しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
Public 狛日
 
777071

狛日/ss集

狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。


3ED後。酔っ払いオッドアイと義手枝くん。

その嘘を飲み干してあげる


 焼酎と日本酒、ワインの空き瓶が、カランとフローリングに転がっている。ベッド脇のサイドテーブルには、日向が作った、ポテトサラダを始めとしたおつまみの皿が綺麗にされた状態で、二膳のお箸と共に沈黙を保っていた。
その状態をベッドに腰掛けたまま眺めて、狛枝は「随分飲んだなぁ」とひとりごちる。
彼の手に握られたウィスキー入りのロックグラスから分かるように、狛枝は酒に弱くなく、寧ろ日本人という括りから見れば強い方に分類されるだろう。だが、そんな彼から見ても、飲み過ぎだと判断される量だった。
 狛枝ではない。
 狛枝が飲んだのはウィスキー二杯とワインがグラス三杯分の、いつも通りの量だ。
 それ以外ーーつまり残りのワインと日本酒と焼酎を瓶まるまる一本分飲み干したのは、狛枝の個室にいるもうひとりの人間、赤ら顔を狛枝の肩に押し付けながら危うげにお猪口を握っている日向である。
 日向が今回のように浴びるように飲むことは、珍しくはあるが決してないことでは無い。皆で酒を開けるときは付き合わされる分だけでも、狛枝と二人で飲む際は決まって瓶一本は開けて、今のようにぐでんぐでんの姿を見せてきたりもする。
 きっとそれは、皆、特に御手洗の前では見せられない「皆を引っ張る中心」らしからぬみっともない姿を、狛枝だけには見せてもいいのだと気を許されている証であり、悪い気はしないのだが。
 それでも。
「ほら、日向クン眠いなら寝なよ、ボクのベッド、使ってもいいから」
いつまでも右肩に日向の重みがもたれかかっている状態は中々によろしくなく、狛枝はグラスを置いた手で日向の肩を揺らした。ん、とむずがりながら持ち上げられた顔が、二つの色を宿した瞳がとろんと狛枝を見上げる。
「こまえだが、一緒にねてくれるなら、いいぞ」
……ボクはソファ使うから」
「だったらねないぞ」
「しょうがないなぁ、今回だけだからね」
 定番となったやり取りに、いつもの言葉で狛枝が折れて、日向の真っ赤な頬に笑みが浮かぶ。飛びつくように首に両手を回されて、日向の方へ倒れこむように引っ張られる狭間に、ベッドの端に畳まれた布団を掴む。そうすると、ギシリとシーツに沈むと同時に、二人を柔らかな布団が覆ってくれるのだ。
日向を押し倒すようにベッドへ倒れこんだ狛枝を、日向は改めて抱き締める。腕に込められた力の加減のなさは、子供のように知性の無い、酔っぱらいらしい仕草と言えた。
「こまえだあ
「なぁに」
「すきだぞ」
 彼の名前にふさわしい、正に「日向」のような笑顔。深紅と鶯色を潤ませながら、狛枝を見上げて甘い声で囁かれると、呆れつつも狛枝の心臓は大きく跳ねた。
「狡いね、日向クン」
 文句を抱きしめ返す腕の強さに変えて、狛枝は溜息をつく。
 その言葉に首を傾げた日向は、今度は狛枝の唇を指でなぞってキスを催促している。要求に律儀に答えて唇を重ねれば、触れ合わせた粘膜からぐらりと脳を揺らしそうなアルコールが香った。
 何度も繰り返されるキスの狭間に、日向の甘ったるい声が滑り込む。
「すきだ、こまえだ。なぁ、こまえだは?こまえだは、俺のこと、」
 ああ、もう本当に狡いな。
 キミが酔っぱらいのフリして言い逃げだなんてしなければ、こんな、一時の、キス止まりの関係から抜け出せるのに。キミがそんなんだから、
「ボクも、好きだよ」
 自分も、明日には忘れてしまう戯言のフリでしか伝えられないんだ。
 意気地なしへの苛立ちも全て日向の責任にして、狛枝は、目の前で幸せそうに笑む、未だ酔っぱらいのフリを続ける男へと、もう一度キスを落とした。