しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
Public 狛日
 
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狛日/ss集

狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。

ゲロカスゴミクズ豚野郎ゲロカスゴミクズ豚野郎ゲロカスゴミクズ豚野郎ゲロカスゴミクズ豚野郎ゲロカスゴミクズ豚野郎ゲロカスゴミクズ豚野郎

ひなたんおめでとう2016


 テレビを見ながら喋っていた俺達の空間が、ふと静寂に包まれた。二人で時計を眺める。テレビの中、今年を振り返るアナウンサーの声が遠くなって、秒針が頂点へ集まろうとする音だけがやけに大きくリビングに響いていた。カチ、コチ、カチと、焦れったい程均等に刻まれたそれらが10回程リビングに響き渡ったとき、俺は時計から視線を外し、手元のお猪口に落とす。狛枝も同じように熱燗をなみなみと注いだそれを手に取り、俺に笑みを向けて、三、二、一。
 お揃いのお猪口が、テーブルの上で軽く触れ合った。
 無言で乾杯をして、一気に飲み干す。喉から心臓、血管を通って脳までに灼けるような熱が駆けた。
 そうして、年を改めたことを示した秒針がまた一周するまで、俺達の間に言葉はなかった。ここで言うべきことはあるのだが、それよりも先に言いたいことがあるし、聞きたいことがあるのだ。期待を籠めて向かいを見れば、俺とは違ってちょびちょびと中身を空にしていった狛枝が、俺の目線に気がついたように顔を上げて、ふっと笑む。
 アルコールのせいで、何時もより赤く色づいた唇が、ゆっくりと開くのを見る。そして。
「明けましておめでとう」
お前、本当に性格悪いよな」
 期待していた分ショックもデカいってもんだ。ジト目で睨めば、狛枝はへらりと笑った。
「だってそういう期待に満ちた顔されると、つい予想を裏切りたくなるじゃない」
 ごめんね?じゃないんだよ。そうやって首を傾げるのやめろ。血色が良くなったそこが広く晒されて動揺するだろ。
 深い溜息をついてしまう俺に、狛枝はくすくすと笑って徳利を傾けた。俺と狛枝のお猪口に二杯目が注がれる。俺は躊躇うことなくこれも一口で飲み干した。
「冗談だよ。誕生日おめでとう」
「軽い」
「んんぅ今日の日向クン、面倒臭いねえ」
 狛枝は困ったように眉を下げるが、だって仮にも”オツキアイ”をしている奴の誕生日だぞ。それなりに、心を籠めてくれたっていいじゃないか。
「仕方ないなあ。じゃあお詫びに、キミの好きな物なんでも買ってあげるから。ほら何がいい?時計?車?」
 それとも新居?面倒臭そうに指折り数えるこいつの頬を摘まんで強制的に言葉を止める。完全に黙ったのを確認して手を離しても、狛枝は憮然とした表情で俺を見ていた。
「別に、買ってもらうようなものなんて無いぞ」
「そうなの?欲しいもの無いの?」
……欲しいものはある」
「なぁにそれ……
 口を開いて、僅かに躊躇う。ああもう、本当はこんなに酒が回る前に言いたかったのに、狛枝のせいだ。
「今年も一年、お前の隣にいる権利をくれよ」
 こんなこと、酔いの勢いに任せてうっかり口をついただなんて、思われたくないんだよ。
 それが少しでも伝わるように、二杯目を飲み干した狛枝のお猪口を支える手を上から握る。
 それと俺を、交互に見て、狛枝はやがて顔を机につっぷして唸った。
馬鹿じゃないの……ボクが、そんな約束できるわけないじゃないか」
 一年の間に、君が死ぬかもしれないのに。
 涙のせいなのか、アルコールのせいなのか。憂いげな睫毛に縁取られた灰色の瞳は、僅かに潤んでいる。
「いいんだ。例えそれが守られなくたっていい」
 だから約束はいらない。ただ、権利と許可が欲しい。
「それだけでいいから」
……それだけって、ねえ」
 そんな軽いものじゃないんだよ、均整な顔をくしゃりと歪めて、それでもこちらに伸ばされた手に、頬が勝手に緩んでいく。
 狛枝は、俺の頬を手で包むと、机に身を乗り出して額を合わせた。
「心して受け取ってよ」
触れ合せた手と頬と額の、やけに熱いのは一体どっちの所為なのか。
分かるのは、その温度も、すぐ後に触れる筈の唇の柔らかさもこいつの全部が、この一年俺のものだということだ。