しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
Public 狛日
 
777071

狛日/ss集

狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。


策と士



人狼パロ:共有狛枝と人狼日向が恋人。
※ルール他、色々ガバガバなのはお許しください。



 空は白み始め、飼い主を三日前に失くした鶏が夜明けを告げる頃だ。狼の遠吠えも、とうに止んでいた。それでも住人の目覚めにはまだ早い――そんな時間、控えめに木製のドアを開く音。
 白いスニーカーを隙間から部屋に差し込み、続いて体を家の内側に潜り込ませると、そこでようやく日向はほっと胸を撫で下ろした。
「いらっしゃい、日向クン」
 日向に付いた狼の耳と尻尾に気がつかない筈が無いが、侵入者を家主、狛枝は気さくな挨拶とともに迎える。半日ぶりに見たその笑顔に、日向は毛並みの良い尻尾をブンブンと振って駆け寄った。
……狛枝」
 狛枝の身体に伸ばされる腕。その手が狛枝の背を拘束し、熱い息が首筋にかかっても、狛枝は動揺することもなく日向を抱き締め、頭を撫でた。
 何故なら狛枝は知っている。日向が、自分を殺せないことを。
「それで、今夜は誰?」
 日向の頭を撫で続けながら、狛枝は甘やかすように問う。今日は誰を食べたの、人狼にとっては致命的とも言える情報をしかし日向はあっさりと漏らした。
「西園寺だ」
「ああ、田中クンを占った西園寺さん、ね……うん、いいんじゃないかな。七海さんの予告先でもあるし、狐目隠しになるかもね」
 日向の回答を彼の腕の中で聞いて、狛枝の視線がゆったりと宙を泳ぐ。んー、と何度か唸りながら考えをまとめる彼は、不意に日向の肩を勢いよく掴むと、目を合わせられるくらいまで身体を離した。
「それなら、明日の吊りにはキミを指定するよ!」
…………は!?ま、待て、何言ってるのか分かってるのか?俺が吊られたら、」
「分かってるよ。だからその時、キミには狩人だと名乗って欲しいんだ」
 慌てる日向を、まあまあと手のひらで抑えた狛枝。ぱちり、と瞬かれた鶯茶色の瞳に愛おしげにキスして、狛枝は続けた。
「ただの推測だから、外してたら申し訳ないんだけど、一番最初の学級裁判、皆の第一印象で吊られた辺古山さんって多分狩人だったと思うんだよね」
「辺古山が……?」
「あれ、キミたちも気が付いてなかったんだね。それは好都合だ。この村に狩人は居ない。そしてキミはボクの指定を受けて七海さんを護衛した狩人として名乗り、ボクは他のグレーを指定する。確認だけど、小泉さんってクロじゃないよね」
「ああ。狂人でもないと思う……それなら、」
「うん。明日を乗り切ったら七海さんを噛んで、それでゲームセットだ」
………狛枝………
 作戦の内容を紡ぐ狛枝の笑みは、日向への慈愛をたたえて酷く優しい。彼の《相方》、もうひとりの共有にだって向けたことの無いだろう表情を独占出来ること、さらにその作戦の目的に、日向は嬉しさから瞳を滲ませた。
 七海を噛んでゲームセット。狛枝は、人狼陣営の勝利でこの戦いに幕を下ろそうと提案しているのである。
 勿論、狛枝と日向は恋人陣営であるので、決着がついた際に両方が生きていれば勝ちだ。が、出来ることならもう一つの自陣営の勝利に貢献したいというのは、この世界に生きるものの本能でもある。それを裏切っても、狛枝は、日向のいる人狼陣営を勝たせようとしてくれているのだ。
 狛枝への愛しさはそのまま衝動へと形を変えて、日向は狛枝に深く口付けた。昇り始めた日が差し込む部屋に、舌を絡ませ合う音が響く。狛枝の長い舌が日向のそれのザラつきを撫でる度に甘い痺れが身体を支配し、もっと欲しいと心臓が訴えるが、恋人たちの為に用意された時間は、然程長くない。
 名残惜しく思いながらも口を離して、日向は愛しき恋人に微笑んだ。
……狛枝っ、絶対、一緒に生き残ろうな!」
「勿論だよ日向クン!それじゃあ、また明日、一緒に勝利の日の出を見よう」
 最後に豊かな狼の尻尾をひと撫でし、狛枝は背を叩いて日向を外へ送り出す。朝日に溶けていく、人の形に化けた後ろ姿を見送って、狛枝は、小さく笑い声を上げた。
「ふふ、楽しみだなぁ……!」
 明日の夜時間、七海を噛んだ日向が喜びに舞い上がりながら自分の元を訪れる時が。そして共に朝を迎え、恋人陣営の勝利を告げられるその時が。……人狼側の勝利を疑ってない彼が、その時、どんな表情で自分を見るのか。
 狂信者と共に共有の乗っ取りに成功した狛枝は、日向の前で隠し通していた自らの黄色い尻尾をぱたぱたと揺らしながら、最後の裁判の始まりを待っていた。