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るいざき
2024-09-06 03:22:35
120816文字
Public
AC6_ラス6_銀環
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銀環 解√ラスティ+621♀ 🐺🐥
ルビコンの解放者END、その直後のお話。
ルビコン解放戦線の拠点へ合流したふたりは、ルビコニアンの抱える諸問題に巻き込まれていく。
ここに、安息は無い。
⚠️モブあり
⚠️児童虐待表現、精神的切迫、その他暴力あり
Prologue/
鉄錆
1p.
1/
狼は森をみつめる
p2.
2/
窮鳥
p3.
3/
比翼の君
p8.
4/
女王
p14.
5/
片翼
p16.
6/
曙光
p24.
Epilogue/
狼はかごとなる
p28.
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ルビコン解放戦線司令部。グリッド上層にある一室に、帥叔フラットウェルは居る。聳え立つようなモニター群を見上げ、また自身も要塞のような端末機器類に囲まれながら、凡人には理解しかねる文字列やグラフ図形を読み取り指示を飛ばす。部屋の両脇にはデスクがズラリと並び、幾人ものオペレーターは忙しなげに端末へ向き合っている。
中央氷原基地より帰還して間もない帥叔及び司令部は文字通り多忙だ。戦況把握、防衛線整備、物資確保は昨日の独立傭兵レイヴンとラスティによる迅速な任務遂行により、暫くの余裕がある。ガリア多重ダムの補修も済み、残存する兵舎や仮設病棟には暖房が回った。
現状での問題は
……
もっぱら帥父とレイヴンに関する市井の混乱だった。
一部オペレーターはただでさえ空かぬ手を割き、特設のサポートセンターを開設した。レジスタンスが民に背いてはらならない、帥叔は苦渋の面持ちでそういったクレーム対応に手慣れた数人を担当として宛がったが。ザイレム戦直後の首脳部の疲弊は目に見えて限界を迎えていた。
「帥叔、こちらの確認を」
「良し。早急に手配をしてくれ」
「帥叔、海上ルートのプラン進言です」
「中佐に送付、彼の一任で調整および決定して良いと言伝を」
「帥叔! ひとりぶっ倒れました、担架手配します!」
「代わりはこちらで呼ぶ。救護終了後は持ち場に戻るのだ」
「はい
……
ッ」
ふう、とさしもの帥叔も詰めた息を吐く。盆を抱えた婦人がそっとフィーカのカップを差し替えていくのを横目に見送り、まだ熱いカフェインをぐっと飲み込む。ARゴーグルを一度外し目頭を数度擦り、また掛け直した。
「帥叔、忙しいところ失礼するよ」
「
……
帥父代理、何の御用でしょう」
司令部のゲートをくぐる小男がいる。帥父代理と呼ばれた男は、忙殺空間にそぐわぬ足取りで中央の絨毯を踏む。身なりは良く、詰襟のコートには金装飾のブローチ、首に質の良いストールを巻き付けひらひらと尾を引いている。
彼はフラットウェルのデスクまで、オペレーターたちをしげしげと見回しながら、それはそれはゆっくりと歩んできた。
「上官が入室したというのに、挨拶も無いとは。いやはや忙しそうですな」
「
……
起立」
フラットウェルが立ち上がると、オペレーター達も続き敬礼する。代理は満足気に左の口端を上げると、やおら手を挙げた。
「なおりなさい、諸君」
帥父代理、と聞こえは良いが。半ば呆けた老爺の代理など大抵はろくな立場では無い。この小男も例に漏れず、かつてのフラットウェル『中佐』の上官であったがため、こうした態度でいる。見かけには信仰があつい振る舞いのこの男は、リング・フレディとともに聖典を紐解く神父でもある。
「結構、結構。忙しそうな君たちに差し入れでも、と思ったのだが。生憎の物資不足だ、手ぶらで済まないが──」
「お構いなく、代理。要件を伺いましょう」
代理は肩を竦める。
「独立傭兵レイヴンはまだ病床ですか?戦況も悪い、早く前線へ出さねば我々の犠牲は増えるばかりだ。帥父もそれに心を痛めておられる」
レイヴンが倒れたのは今朝の事だろう。響めくオペレーターたちを視線でいなし、フラットウェルは淡々と答える。
「ドクターより全治数週間と報告されております。直近での出撃は不可能であります」
「ああ、フラットウェル。いけないねえ。あのカラス一羽を介抱するのにどれだけの物資が民の手元から奪われたか
……
。民意に反せば、戦災に不安を抱えた皆がどうなるか分かっているだろう」
「ごもっともです。故に代替となる戦力投入は惜しみません。ご心配なく──」
「ほう、あのシュナイダー機の精鋭たち! 圧巻ですなぁ、それならば皆の士気は高まるでしょう」
「独立傭兵を常に用いらずとも、我々は戦えます。帥父にはそうお伝えください。」
「いやはやしかしねえ。こう言っては何だが、帥父はレイヴンに薬を掠め取られているのだよ。帥叔」
──いつからこの男はこんなにも浅ましくなったのか、帥叔は胸の内で舌打ちする。
帥父には戦線にも代理やフレディにも告げぬ秘密がある。その為にレイヴンが犠牲になったことは明白であるが、何者かによって唆されたのか、彼自身の独断なのかは図り兼ねる。誰しもが予測の外をゆく出来事だったが為に、誰しもが誰かの罪として片付けようとしている。その風当たりはレイヴンに向けられているのが現状だ。同族どうしの人狼ゲームよりも、余所者を駆逐する方が話は早い。
こうして帥父代理がレイヴンをせっつくのも、戦場で消耗させ野垂れ死にをねらう事で思想派を生かしレイヴン賛美を瓦解させようという腹積もりだろう。
「余程、帥父はお加減が宜しくないようだ。今日中には見舞いに伺う」
「いいや、帥父は面会謝絶を希望されている。
……
帥叔、気の利いた見舞い品を期待しているよ。民も喜ぶことだろう」
「かしこまりました、代理」
この小男はいつからここまでがめつくなったのか。市井調査からは既に違法コーラル向精神薬の密売があるとされ、医薬品は偽造品が出回っている。軍部公認と銘打てばそれなりの価値で買い取られ、偽造品と差し替えられ、再び値を重ね後の無い民に売りさばかれる。そしてドク曰く「帥父は年齢の割に健康」だ。
……
見舞いの了承をせざるを得ないとはいえ、詐欺の片棒を担がされるのは御免だが、はてどうしてやろうかと帥叔は踵を返した代理の背を敬礼で見送る。オペレーターも再び敬礼していたが、その視線には経緯もへったくれもなく、白目がちな座敷犬のようだった。
「おお、忘れるところだった」
小粋な鼻歌交じりの代理が振り返る。フラットウェルは動ぜず、上目遣いのジジイを見下ろす。
「お前の小姓、あの狼ならレイヴンの代わりになるだろうよ。仕事を回そう」
──このルビコンで貶められようとされているのは鴉だけでは無い。手負いの狼でさえ、虎視眈々とその首を狙われているようだ。
「
……
作戦任務はしかるべき手順でお申し付けください」
「おおそうだった、あれは言うことを聞かない駄獣だったな!ははは、これは失敬」
ようやく代理が退室し、小生意気な鼻歌も聞こえなくなった頃。司令室の緊張の糸は完全に緩みきってしまっていた。
「
……
交代で休息を摂る。班順に下がれ」
はっ、と補佐官が伝達に駆けていく。はあぁと自覚よりも大音量の溜め息が出るので、傍にいた婦人がくすりと笑った。
「
……
おかわり、いただいてもよろしいか」
「かしこまりました」
消耗の激しい部下たちのため、女給として雇用しようと打診した彼女らは部下の愛人や妻、母親たちだ。二つ返事でサイズの合わない軍服を纏い、庶務に雑務をテキパキとこなしてくれている。義理堅く尊い者達だと、頭の下がる思いだった。
ARゴーグルをデスクに放り、椅子のリクライニングを引き倒し天井を見上げる。各所上官のブライベートチャットに『休息中』とメッセージを送ると、言葉短に労いのメッセージやイラストスタンプの応答があった。
「帥叔、こちらを見舞いの品になさいませんか?」
補佐官の母であるご夫人が、なにやら上質な仕立ての小箱をふたつ差し出した。ひとつは食べかけ、もうひとつは未開封らしい。
「これは
……
」
「純正のチョコレートでございます」
糧食には合成チョコレートが含まれる場合があるが、所詮は紛い物の砂糖と脱脂粉乳の塊だ。純正、ということはつまり、カカオマスを用いた天然物となる。
「さ、最高級以上の品では? 何故こんなものを
……
」
「レイヴンの戦利品の中からは、いくつか用途不明の物があったそうで。薬品の検品をなさったドクからお裾分けを頂きましたの。なんでも、遙かいにしえのお薬だったとか」
「随分と黒黒としているな」
ひとかけらいただき、口に含むと。「苦ッ」と帥叔らしからぬ素っ頓狂な声が漏れた。これにはオペレーターたちも噴き出す始末。
「ね、お薬でしょう?」
「確かに
……
こんなに、苦いとは」
しかし、これならば食品扱いとなる。日持ちは薬と変わらないはずだとフラットウェルは雑学ほどの見識と照らし合わせ、かつこの珍品の調合には相応の知識人が必要となるので、まず悪用されることは無いだろう、と思い至る。
「しかし、宜しいのですか? 貴女方のおやつだったのでは」
「いいんですよ、だって
……
」
ご夫人がうしろの女給たちと目を合わせ、くすくすと苦笑する。
「これちょっと、苦すぎるんですもの」
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