✣1章
コロシアイ開始が宣言されてから、1週間が経った。
その間誰かが怪我をしたりすることも特に起きず。けど以前とは違い緊張感が漂っていた。
あんなに楽しそうに過ごしていたのに。
“もしかしたら”という疑念が消えないのだろうことがうかがえるような気がして、なんだか寂しい気持ちになった。
五光木「ミスタ晴空、大分動けるようになったんですね」
新庄「あ?
……まあ、そうだな。運動はまだ無理かもしれねえけど、普通に元気だよ」
晴空はもう普通に歩けるようになったらしい。
腹を貫かれていたのに、若いって凄いなと年寄りじみた考えをしてしまう。
紀もいつの間にか完治していたと言っていたし、羽宥葉も小さく跡が残っている程度だと話していた。
異様にも感じられる回復力が若さからくるものなのか、ダンジョン内だからなのか俺にはよく分からなかった。
このまま、何事もなかったかのように元に戻れればいいのに。
コロシアイなんて起きず、前と同じように平穏に過ごせればいい。
緊張感が解け始めているのを感じ、そう思った矢先のことだった。
モノリィが突然現れ、未だにコロシアイが起こっていないことを咎めるように話始める。
「このまま全滅されるとこちらも困る」というような主旨だったが、それなら外へ出してほしいと不満を抱いた。
「コロシアイなんてしない」。そんな主張を続ける俺たちに苛ついたのか、モノリィは顔を憎々しげに歪ませた。
黒い何かが振りそそいだのが見えたのに、俺はただ危ない、と声を上げることしか出来なくて。
モノリィ「3日以内にコロシアイが起きないようなら、次は本当に殺しますからね」
3日、という期限を告げて、モノリィは去っていく。
あまりにも短すぎるそれに、空気がひりつくのを感じた。
宙八覡「ちょっと貴方、なにしてるの!そんなことしたら悪化するに決まっているでしょう!」
神之「ご、ごめんなさい!」
御子は自ら杭を引き抜き、結果大量に出血してしまったようで怒られていた。
ファルマー「あらら、痛そ~
……」
来栖「大丈夫、なんともないよ!」
小鳥遊「無理する必要ないんだよ!」
涙を滲ませつつも笑顔を浮かべる希依音は、全然大丈夫そうに見えなくて。
……嫌な雰囲気だった。
険しい表情を浮かべる面々を見て、もう二度と何も無かった頃には戻れないのだと悟った。
🦄
手紙を書いておいて良かった、と思った。
自分のことを忘れられないように。死ぬまで自分の幻影に悩まされればいいのにという呪いも込めていた。
苦しんでくれたら御の字だという思いをさっさと行動に移しておいて、本当に良かった。
血液がどんどん流れ出て、寒くて寒くてしょうがなくなる。
震えてろくに動かせない腕を何とか持ち上げ、壁にメッセージを残す。
……本当にただでやられるわけにはいかないからね。
死を目前にしても、俺は笑いが止まらなかった。
唯々、俺がいなくなった後のことを考えていた。
🦄
今までにないほど楽しい体験をさせて貰ったわ。
いつバレてしまうのだろうって、私、ずっとドキドキしていて
……。
でも、それももう終わりなのね。
残念でしょうがないわ。もっともっと、このスリルを味わっていたかったのに。
葉々「
……それが紀サンのこと殺した理由なの
……?」
四月一日「がじゅ丸っ、落ち着いて
……!」
あらあら、大変。ミツバチちゃんのことを怒らせてしまったわ。
いきなり興奮すると危ないわよ、ふふ。
詠「お前
……悪いことした、とか思ってないわけ?」
小蜂「そんなことないわ。紀さんにはちゃんと悪いと思ってるのよ」
そう答えると、風雅さんは益々顔を顰めた。
答え方が悪かったのかしら。
ローゼ「
……それならどうして貴姉は笑っているんだ?」
ローゼさんに指摘されて、私は首を傾げた。
申し訳なさそうな顔をして謝れば、貴方たちは許してくれるのかしら。そう思ってしまったから。
モノリィ「
……そろそろ進めてもいいですか?罪が明らかになったクロは、オシオキをしないといけないので」
首にひやりとした何かが巻き付く。
それは力強く、私が引きずられていてもお構いなしのようだった。
暗い通路の先に、明るい光が見える。
きっと、あそこでオシオキされるのね。
死が待ち受けているという最高のスリルに、私は口角が上がるのを抑えられなかった。
―――――
矢張「これ
……そういえば、紀さんのとこにあって
……べ、別に隠そうとしたわけじゃないんだけど!我輩以外のもあったから、渡さないといけないって思ったのだ!」
裁判が終わり、解散しようとなった時のことだった。
理実は何かに追い立てられているかのような、そんな表情を浮かべながら数枚の手紙を出してきた。
相上「
……うん、実に彼らしい内容だったね」
服部「全く
……馬鹿なんじゃないのか」
手紙を受け取った内、おうじや晴空、煌来はそれを淡々と読み、懐へとしまった。
葉々「紀サン、まるで死ぬことが分かってたみたいな、そんな
……」
四月一日「そう、だね
……遺書みたいだった
……」
がじゅ丸はぽろぽろと涙をこぼし、誘夢はその背中を撫で慰めていた。
来栖「紀くん、良い人だったもんね。羽宥葉ちゃんも、別に悪い人じゃなかったのに」
コロシアイなんて起こらなければ、強制されなければ。
彼らはきっと。
そう考えると、やるせない気持ちになった。
俺はただ、楽しかった頃を反芻するしか出来なかった。
✣負傷→来栖希依音様、神之御子様
1章シロ→阿久津紀様
1章クロ→小蜂羽宥葉様