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るいざき
2024-09-06 03:22:35
120816文字
Public
AC6_ラス6_銀環
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銀環 解√ラスティ+621♀ 🐺🐥
ルビコンの解放者END、その直後のお話。
ルビコン解放戦線の拠点へ合流したふたりは、ルビコニアンの抱える諸問題に巻き込まれていく。
ここに、安息は無い。
⚠️モブあり
⚠️児童虐待表現、精神的切迫、その他暴力あり
Prologue/
鉄錆
1p.
1/
狼は森をみつめる
p2.
2/
窮鳥
p3.
3/
比翼の君
p8.
4/
女王
p14.
5/
片翼
p16.
6/
曙光
p24.
Epilogue/
狼はかごとなる
p28.
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暗闇から意識が浮上する。ひとつ息を吸い込むと、あらゆる記憶が奔流となり押し寄せ、ラスティは飛び起きた。燭台の傍で本を捲る手を止めたリングは、こちらを一瞥すると無言で部屋を出て行く。奥からはなにか話す声が聞こえるが内容は判然としなかった。
左腕に繋がれた点滴はもう幾ばくもなく終わる。両腕から胴体を確かめると、右手の添え木はギプスに進化しているし、そこらじゅうが縫合と治癒促進のラッピングや包帯だらけだった。
ベッド横の黄ばんだレースカーテン越し、鎧戸を少し開いた窓には雪のつぶてが吹き付けてちりちりと音を立てている。吹雪となるのは時間の問題だった。
「目覚めたか、灰狼よ」
「
……
帥父」
老爺は杖をつきゆっくりと椅子に腰を下ろす。リングはラスティの腕から針を引き抜き、IVスタンドを下げる。トレイに置かれた幾つかのシリンジを手に取り、何の断りもなく孔だらけの腕に静注する。強化繊維や骨構造の再建を促進し、失われた細胞を代替する。エリクサーなどとふざけた名を与えられた強化人間専用治癒剤は、上流階級が湯水の如く金を積み上げ製薬企業がこぞって研究する成果物のひとつだ。
「アーキバスは包囲網を成しつつあるが、漸くシュナイダーとエルカノが合流した。フラットウェルは部隊を編成し、要衝奪還の策を練っておる」
「
……
どれぐらい寝ていた?」
「三日三晩、早い方だ。」
ラスティは歯噛みして俯く。その間にレイヴンに追い付けたかもしれない。武装ヘリの行方を追えたかもしれない。
「
……
その身は呪いの様だ。凡庸な再建を受け付けず、創造主の血なくば死にゆくのみ」
「呪い、か」
ラスティは右手を見る。ヒトの手指の再構築は至難の業だ。ラスティも例に漏れず、その手だけはヒトのものだった。だがそれ以外はすべてシュナイダーの手が加わり、文字通りの強化人間として造り変えられている。おまけに一般流通の幹細胞と異なり、しなやかで堅牢な骨肉と皮膚を得る代償として、専用の薬物を必要とする。
AC出撃不可能となり、生身での追跡は軽率だったか。漸く目覚めはじめた脳は鮮明で、既に次の手段を模索している。
「
……
エアは」
帥父はちらりと目配せすると、リングはニトリル手袋を外し、一礼の後退室した。
「帥叔に付きっきりだ。あるいは、
隙
ひま
を見てはドクの元で薬害患者の治療法を模索しておる。すっかりとこの解放戦線の協力者として、その役目を全うしておる」
「そうか
……
」
エアの嘆願が鮮明に思い出される。あれはただの身元引受人や仕事仲間ではない。もっと近しい──肉親、あるいは、きょうだい。そういった絆が脅かされた時の魂の叫びだった。
「フラットウェルは、其方を『壁』奪還要員として喚ぶであろう。聖戦の要だ」
「
……
。」
「よもや、レイヴンを奪還しようなどとは思うまいな」
「さて、どうだろうな」
リングが退室して半ばとなっていた投薬を、ラスティは自力で行う。内出血で青ざめた腕に更に注ぎ込み、トレイへシリンジを放る。
「其方は、解放戦士である。ルビコンの為にあり、その身を捧げ、餓狼の牙を奮う。
……
軋轢あれど、其方の力を求める者はいる。それに応えるのだ」
「了解した、帥父ドルマヤン。詳細は帥叔と綿密に話し合おう。」
やおら立ち上がり、卓に畳んで置かれた私服に袖を通す。軍のコートは誰かが気を回したのか新調されていた。
「
……
まさか貴方に助けられる日が来るとはな」
「いや、二度目だ。子犬のようなお前が木登りから降りられなくなったのを手助けしたぞ」
「そうだったかな。ま、遠い昔のことだ
……
」
緩んだ軍靴の紐を縛り、コートのフードを被る。ドアノブに手を掛けて、ラスティはそのまま部屋を出た。
「お忘れ物ですよ、同志ラスティ」
玄関ホールに差し掛かった曲がり角で、リングが手に持った何かで胸部を小突かれる。少し塗装の剥げたコルトと補修された革製のホルスターだ。
「君が縫ったのか?」
「気色悪い事を。貴方に夢中のメイドが勝手に手を付けておりましたので、取り上げました」
「なるほど」
ぽいっとリングの手元にホルスターを投げやると、セーフティを下げてコートのポケットに突っ込む。マスクを口許へ宛てがい、ラスティは玄関扉を開いた。
吹き込む雪風を纏い、彼は家宅を去る。
バラック街。そこここからすすり泣く声、咽び泣く声が風に乗って耳に届く。過ぎる道の向こうで、軍部の制服を来た連中が二人。積もり始めた雪に膝をつき泣きじゃくる婦人と、その肩を支えて俯く男。
視界上のディスプレイにはメール通知が数件。帥叔からのものを確かめると、その後の報告内容が簡潔にまとめられていた。
──中層爆破事変。広範囲に及ぶ爆発は周辺構造物を崩落させ、中層住居区へ甚大な被害をもたらした。
中でも廃区に隣接する一部区画は念入りに破壊されていた。これを検めた結果、下層難民より招集された10名中8名を発見するに至る。エアによる鑑定によれば、体内に蓄積された不活性化コーラルを鑑みるに、偽薬含有量調整のため被験体とされた模様。
街区、商店街。構造物崩落により色とりどりの天幕やテントは潰れ、所々では火災が起きた焦げ跡がある。煌々と連なるランタンはちぎれて落ち、誰も光を灯す事は無い。比翼の灯篭もまた、荒れ果てた街路に転がされるだけだった。
──また周辺残置物や残骸から違法建造された製薬施設と判明。エアの記録と照らし合わせ、これらはアーキバスによるルビコニアン拉致、及び内部工作によるテロと判断。
樽小屋。グリッド壁面の陰に立地する娼館一帯は最も崩落被害が大きかった。崩潰した家屋は手付かずで、そこら中に商いと営みの破片が転がっている。
半生を育んだ生家もまた、その被害の煽りを受け二階は全壊している。遠目にも目も当てられない状態となっていた。
女将からのメールには言葉短に無事だという報せがあった。目覚めたら連絡を寄越せとも。
病棟。怒号と見紛う医療班の指示が飛び交い、そこら中に怪我人が転がる。腕に巻かれた色帯は、キャパシティオーバーである事を示す。
救急センターを逸れ、階段を登り、長廊下の連なるICU階へ。ホールへ踏み入ると、足元は水浸しでちゃぷちゃぷと波紋を広げる。壁には爆風の跡、焦げと鉄錆の香り。粉々に割れたガラスが水に混じって泳ぎ、つま先にぶつかっては波紋に漂う。
白い聖域は穢されていた。暗号錠ごと破壊された扉を押し開くと、通路にも爆発跡がある。手榴弾か。なぎ倒された座席とフェイクの鉢植え、宙吊りの蛍光灯はキンキンと音を立て明滅する。
スイングドアは建付け悪くなりぶらぶらと揺れる。数日前までは、ここで
……
。
「
…………
。」
鳴り響く電子音、医療器具も何もかもが引き倒され、壁には弾痕が幾つも連なる。窓際の壁にふたつの血糊、ICUを隔てる窓には別の血痕。壮絶な防衛戦が繰り広げられた様がありありと目に浮かぶ。
砕かれた硝子を潜り、無菌室に降り立つ。乱雑に取り払われた生命維持装置からは不吉な長音が鳴る。抵抗の痕すらなく、華奢な少女には広すぎるように見えたベッドは冷えきっていた。
ベッドの縁に腰掛ける。耳鳴りのような電子音は止まない。シーツをなでても、いつか握ってやりたかった手には触れられない。
──同志ラスティ。貴殿には、独立傭兵レイヴンの安全保障に関して、協定違反があったと通告を受けている。療養復帰次第、速やかに出頭せよ。
ポケットを探り、ころりと手のひらに転がる冷たい質感を掴む。薄暗い雪明りに照らされる褐色の小瓶。内に満たされた薬液には、人為的に調律されたコーラルが混じっている。
吐く息白く、凍てる風は強く強く吹き付ける。
狼は眼差しの先に何を見る。
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