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るいざき
2024-09-06 03:22:35
120816文字
Public
AC6_ラス6_銀環
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銀環 解√ラスティ+621♀ 🐺🐥
ルビコンの解放者END、その直後のお話。
ルビコン解放戦線の拠点へ合流したふたりは、ルビコニアンの抱える諸問題に巻き込まれていく。
ここに、安息は無い。
⚠️モブあり
⚠️児童虐待表現、精神的切迫、その他暴力あり
Prologue/
鉄錆
1p.
1/
狼は森をみつめる
p2.
2/
窮鳥
p3.
3/
比翼の君
p8.
4/
女王
p14.
5/
片翼
p16.
6/
曙光
p24.
Epilogue/
狼はかごとなる
p28.
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狼は森をみつめる
──解放者。
レイヴンの名はこのルビコンに響き渡り、戦災に喘ぐ人々に闘志の火をつけた。
誰もが手を取り、武器を取り、白鴉の先導に連なり惑星を荒らすものどもに立ち向かう。
正義だ。
これがこの過酷な地で生き残った人々の、アイビスの火を生き延び半世紀をも命を繋いだ者たちの反抗声明だ。
──私は、誰もが共に生きるあかるい可能性をゆめみたのだ。
「気にしすぎだ、戦友。ただの──」
『擦り傷でも打撲が伴えば見過ごせません。悪くはしませんから
……
』
電力復旧もう間もなくの兵舎、最奥の医務室のそのまた隅っこにて、英雄は放り出されたストレッチャーのぐらぐらとした座面に押さえつけられている。
先の大戦にて『戦友』と共にザイレムを堕とした英雄、または革命児の傑人は。きっと独立を勝ち取ったルビコニアンの歓声に迎え入れられるのだろうと、621はあり合わせの知識量でそう予想していた。──そうであれ、と願っていた。
不明機体に撃墜されたスティールへイズを捜し、フラフラと覚束無い挙動で自動航行するアルバを見つけたのが数時間前。
応急処置のテーピングと圧迫処置、あり合わせの知識とエアがあらゆる処置方法の検索をしてきたおかげで、アルバは鉄の棺桶とならずに済んだ。
フラットウェルに支援要請をし、回収ヘリに格納されたのが1時間前。乗り合わせた救護班の治療をふたりともども施され、ボロボロの戦闘員たちは早めの祝言を交わした。
解放戦線、前哨基地への帰還。今から28分前。確かに、621たちは歓待に迎え入れられた。
だが。それはほんの一瞬で一変した。
「嘘つき!」
「父さんを返せ!!」
「ひとごろし!!」
数多の石や礫が投げつけられた。その英雄、ラスティに。
『ラスティ!』
「フラットウェル」
電子音声の最大音量ノイズ混じりの悲鳴。何が起こったのかよく分からない、だが彼を守らなければならない。その一心で踏み込んだつま先は砂利を噛んでつんのめる。ミドル・フラットウェルが621の肩を掴んでいた。
何故と振り仰ぐその耳に、がつッ、と鈍い打撃音が届いた。
飛沫が散る。彼のこめかみからはいよいよ血が流れ始めていた。
「
……
」
彼は。ラスティは、瞬きひとつせず子どもたちを見つめていた。
痛み、慈愛、悲哀、そのどれともつかない。
石と礫と搔き取り投げつける子どもたちの痩せ細った手も、擦りむき赤く血を滲ませていた。
「今更
……
っ、今更みかたについたって、オレたちは許さないからな!きぎょうも、ふうさきこうも!!」
慟哭が人の輪の中心を満たし震わせている。誰も彼も、この小さな無法者たちを止められない。
この戦災の最たる被害者を、止める由もない。
「私は、忘れない。君たちの父を、母を、兄弟姉妹たちを」
掠れた声は、誰かの名を呼んだ。幾人もの名を静かに呼んだ。
その名に呼応して、ひとりまたひとり、泣き崩れていく。婦人や老父はそっと子どもたちを抱き寄せて、その頬を撫ぜた。
死力を振り絞っていた子らも、最早ラスティを睨む力すら無くなっていた。
「
……
忘れるものか」
血に混じる眦に。
微かな光をみた。
===
元反抗勢力の暴徒たちに、あたたかな病床は数える程すらも無い。
僅かな燃料を頼りにあかりと暖を求める兵舎は、ひたすらに膿と消毒薬の香りで充満し、低い呻き声こそが生きている証左と成り果てている。
今ラスティが腰掛けるストレッチャーさえ、入り用となれば今すぐにでもあけなければならない。逼迫した前線では、英雄の傷を癒す医者すら現れない。
「すまないな戦友。君も満身創痍だというのに、こんな事をさせて」
かつての保護者の見よう見まねだが、エアの詳細なガイドのもとラスティの傷を縫い止めてみせた。621はふう、とアサルトヘルメットの額を拭って、借りてきた手術トレイに針やら鉗子を置いた。
『あくまでも応急処置ですから。ドクターの手が空き次第診ていただきましょう』
「そうだな。その頃にはカサブタになってそうだが
……
」
んん、と彼は伸びをする。深く息をついて、ふっと621に視線を戻して微笑んだ。
「
……
見苦しいところを見せてしまった。これでは気も休まらないだろう」
『621は
……
問題ありません。
……
大丈夫です』
「そのようには見えない」
『
……
』
621自身も拠り所を喪った。からがら降り立った地上に彷徨うラスティを見つけられなければ、エアの声さえ聞こえぬほど憔悴していた。
「解放者にはここで休息を
……
と思ったのだが。そううまく事は運ばないか」
『いいえラスティ。621には充分すぎる待遇です』
彼こそこの勝利の要であるはずなのに。
泣き疲れた子どもたちを連れ、ルビコニアンたちはよそよそしく前哨基地の門扉へ足を引き摺るようにして去ってしまった。
「こうなることも織り込み済みだったが。実際に対面してしまうと
……
堪えるな」
『
……
このような結果を、予測もしませんでした』
浅はかな自分を恥じた。彼はしかし確かに最前線で偉業を成した僚機で、密偵としての責務は全うした。
何よりも、このルビコンの誰よりもこの地を愛している。
飼い主の言いなりに、あちこちを食い荒らす駄犬とは違う。地を知り、森を識り、荒野と共に生きる狼は、その金の眼に新たな世界を見出そうとしている。
「なあレイヴン。私としては、下手に繕われた歓待のほうがよっぽど居心地が悪いと思う」
良くも悪くもルビコニアンは素直なのだと、ラスティは慈しむように窓の外を見遣った。
「変わるためには、選択しなければならない。それがどれほど酷く冷淡であっても」
これが。
これが彼の覚悟なのだ。621は項垂れた。
──わたしが選んだ道は、彼のように明解ではない。ただきょうだいから示された可能性に縋りついてしまった。そしてこうも願った
……
本当にあのひとが、その大罪を犯す必要があるのか、いいや、そんなはずない、と。
最愛の主人の遺言さえ背負えず、地獄への邁進に窮したに過ぎない。そんな臆病者の反抗声明に、彼は命と故郷の未来を懸けて協働してくれたのだ。
「
……
さて、私の責務はまだやまとある。まずはアーキバス駐屯地までを制圧し、物資の確保、輸送を優先したい」
『
……
』
「回復までの君の身柄は我々が保障する。その見返りとして
……
もう少しだけ、我々に力を貸してはくれないだろうか」
『ラスティ
……
』
「報酬もできうる限り用意する。整備も──」
『違うのです、ラスティ。あなたも戦災の犠牲者だ』
「
……
」
『あなたには、休息を取る権利があります。間断無き忙殺はこころを蝕みます』
「気遣い痛み入る。だがそのような
暇
いとま
も無いことは、君も分かっているはずだ」
『──その為の独立傭兵です、ラスティ』
「!」
『621を、今暫くあなたの手足として、目としてお使いください』
「
……
戦友、それは──」
傭兵としてあるまじき。そんな事は621にも分かっていた。
だが今は、直面したものがあまりにも多すぎる。この未熟な強化人間にできうる事を考えた時、こうする他無かった。
「
……
了解した。後ほどフラットウェルと請求額の擦り合わせをしてくれ。」
『承りました、ラスティ
……
』
──忘れるものか。
生きている以上『ラスティ』という個が消える事は無い。己に課した使命とそれそのものの根源たる善性の狭間で、彼は何度苦しんだのだろう。
あり合わせの知識では、彼を励ます言葉はひとつも出てこない。
ああ、いつもそうだ。──わたしは誰かを支える術をひとつとしてもたない。みもこころも、同様に。
「
……
レイヴン?」
顔のないヘルメットは俯くしかできない。だが、そのノイズは彼にも届いていた。
「
……
泣いてくれるのか」
こつ、と額が触れる。深く息を吸って、目を閉じて、彼は項を撫ぜてくれる。
「君が傍にいてくれて
……
良かった。これ以上の幸いはない
……
」
はじめての感情は、悲しく、苦しい。
ただ流れるだけの涙はいのちを溶かし流すよう。
「ありがとう、戦友」
何故、彼がそう言ったのか。まだ知る由もなかった。
英雄は孤独だろう。
誰も知りえぬ苦悩を抱えて、誰もが取りえぬ選択をしてみせる。
だからといって、こころが死に尽くしたわけではない。
『
……
ラスティ』
「なんだい?」
『ハンドラーのガレージなら、寝床があります。よくお休みください』
「
……
そうだな。流石に、一息つくとしようか」
あの人の口癖が、疲弊したこころをいとも容易く人間に戻す。
『おやすみなさい、ラスティ』
──おやすみなさい、ウォルター。
形にならぬ祈りを胸に、ゆめの世界を望んで目を閉じる。
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