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しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
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狛日
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狛日/ss集
狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。
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4/28 10:00PM
「あ、そうだ」
日向クンが呟いたのは、別にボク達の知り合いの名前ではない。今思いついた、それくらいの軽いテンションで、ボクの為に奮発した鯛で作ったカルパッチョの皿を置いた日向クンは続けた。
いつも下がり気味な唇を、にんまりと持ち上げて。
「折角だし結婚式でもするか?」
ああ、いつになくノリノリだねキミ。
こんな風に朝から晩までふわふわ浮かれている様を見せつけられると、彼にとってボクの誕生日が、ボクに指輪を渡したのが嬉しいと言われているみたいで、こっちまで落ち着かなくなってくる。
勝手に温度を上げる頬を誤魔化すように頬杖をつき、ボクはつとめて平然とした笑みを浮かべていいね、と冗談交じりで返した。
「もちろん初夜までセットでしょ?」
途端に日向クンの笑顔は引き攣り、表情豊かな瞳が右往左往する。わなわなと震える口が、初夜ならもうとっくに済ませただろ
…
と小さく漏らすのがとても楽しかった。
「いいじゃない。ほら、ボクたちのハジメテって半分なし崩し的な感じだったし。この機会に膝を突き合わせてよろしくおねがいしますするのも中々乙なものだと思うけど」
「
……
どちらにしろ、飯食ってからだからな」
それ、了承と受け取るからね。
その言葉は胸に留めて、その代わりとしてボクはいつも通り手を合わせる。
「もちろん。いただきます」
彼の用意した夕飯は、昼に宣言しただけあっていつもより豪華で、それでいて味はいつも通り普通で、サラダのカットも肉の焦げ目も相変わらずだけど、それが喉に詰まるくらいボクに馴染んでいた。
今日は何もしなくていいと慌てる彼をたしなめて皿洗いをしていたボクが、緊張しながら最後の一枚を無事に棚に仕舞ってリビングへ戻ると、ソファを見下ろして唸る日向クンがいた。目線の先には黒と白、二つのタキシードがある。
「あれ、思いつきみたいな言い方しておいて、ばっちり準備してるんだ」
後ろから声を掛けると、ボクより少し広めの肩がビクリと跳ねて狭くなる。
「いきなり背後に立つなよ、びっくりしたぞ!?
……
それと、ちょっと違うぞ。これは前小泉に撮影用だったのを押し付けられたやつで、寧ろこれを思い出したから思いついたんだよ」
「ふぅん?スーツ二着の撮影って珍しいね」
「ブライダル衣装のレンタル屋のプロモーション撮影だったらしくて、お礼にリリース期間が終わったやつをくれたんだとさ。ドレスは女子たちの為に貰っておくからスーツはあげるって」
つまりは体の良い不要品払いってわけか。まあ、それが役に立つならボクらにとっては儲けもの、なのかな。
「で、日向クンはどっち着るの?」
質問に数秒固まった日向クンは、照れ混じりの声で黒を選んだ。流石無難思考だねと揶揄すると、お前には白を着てもらいたいから、とはにかみながら答えられたから、今度はボクが固まる番だった。
そしてやっぱりと言うべきか、これこそ流石と言うべきか。日向クンに黒い礼服は、とても、とても似合っていた。
「
……
お前ほどじゃないけどな」
髪の毛は軽く整えて、いつものスーツと一見変わらないジャケットの下には、同色のカマーバンドが巻かれていて、彼の引き締まった腹回りを強調していた。こんな時でないと着けないであろう蝶ネクタイは、意外と幼い顔つきを際だたせて、いっそあざといくらいだ。
それなのに彼はそんなことを言う。
真っ白なタキシードは確かに綺麗だと思うけど、ただでさえ白くてひょろいボクが着たら肌と服と髪の境目が分からなくなりそうだし、灰色のベストはボクには緩くて、身体からやや浮いている。どっからどう見ても浮ついたコスプレ以外の何ものでもないと思うのに、日向クンの目が余りに熱くて、本音でそう言ってくれてるのが伝わってしまって、趣味が悪いと、思いながらボクの口はひとりでに緩みだしてしまった。
「ありがとう。嬉しいな」
こみあげる衝動に任せて、ボクは彼の左手を持ち上げる。薬指に掛けられた、ボクと彼を繋ぐ首輪だ。きらきらと光る買いたての輪っかに胸が躍る。
ああ、ねえ、これでボクは、一生をキミに、日向創という何の才能も特徴も個性も波乱も無い凡人に、捧げるんだ。
それはとても勿体無くて、退屈で、そして何て、光栄なことだろう。
「一生の愛と隷属を誓うよ、日向クン。ボクは、キミの死体だって愛してみせる」
日向クンはあっけにとられた顔でボクの顔と、今唇を落とした指輪を交互に見つめて、やがて困ったような顔で笑った。
「お前
…
こういう時ぐらい、もっと普通に出来ないのかよ」
ボクの言葉に溜息を吐いて、普通代表は目を瞑る。
ゆっくりと深呼吸を繰り返して、僕の左手を取り、額を重ねて。
「これ以上死体なんて拝ませるかよ
……
墓場に道連れだ、馬鹿」
誓いのキスは、舌を入れたら駄目だろうか。形式に拘る日向クンには多分怒られるだろうと思いながらやってみたら、案外彼も乗り気だったのが、今年の誕生日の一番面白いことだったかもしれない。
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