しくるの納戸
2024-10-05 21:54:37
21050文字
Public 狛日
 
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狛日/ss集

狛日/いろんな軸のいろんな小話詰め合わせ。


お礼用小話


「ただいま」
 草臥れた様子で、狛枝はすっかり馴染みになってしまった言葉を口にする。
「ああ、お帰り」
 出迎えた日向はもう寝間着姿で、どうやら狛枝よりうんと早くに帰宅し、くつろいでいたようだ。
 ボクも着替えようかな、そう呟いた狛枝は、寝室へ行こうと日向の脇を刷り受け、歩みを止めた。
……何?」
 正しくは、日向に腕を掴まれて止まらざるを得なかったのだ。怪訝そうに眉を潜める狛枝を、日向は何も言わずただじっと見つめている。
 視線は、狛枝の風に遊ばれた髪の毛に。
 やがて日向は手を伸ばし、天頂に近い部分を軽く撫でた。
 何かを捕まえる仕草をした手を、自分の下に戻してから広げる。
 そこには、ひとひらの桜の花びらがのせられていた。
「桜だ早いな
「本当だ、風に飛ばされてきたのかもしれないね」
 それから二人は、暫し無言で遠くからの春の便りを眺めていたが、静寂の間にぽつりと日向が漏らす。
……なあ、こっちでも咲いたら、花見しようぜ」
 それは、狛枝の苦手は『未来』の約束であった。
 この辺りで桜が咲くのは、一ヵ月ほど先の事だろう。
 いや、これはわざとそうしたに違いない、と狛枝は確信めいた笑みから読み取って、鼻を鳴らすと今度こそ日向に背を向ける。
「場所取り、キミがしてくれるならね」
 それは、日向にとって一番分かりやすくて嬉しい「了承」の合図だった。