ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
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!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



09


 長いようであっという間だった夏休みが終わった。朝練終わりのロッカールームの鏡の前で、スケートのこともそれ以外も色んなことがあったなあと久しぶりに着た制服姿の自分を見てそんなことを思う。楽しかった。たぶんこの夏起きたことが今までで生きてきた中で一番充実していた。大げさじゃなくそう素直に思えるくらい本当にたくさん思い出ができた夏だった。
 あの日以来、宮くんとふたりで会うことはなかったけれど、ほぼ毎日メッセージのやりとりと時々電話がかかってきた。なんてことない話ばかりなのに今となっては何もないとさみしいなんてちょっとぜいたくなことを思ったりしている。なんて話をあやちゃんにしたら何とも言えない顔をされてしまった。なんで。
 駅から学校までの道すがら、クラスの子と会ってあれやこれや積もる話をしながら歩いていたら後ろから声をかけられた。のと同時に頭にずっしりと重みを感じる。完全に気を抜いて歩いていたからその重みに耐えられずにぐぇ、とよくわからない声を出してよろけたら後ろからケラケラと聞きなれた笑い声が聞こえた。

「びっ……くりした!」
「こっちの台詞やわ、まだ寝とるん?」
「めっちゃ起きとる……けど奇襲はやめてもろて!」
「ごめんて、でもこけたらまた助けたるから安心しい」

 ちっとも悪びれない顔で宮くんが先行くでぇと間延びした声を出して歩き出すと宮くんの隣にいた片割れくんが怪訝な顔をしてこっちを振り返って、そして宮くんに何か言いながらをどついていた。流れるように宮くんもやり返すから、同じ顔でああやってるの改めて見るとおもろいな……とその様子を見ていたらうそ、まさか……と困惑した呟きが聞こえた。

「え、あかりちゃんもしかして……
「うん?なに?」
「ミヤアツと……もしかして、その……
「え? ……あ?!ちゃうよ?!なんもないから!」

 宮くんとの今のやり取りであらぬ誤解を招いてしまったらしく盛大に否定したけれど、ちゃうの……?ほんまに……?と疑るような視線を向けられてしまった。それはたぶん、宮くんにはすごく迷惑な話やと思う。面倒くさそうな顔をしているのが想像ついた。そんな顔をされたら少し、いやだいぶへこむ。
 ほんまにちゃうよ、とまだ何か言いたそうなその視線を遮るように改めて否定してまだ釈然としない顔のその子を促して学校への道のりを歩き出した。



 久しぶりの教室はまだなんとなく夏休みの気配が残っていて、少しだけ気だるげでそれでいて浮かれていた。
 あやちゃんたちにおはよ、ひさしぶり、とかけられた声に応えて席に着いた。そのまま夏の間に起きた出来事や思い出話に花を咲かせながら隣の宮くんに視線を向ける。あの日よりも強い陽の光に髪の色が、あの日よりもずっときらきらと透けていて見入ってしまった。やっぱきれいやなあ。 ――好きやなあ。
 そう思った瞬間、教室に入ってきた先生ののんびりした声が飛んでくる。起きる気配のない宮くんに声をかけようか迷っていたら、また寝とるんかい……と先生が呆れた声が言ったその声に前を向くと教卓の前に立った先生と目が合った。嫌な予感がするのは気のせいじゃない。

真嶋、頼むわ」
「はぁい……宮くん、ホームルーム始まるから起きて」

 嫌な予感はバッチリ当たった。教室のそこかしこから同情の入り混じった笑いがもれる。夏休み前から、もっと言うと席替えで隣になった後から幾度もあったこのやり取りが今日もまるで日常のようになされた。嫌な訳ではないけれど、登校中に言われたことを思い出して少しだけ意識してしまう。そう思いながらいつものように宮くんの肩を揺すって声をかける。いつもと同じように触れたはずなのに、肩に触れた指がどうしてかいつもより熱を帯びた気がするのは気のせいなんやろうか。
 
……っなん、……ぁ」
「ごめ、あの、ホームルーム始まるから……

 びくりと大きく肩を揺らしてまるで飛び上がるように身体を起こす宮くんに、こちらの方が驚いてしまって言葉に詰まる。目を真ん丸に見開いて、そして目をそらしながらすまんとちいさく、たぶん私だけに聞こえるようにつぶやいた。
 起き上がった宮くんの様子を確認した先生がじゃあ始めるでとみんなに声をかけると、あっという間にいつもの朝の教室に戻る。けれど宮くんと私だけまだ時間が止まっていて、どこかに取り残されているたみたいな気がする。
 横目に入った宮くんはそっぽを向いてはいなかったけれど、何を考えているのかわからない顔で、頬に手をやって肘をついてまっすぐ前だけを見ていて目が合うことはなかった。

 そのあと放課後までなんとなく話すことなく一日が終わった。帰りのホームルームもこれで終わり、というところで先生が思い出したように言う。明日、帰る前に席替えするからな。その言葉に悲喜こもごもの声が教室中から漏れた。そうか、前の席替えからもう結構経つもんなあ。とぼんやり思う。そして。

……したないなあ」
「えっ」
「ずっと今のまんまでええやんなあ」
「そう……やね、後ろやしね」

 もうちょっとこのまんまで、宮くんの隣に居りたいなあと思っていたら同じようなことを宮くんが言ったからびっくりしてとっさに宮くんの方を振り返ってしまった。きっと私と同じ理由ではないやろうからとそれらしい理由を返したら宮くんは一瞬の間をおいて、まあな、と同意の言葉を返してくれた。けれどちっともそう思っていないような顔をしてこっちを見てくる。

……なん?」
「や……、そういえば、これ」
「っ……な、ん」

 これ、といいながら手を伸ばしてきた宮くんが肩に流れる髪を一筋つまむ。結構ばっさり行ったんちゃう?そう言いって毛先をくるくると指に絡めながら楽しそうな顔でふと微笑んだ。髪を切ったのは数日前で、確かに前会った時より少しだけ短くなった。けれどそんなんよく気付いたなあとか、なんでそんな平気な顔して普通に触れてこれるんやろなあ、とかいろんなことを考えていたら心臓の音が宮くんにまで聞こえるんじゃないかというくらいに走り出した。今きっと夏休みのあの日みたいな、あほみたいな赤い顔をしているやろなとそんなことを考える。
 それでも、この間みたいに避けようとは思わなかった。どうしてだろう、その手を、髪に絡めた指を、どうか解かないでほしいと心の底から願ってしまった。