しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
Public 狛日
 
777071

狛日/ss集

狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。


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たぶん未来機関。


 いつもより、月の明かりが眩しかったせいだろうか。アラームも鳴っていないのに目が覚めてしまった。部屋はまだ暗い。カーテンの裾から青白い光が漏れ出して、床の木目を不気味に、あるいは神秘的に浮かび上がらせている。
……今、何時……
 サイドテーブルに手を伸ばして、携帯端末を手に取る。午前2時45分。これならもう一眠りできそうだ。ボクは、知らない間に腹に回された、ごつごつとした腕を、日向クンの温かな腕を撫でながら、欠伸に誘われるまま眠りについた。

 多分、恐らく。ここまでは、珍しいこともない、ただの日常だったのだ。



「なあ狛枝、いつまでもそうして座ってたって、仕方ないだろ?」
 いつになったら声変わりを終えるのか、ひょっとしてもう終えていてこれなのだろうか。少年のあどけなさを残した日向クンの声が廊下に反響する。
………………
……な?」
 遠くから九頭龍クンと左右田クンの話し声が聞こえる。足音が近く、もうすぐこっちに来ると分かっているにも関わらず、ボクの喉からは一切の声が出なかった。長いため息だけが漏れる。そうこうしているうちに、ボクたちに気付いた二人が、多分、ベンチにうなだれるボクとその前で困った顔で立ち尽くす日向クンの姿を見てだろう、怪訝そうにしながら駆け足で寄ってきた。
「ん? 狛枝……か? どうしたんだお前」
「なんだよ、腹でもいてぇのか?」
 あの島でのコロシアイを経験したクラスメイトの中でも比較的、ボクのような存在にも友好的に話し掛けてくれる九頭龍クンは、こんな時も日向クンに接するのと同じような態度でボクの肩を揺すぶって、それには流石に、少しだけ焦った。
「あー……九頭龍、それがさ、」
「あは、ごめんごめん。ただでさえ見苦しいのにこんな惨めな姿を視界に入れさせてしまって、本当に申し訳ないよ! でも大丈夫、二人に手間をかけさせるようなことは一切ないからさ」
 ああ良かった。
 いつも通りの声が出せていることに安堵しながら肩を竦めると、二人も微妙な表情をして一歩引く。どうやら、疑問を投げかける相手はボクじゃない、と判断したらしい。うん、正しいと思うよ。
「悪いな、九頭龍、左右田。その……昨日、こいつのこと寝ながらベッドから蹴落としちゃったみたいでさ。ご機嫌ななめなんだよ」
「は!? ね、ねえ、ちょっと日向クン」
 慌てて制止をかけるボクの声は、直後の左右田クンの悲鳴に掻き消された。
「だああああ! 結局朝からノロケ聞かされただけかよ!? っていうかなんでお前ら当然のように同じベッドで寝てるんだよ!」
「ったく人騒がせなヤツだな……おい狛枝、昼までには機嫌直しとけよ。日向も、あんま狛枝のこと乱暴にするなよ? お前らの筋量の差でそれやったら、いつか狛枝骨折るぞ」
 九頭龍クンの小さな手が、日向クンとボクの背を順番に叩く。バシン、と大きく廊下に跳ね返った音とその威力は、手の平の大きさを裏切ってかなり強く、ボクは思わず咳込んだ。ここは文句を言うべきだろうと九頭龍クンの方向を見るが、もうボクたちに焼く世話は無いと判断したのだろう、さっさと背を向けて、今叩いた手の平をひらひらと振りながら階段を下りてしまっていた。左右田クンは、彼の"喝"の威力に逃げ腰になって、それから憐れむような視線で、よろけたボクを見る。
「おいおい、大丈夫かよ……
「げほっ……ああ、まあ、慣れてるしな。それより、九頭龍のこと追いかけなくて平気か?」
「やっべぇ! 俺第三会議室の場所知らねぇんだよ!!」
 嵐のような慌ただしさで、左右田クンも階段を駆け下りていく。
 ……さて、これで暫く、人が来る心配もなさそうだ。
「なんだ、全然余裕だったじゃない。ほら、二人も気付いてないみたいだったし、『こんなところでいつまでも座ってないで』、いつも通りに過ごしてみようよ……日向クン?」
 ボクは問い掛ける。少年のあどけなさを残す声で問い掛ける。
 ベンチにうなだれる"日向クン"は、灰色の目でギッとボクを睨みつけた。

「狛枝、ちょっと黙っててくれないか」