視線をこちらに戻すから、目が、合う。
なんだろう、変な空気だ。なんだか、ここに、居づらい
…
ような。逃げたい。そわそわと視線が彷徨い始めた私へと、獅子王の手が伸びる。
え、なに。
その手はそんなに大きくないけれど、男性を思わせる節くれだった少し硬い指が私の頬を撫でる。
「こっち、見ろ」
「し、しお」
「俺は
―――
」
『大将、着いたぜ』
獅子王が何か言いかけた瞬間、第一部隊からの通信が入った。獅子王の視線が私から外れて通信機器に向けられたことにほっとする。いつも通りの空気に無理矢理戻して、戦へと気持ちを切り替える。
「薬研。みんないるね?」
『見ての通りだ。不動もしっかり連れてるぜ』
『ひっく、うるせ~』
「じゃあ、改めて。出陣しよう」
『血が
―――
ぎる
――
』
「薬研?」
『なん
――
通し
―――
調子が悪いみてぇだな』
「うそ
…
どうしよう。戻ってくる?」
『おいおい、ここ
――
で来
―
何言ってん
――
』
「でも」
『大丈
――
だ。いつも通り賽子
―――
くれ』
「うん
…
」
通信機器の調子が悪いようだった。前日に政府から配付されたばかりの新品なのに、どうしたのだろう。不安が募る。ぎゅっと胸元を掴んでいると、獅子王がスッと立ち上がった。どこに行っちゃうの。私は縋るような顔をしていたのだろう、彼は苦笑いして
「温かいお茶、歌仙に入れてもらってくる。すぐ戻るからさ」
ぽん、と私の頭に手を乗せて、部屋を出て行った。
獅子王の気遣いに感謝しながら、出陣を進める。通信機器の異常以外にこれといった問題は無かった。順調に敵陣を攻略していく。高速槍の出現によって怪我は避けられないが、今回は受けた攻撃が上手く分散していて、敵の本陣に近づくころになっても中傷者はいなかった。これなら、大丈夫そうだ。入れてもらったお茶にようやく手をのばすと、すっかり冷めてしまっていた。
『勝っ
――
ぜ。たーいしょ』
「うん。っは~~、今回もみんな無事でよかった!!」
無事に敵将を撃退し、部隊に帰還指示を出す。戻ってきたら通信機器を修理しないといけない。
よし!と立ち上がって、お茶を持ってきてくれてからずっと隣に居てくれた獅子王に声をかける。
「みんなを出迎えに行こっか」
「おう!」
いつもの笑顔だ。ちょっとだけほっとしながら、門へと向かう。早くみんなの顔が見たい。
「主君!ただいま帰りました!」
「あるじさ~ん、ボクお腹空いちゃった」
「オレも!主さん、飯できてる?あ、蛍~ただいま!」
「大将ぉ~、早く手入れしてお願い!傷が残ったら嫌だよ
…
」
「ひっく、ただいま~っと」
「帰ったぜ」
「みんなお帰り~~!」
最終的に、信濃と不動が中傷になってしまったようだが、みんな元気そうだ。よかった。勢いよく飛び込んできた秋田を抱きしめる。
「ご飯もうできてるけど、先に手入れしなくちゃ。あ、愛染は無傷か
…
良かった。じゃ、食堂行っておいで!ちゃんと手を洗ってね。他のみんなは手入れ部屋に行くよ!」
「よっしゃ!」
「は~い。あるじさん、秋田はボクが連れてくよ。信濃もほら、行こ」
「はい!」
「え、乱ちょっと待って!」
騒がしい一団が本丸へと入っていくと、なにやら口をもごもごさせて視線を彷徨わせる不動と苦笑いしている薬研が残る。
「どうしたの?二人も手入れ部屋に行かないと」
「ちょっと時間くれ、大将。ほら、言うことあんだろ不動」
「
……
」
薬研が不動の背中をポンと押すと、意を決したように顔をあげた。
「
…
誉、取った」
「っふ
…
大将、今日は不動が一番多く誉取ってたろ。あんたに言われたから、こいつ張り切ってたんだぜ。褒めてやってくれ。」
「張り切ってねぇよ!」
薬研に言われて不動が声を荒げる。その顔は真っ赤だ。きっと、酔っているだけではないその様子がなんだか微笑ましくて、不動を思いっきり抱きしめる。
「偉いね!!やっぱりダメ刀じゃないんだから、もっと自信もとうよ!」
「ひっく!げほっ、ややややめろよ離せって!」
「ん~~不動偉い偉い!」
「
……
たいしょ」
「はいそこまでー!」
焦る不動が可愛いくてすりすりと頬ずりしていると、後ろに控えていた獅子王に止められる。そんなぁ。名残惜しいが手を離すと、不動は耳まで真っ赤にしてキッと私をひと睨みし、本丸の中へと駆けていった。
「
…
褒めてただけなのに」
「主は短刀をほいほい抱きしめるの止めた方がいいと思うぜ」
「えっ!嫌だよ!」
「せめて、秋田とか小夜とかちっさい奴だけにしねぇ?俺の心臓に悪い」
「なんで獅子王の心臓に影響すんの」
だからさ~と頭をかく獅子王から視線を外して先ほどから動かない薬研を見る。こちらへ向けて少し上げた自分の手を眺めて、不思議そうな顔をしていた。
「薬研、どうかした?」
「あぁ、いや
……
俺も腹減ったな」
「そっか、じゃあ早く手入れ終わらせてご飯食べに行こう」
「おう」
「じゃ、俺は先にメシ行ってるからなー主、薬研」
薬研と二人で手入れ部屋へと向かう。出陣中の不動の様子について話を聞いたが、みんなとも上手くやっていたようだ。よかった。調子の悪かった通信機器を受けとる。これは明日の出陣までに直さなくてはならない。今夜は寝る暇がないかもしれないな
…
と静かに覚悟を決めていると、突然薬研が口を開いた。
「大将、俺のことは抱きしめてくれないのか?」
「えっ、なに、急に」
「さっき不動が誉を取ったからって抱きしめてたろ。でも、俺が誉取っても抱きしめてくれたことねぇなと思って」
「そうだっけ?」
「あぁ」
正直に言おう。全然自覚がなかった。
え?まじで?私、薬研のこと抱きしめたことなかったっけ?ここ数か月の記憶を辿ってみたところで冷や汗がでてきた。たしかに、ない
…
!
常日頃から薬研に対して猛烈な好意を顕わにしておきながら、手入れ以外で自分から薬研に触れたことは、初めて馬当番を手伝ったあの時以来ずっと無い気がした。いや、肩を叩くことくらいはあったかもしれないが、記憶には残っていなかった。
「えっと
…
じゃあ
…
今、抱きしめようか
…
?」
「いいのか?大将は、俺を抱きしめる事に抵抗があんのかと思ってたぜ」
「そんなわけないじゃん!」
だって、私は、薬研のこと『好き』なんだよ!?
…
たぶん。
でも、『好き』な相手には触れたいと思うもの、なのではないだろうか。そう考えると、おかしくないか、今までの自分。手をつないだり、抱きしめ合ったり、それからそれから、キス、とか、を
…
したいと思うものではないだろうか。
やっぱり、私の『好き』は
――――
「大将?」
はっ
また考え込んでしまった。目の前の薬研は不思議そうな顔をしてから、気が進まねぇなら別にいいぞ、と苦笑いした。いやいやまって、そんなことは断じてないのだ。
廊下の少し先を歩いていた薬研の隣に移動して向き合う。薬研は大人しく待ってくれている。えっと、抱きしめれば、いいんだ。抱きしめよう。えーと、手を伸ばして、身体を寄せて、そっと背中に手を回すだけ。簡単だ。さっき不動にしたばかりじゃないか。
うわ、薬研、髪の毛サラサラだな。肌も白い。首のラインと、その後ろから、ちらりとのぞく襟足。小さな耳。あ、軽傷を負ってるから、頬に切り傷ができてる。それすら綺麗。少し開いた薄い唇。
そして、やわらかな、藤色の瞳
――――――
あ、だめだ。これ、無理だ。
恥ずかしい!!!
カッと自分の顔が熱くなる。頭がクラクラする。やだ、なんで。薬研の視線を避けたくて、恥ずかしくて、咄嗟に自分の顔を両腕で隠す。涙が出そうだ。どうしよう。じりじりと後ろへ下がる。腕の隙間から見えるのは薬研の足。視線を上げることが出来なくて、このまま逃げる!と身を翻そうとしたところで、
ぐっ、
と右手首を掴まれてしまった。
誰に?当然、目の前にいるのは薬研藤四郎だ。手袋越しに伝わる薬研の手は熱かった。なにがおこった?全然頭が回ってくれない。言葉を発する間もなく、そのまま腕を引かれて薬研にぎゅっと抱きしめられた。熱い、あついあついあつい!感じる熱量が自分のものなのか、薬研のものなのか、もう分からなかった。薬研の顎が肩に乗っている。いま、全神経が、肩と、腰に回されている薬研の右手に集中している。息を吸えば、少しの火薬と汗のにおいがして、私の脳を痺れさせた。動けずにいると、薬研は掴んでいた私の手首を離して、そのまま左手を今度は私の頭に回す。逃げ場がない。あつい。恥ずかしい。心臓の音、薬研に聞こえちゃってるんじゃないの。いや、もう、心臓出る。だめだ!!
叫び出しそうになったところで、ぱっと薬研が離れて私を開放した。呼吸がままならない。なんだこれ。目に涙が浮かぶ。ふらふらと後ろの壁にもたれた私を見た薬研はにやり、と笑うと
「先に行ってるぜ」
とあっさり廊下を曲がっていった。
は!?嘘
…
この状況で、何事も無かったかのように去っていったよあのひと
…
。私はそのまま壁に体重をあずけて、ズルズルと座り込む。
吐き出した息は、とても熱かった。
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