✣6章前半
『
……黒幕が誰なのか知ってる、って本当なのか』
俺たちはてっきり、ニシキが黒幕なのだと思っていた。
あいつは協力していただけだと言っていたけれど、苦し紛れの嘘なんじゃないかと疑っていたからだ。
だから、これでコロシアイは終わるんじゃないかと思っていたんだ。
オシオキを見届け、モノリィから家に帰っても良いと、そんな感じのことを言われるんじゃないかと考えていた時にそんなことを言われたから、驚くしかなかった。
四月一日「本当だよ。だって
……」
そこまで言うと、誘夢はびくりと肩を跳ねさせた。
まるで、なにかに怯えるかのような表情だった。
その視線を辿ると、モノリィがいて。
モノリィは立ち上がり、壇上から降りてくる。
初めての事だった。あいつはいつも、裁判が終わってもあそこから動かなかったのに。
そうしてつかつかと歩いて、誘夢の前で立ち止まる。
俺たちは、それを固唾を飲んで見守ることしか出来なかった。
モノリィ「四月一日さん」
とても冷たい声だった。
いつもと同じ表情だったけど、怒っていることは明らかだ。
バチン。
乾いた音が響く。
モノリィが何の前触れもなく、誘夢を平手打ちしたからだった。
🦄
四月一日「え
……」
頬がじんじんと痛みを訴える。
何が起こったのか分からなくて、涙が零れるのも構わずモノリィくんを見返した。
モノリィ「余計なこと言わないでもらえますか。これだから人間は
……」
私、黒幕の正体を知ってるの。
そう皆に告げたけれど、本当にそれを教えるつもりはなかった。
ただ、協力したかった。あの人たちの目的が達成できるように、お手伝いしたかっただけなのに。
私のことを信じてくれてなかったんだと分かったような気がして、悲しい気持ちになった。
モノリィ「裏切り者はいつまでたっても裏切り者のままなんですね」
四月一日「ちが、私
……」
ここにいた人たちを裏切って、可哀想な彼女のことも裏切った。何が違うんですか。とモノリィくんは続けて言った。
過去のことまで持ち出さないで、とか。それよりどうして知っているの、とか。色々言いたいことはあったのに、縫い留められてしまったかのように言葉が出なくて。
ここに来て、あの子が狂った原因を知った。あの子に薬を売りつけたその人のことを、好きになってしまった。
苦しかった。
幸せになって欲しい人が出来た。同じ人を好きになってしまったけれど、何よりも一番幸せになって欲しかった。
今でも、死んでしまったことが受け入れられない。
アームが私の首を捉え、そのまま上昇する。
来栖「モノリィくん!どうしてこんなことするの
……!」
高くなっていく視界に、背筋が凍った。
なんとか抜け出そうと、藻掻いてみるもそれは外れる様子はなかった。
モノリィ「彼女は裏切り者ですよ。あなたたちのことも俺のことも裏切った、そんな人のこと、生かしておけるんですか?」
なんだか皆揉めているみたい。
そのせいでアームが上手く操作できないのか、グラグラと揺れてしまって。
このままじゃ、真っ逆さまに落ちちゃいそうだった。
死んじゃいそうな高さだった。
でも、このまま死んだら楽になれるのかもしれない。
幸せになれるかもしれない。
矢張「このままじゃ本当に落ちちゃうぞ!喧嘩は辞めるのだ!」
理実ちゃんの声と同時に、首が絞めつけられる感覚がなくなった。
ふわりと、体が浮いた。
全部がスローモーションに見えた。
焦ったようなみんなの表情も、こちらに伸ばされる手も。
ねえ、死んだら先に行っちゃった皆に会えるのかな。来世では幸せになれるかな。
――――
誘夢が落ちた。
助けようとしたけれど、その手は届かなかった。
広がる血だまりを前に、どうして、と声がこぼれた。
あいつが何をしたって言うんだ。
黒幕を教えようとすることが、どうしてモノリィと俺たちを裏切ったことになるんだ。
モノリィも誘夢も、そんなことは教えてくれなかった。
まだ息があるのだろう、誘夢の肩が微かに動いているのを見て、希望が生まれた。
今、応急処置をすればどうにかなるかもしれない。俺たちの中に医療従事者はいないけれど、今までの負傷者も異常なほどのスピードで回復していった。
だから
……!
そんな光も握り潰すかのように、天井から槍が降ってきた。
過剰だと思えるほどの本数が誘夢の体に突き刺さっていた。
詠「うわ、危ないだろ
……!」
モノリィは我を失っているのか、槍の雨を降らせ続ける。
俺たちはそれを避けるので、精一杯だった。
ただ、ずっとそれを避け続けているのは流石に無理だったみたいで。
眼前に鮮血が舞った。
✣6章特殊死→四月一日誘夢様