しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
Public 狛日
 
777071

狛日/ss集

狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。


狛日夢小説

夢小説ですが狛日です。狛日を見守る夢主♀の話。
夢主♀と狛枝、日向の間に恋愛要素は入りません。

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 一人の女性が未来機関の18棟の廊下を歩いていた。
 機関員である証のバッジを胸に着けた彼女が、5センチという、この機関に所属する女性にしては高めのヒールで廊下を闊歩する。
 足音は、ゴム製の床材が吸収してしまっていた。
 だから普段、彼女が書類を運びながら鼻歌でも歌ってない限り静寂なこの辺りは、今現在、二人分の男の声で賑やかである。
 この声を、彼女は良く知っている。
 ああ、またか――彼女は自然と痛むこめかみを抑えようとし、しかし書類でふさがっている両手を思い出して舌打ちをした。
 そもそも、自分がこんな量の書類を、ここから遠く、遠く離れた2棟からわざわざ運んでいるのは、ひとえにこの騒いでいる男のうち一人の”せい”、いや”ため”だというのに、当の本人は仕事をサボって雑談に興じるというのはどういう心境か。
 恐らく雑談なんて可愛らしいものではない実情からは目を背けつつ、彼女は辿りついた扉の前、ひときわに大きな声を響かせる扉の前に立った。
 両手は使えない、つまりノックは出来ない。
 しかしこのままスライド式の扉に足を引っ掻けてこじ開けるのも、足でノックするのも、上司のいる部屋を訪ねる対応としては些か不適当だろう。
 仕方なく、彼女は大きく息を吸って部屋の主に呼びかける。
「日向さん、書類をお持ちしました! 手数をお掛けしますが、扉を開けていただけないでしょうか!?」
 途端、ガタガタガタン!と大袈裟な物音が響き、その10秒後に扉は開いた。
 部屋の中から彼女にぎこちない笑みを向けたのは、目的である、彼女の上司の男だ。
 彼に書類を捧げるよう自分の肩まで持ち上げて見せれば、彼は彼女をここに呼んだ理由を今思い出したかのように、瞠目し、それを受け取る。
 少し、息が弾んでいた。
「わ、悪い!わざわざ有難うな!」
 それを誤魔化すように声を張り上げながら日向は、こんな僻地まで――と自嘲ともとれる笑みを向けた。
 何故ならここは、本部と同じ敷地にありながら本部棟からは一番遠い、隔離された場所であるからだ。
 ”元絶望”が勤務する棟として、ここは忌み嫌われていた。
 しかし彼女はそんなことを気に留めない様子で首を振る。
「日向さんが私の先輩であることに、変わりはありません」
 そう。
 いくら機関の中で、更には社会の中で、元絶望であった日向より、一般人としてなんとか生き延びてきた彼女の方が地位が高くとも、彼女にとって、彼が未来機関に先に所属していた先輩であり、そして、モノクマと名乗る数多の化け物に怯えていた、自分たちの故郷を救いに来てくれた存在であることに、変わりは無かった。
 絶望に身を染め、人々をもまた絶望へと叩き落としてきた彼らを許せるかと言ったらそう潔く割り切れるものではないが、あの地獄のような場所で、人は絶望に墜ちていなくたって、時に悪魔を凌ぐ恐ろしい存在になれることを、彼女は嫌と言うほど思い知らされていた。
 彼女の返答を聞いて、日向の瞳が落ち着ける場所を探して彷徨う。
 これが照れているだけでなく、こんな言葉をかけてもらう資格が無いと苦しんでいる仕草であることも、この一年ほどのやり取りで充分に知ってはいたが、だからといって知ったことでも無かった。
 自分はただ、事実を告げただけだ。
 だから、
……ありがとう、ゲロカスゴミクズ豚野郎
 その心中が決して穏やかでなくとも、ちっともそれを汲み取らせない柔らかな笑顔で礼を言う日向は、とてもお人好しな男だと、彼女は思う。
「いえ。それより、いくら私や苗木さん以外に人が立ち入らない場所だとしても、業務中に賑やかになりすぎるのは余りよろしくはないかと」
 日向の肩がビクリと跳ねる。
 同時に、部屋の奥で自らの腕や足に湿布や絆創膏を張り付けていた男が、クスリと噴き出した。
 廊下で聞こえた二人の声のうち、もう一人の声の持ち主だった。
「ごめんごめん、つい盛り上がりすぎちゃって……今日は何の議論だったけ、日向クン?」
「お前の義手に火炎放射を付けるか、否かだ」
 本来は日向が座る場所であろう椅子にわが物顔で腰かけ、日向に悪戯な笑みを向けてくる狛枝に、日向は視線も寄越さずムッスリと返答する。
「つけようよ!面白そうだし」
「ふざけるなよ!?お前、自分の才能忘れてないだろうな!?もし誤爆したらどうするんだよ!!」
「誤爆してもボクは死なないよ、義手は壊れちゃうかもしれないけど……あ、同行人はどうなっちゃっても知らないぁ」
 ま、どうせ日向クンだし別に気にすることないよね。
 あっけらかんと言い放った一言で、ついに日向は狛枝を振り向いた。
「どういう意味だよそれ!」
 後輩から受け取った書類をPCラックの上に逃がし、拳の関節をパキリと鳴らしながら、日向がより一層笑みを深くした狛枝に詰め寄る。
 その光景を無言で眺め、ゲロカスゴミクズ豚野郎 は溜息をついた。
 彼ら曰く、議論は彼らの日常茶飯事であるらしい。
 同じ支部の同僚である日向創と、狛枝凪斗は不思議な関係だった。
 趣味も感覚も思考も主義も噛みあわない彼らは、噛み合わず幾度と喧嘩を繰り返しながら、それでも共にいた。
 その理由の一つには、どうやら狛枝――髪の白い方の先輩の「幸運」の才能が関係しているらしいが、未来機関ではまだまだ新米の彼女に詳しいことは教えられず、ただ、共にいすぎて未来機関内でフォークとナイフ扱いされていることに納得して頷くばかりだ。
 毎日毎日飽きもせず、些細な事柄から彼らの議論はヒートアップする。
 今回に限っては些細とは言い難いが、だからと言って殴り合い掴み合い抓り合いにまで発展するのは「やりすぎ」であることに間違いは無かった。
 また一回、頭を殴られた狛枝の応急手当てが間に合ってない部分にも、狛枝に髪を引っ張られた日向のよれたシャツから覗く身体にも、付けられたばかりの生々しい痕跡が残っている。
 ゲロカスゴミクズ豚野郎は今度はしっかりと痛むこめかみを右手で抑えながら、今にも第2ラウンドまで発展しそうな彼らに向けて大袈裟に咳払いをして、存在を思い出させた。
「それでは、用事が済んだので私はここで失礼いたします」
 咳払いにぴたりと動きを止めた日向の方からぴょっこりと顔を出した狛枝が、扉に手を掛けた彼女に義手をひらひら振って笑いかけた。
「ごめんね、ゲロカスゴミクズ豚野郎さんに見苦しいところお見せしちゃってさ」
「構いません。それより、狛枝先輩」
 ゲロカスゴミクズ豚野郎は言葉を区切り、狛枝と目を合わせ、それから彼の視線を誘導するように横へずらした。
 後輩の存在を忘れて狛枝との喧嘩に没頭していた事実に動けない日向の方へと。
「流石にキスマークを傷として、喧嘩で誤魔化すのは無理があります」
……これだけ付けちゃったら、流石にね」
 無理だよねぇ、そう言ってへらりと首を傾げる狛枝にお辞儀をして、ゲロカスゴミクズ豚野郎は今度こそ扉を閉めた。
 廊下を歩くと、先程から可哀想な程ぷるぷると震えていた彼の、
「狛枝ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 という怒声が聞こえたが、やがてそれも、辛うじて耳に入ってきた突発的な水音と共に掻き消え、その後のことは、棟からも出ていってしまった彼女の知るところではない。