しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
Public 狛日
 
777071

狛日/ss集

狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。


甘い餌を頂戴

※サキュバス枝×ヴァンプ向。ピクシブに投稿してた別シリーズの設定ですが、日向クンが新米吸血鬼で狛枝はえっちなことのエキスパートという認識さえあれば、読んでなくても問題ないです。



「じゃ、じゃあその……いただきます」
 遠慮がちな言葉の後に、手首に刺さるチクリとした痛み。普段より尖った犬歯で穴を開けた日向クンは、続いてぽってりとした唇を寄せて、ぎこちなく血を啜り出す。
 日向クンが血を吸い上げる度に、手首の傷がジクジクと小さな痛みを訴える。同時に感じるのは、傷口を舐る舌のぬめりと熱さ。潔く思い切り吸えばいいのに、変に遠慮しているせいで、喪失感のない痛みはまるで不器用な愛撫だ。
 忠誠でも誓うかのように手首に口づけている彼から、時々、喘ぎ声にも似た小さな声が漏れるものだから尚更。
 しかし残念ながら、彼にその自覚はないらしい。
 というか、自分がどんな表情で血を吸っているか自覚するどころか、ちゃんと思考能力が残っているのかも不明なレベルなんだよね。とろん、と据わった目は吸血鬼らしい赤色に煌めいて、血の池のような瞳の中で、水の光をゆらゆらと揺蕩わせている。
美味しい?」
 返事はなかった。
 予想通りの反応に思わず笑ってしまう。腕を拘束していた日向クンの両手を外すと、口から離れた腕の傷を彼は未練がましく目で追いかけた。逃さないとばかりに遠ざかった腕を追う彼の唇を、人差し指を押し当てて引き留める。
「これ以上は、ボクも倒れちゃうからさぁ」
 漸くこっちに向けてくれた顔は、意識を混濁させながらも不満をありありと浮かべている。うんうん、吸血中の日向クンは素直で可愛いな。素直じゃない日向クンも、それはそれで可愛いけどさ。
 息がかかるまで近づいても動揺しない彼に、安堵と惜しさを同時に覚えながら軽く唇を合わせる。開かせたくちのなかへ舌伝いに唾液を送り込むと、彼の喉仏が従順に動いて、胃の中へとボクの唾液を飲み下す。口の中が空っぽになると、今度は日向クンの方から舌を伸ばしてきた。
 ボクの体液なら、唾液すらも養分になることに気付いたのは、恥ずかしながら、彼と初めて『セックス』をしたつい先日になってようやくだ。
 もっと唾液を寄越せ、なんて唇をつついてせっついてくる日向クンに微笑ましさを感じながら、ご期待通りに口を開ける。途端に飢えた蛇みたいに舌が飛び込んでくるもんだから、それにはボクもびっくりだった。
 日向クンはうっとりと目を薄くして、ボクの口腔内をまさぐっている。最初は口中の水分を舐めきるように、舌と頬と、顎の裏側を隈なく探って。それから唾液の分泌を促してか、舌の横から先までをちろちろと舐めてはせっついた。
 体液の吸収によって興奮して赤く染まっていく頬や荒くなっていく息に、心を揺り動かされ、ボクからも舌を絡めると、日向クンがより強く唇を押し当ててくる。瞳は完全に閉じられて、ボクの食道を通して伝わる日向クンの興奮は、益々膨らん、だ……
 …………あれ、ちょっと待って。
 脳裏にふと浮かんだ疑念は、考えるまでもなくあるひとつの確信を生み出す。日向クンの肩を掴んで押しやれば、彼は困惑に瞳を揺らしてボクを見た。
…………?」
「日向クンさ、そんなにキス好きだったの?」
 完全一時停止。その三秒後、日向クンはベッドの上で器用に体を跳ねさせた。
…………は!?いや、何言ってるんだよ!?は、腹減ってたし、ちょっと夢中で吸い過ぎたところはあるかもしれないが、」
「だって途中から正気でキスしてたでしょ?」
 わたわたと、しどろもどろに拙い言い訳を繰り返す日向クンに告げれば、彼の顔は一瞬で沸騰する。
…………は、はあ!?!?!?そ、そそそんなわけないだろ!俺は無我夢中で血を吸ってたんだ、しょ、正直さっきまでのことも、ぼんやりとしか覚えてない……!」
「いーやそれは嘘だよ、日向クン。確かにキミが吸血行為で得る興奮は性的興奮と同一のものだ。事実、途中まではボクも唾液からの魔力で興奮していたように見えたよ」
 言葉を続ければ続けるほど、日向クンの目は忙しく泳ぎ始めた。シーツに触れる指先は、溺れたようにか弱く水面を掻いている。
 最早口を挟むことすら忘れて、図星を突く言葉を待つ彼の姿は、自分がそうさせているにも関わらず憐憫を誘う狼狽えようで、そして、自分がそうさせているからこそ、脳髄を痺れさせる欲情を湧き起こす。
「でもさ、」
 この続きを言えば、キミはどんな表情になってしまうのだろうか。勝手に吊り上がってしまう口角をどうすることも出来ずに、ボクは息を吸った。
「ボクが舌を絡めた途端に性欲が膨らむなんて、吸血鬼の本能ではないよねぇ?」
…………、!」
 思わず、といった風に喉の奥から漏らされた音が「あ」なのか「う」なのか、それとも他の文字だったのか、彼を抱き締めていない状態じゃ判別が付かなかった。体格の良い肩がキュッと竦められたまま力んで、ボクより小さく見えてくる。
「そう言えば、ボクのものフェラしてた時も、中出しされた時も、がっつくみたいに吸い上げてたね……普段吸血するときより興奮してたし」
 肩を剥がした時にはもう、いや、恐らくキスの途中には既に彼本来の鶯茶色に戻っていた瞳に、めいっぱいの水が溜まっている。もしボクがサキュバスじゃなくて吸血鬼だったとしたら、真っ先にこれを欲しがるんだろう。
「血よりもキスが欲しいなんて、えっちで可愛いね、日向クン」
…………う、ぅ」
 頬を伝ってシーツへ溢れる透明な水。今度は明確に聴こえた甘い声とともに、強張った指先でシーツをきつく握り締める様子が、彼の絶頂の癖と重なった。