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ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
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あつむとあの子
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かけらの紡ぎ
あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
!名前変換しない場合はデフォ名が表示されます。
!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。
4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結
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「ほんまにここまででええんか?大丈夫か?」
「大丈夫やって!ここからほんまにすぐ家着くから!」
でもなぁ
……
いやあかんわ、と言いながら宮くんが眉間にしわを寄せて渋い顔をする。あごに手を添えて悩ましい顔しとるけどおとんなん?
というのはさておき、なんでか急に過保護になってしまった宮くんを説得しきれずに私の家の最寄り駅のホームでこんなやり取りを繰り返して後続の電車が三本通り過ぎた。結構な時間が経っていて、このままやと本当に宮くんの帰りが遅くなってしまう。そのことが気がかりでどうにか次の電車に乗ってほしいのだけれど、どうも口で勝てる気がしない。
正直、こうして一緒に居られるのは嬉しいけれど昼間とは別の意味で困ってしまった。これ以上宮くんの面倒にはなりたくない。
「ほんまに大丈夫やから、ここから近いし家まで結構明るい道やし」
「
……
」
「宮くんも帰り遅なるやん!」
「俺はええねん」
「よくないて
……
」
俺はええねんて
……
あかんやん
……
とお互い一向に譲らず平行線を辿っていたら、次の電車が前の駅を出発したというアナウンスが流れた。もう、絶対無理やりこれに押し込もう。そう決意して絶対これ乗って!と電光掲示板を指さしたら宮くんはでっかいため息をついた。あ、これ私の勝利かもしれない。そう心の中でガッツポーズをしていたら少し何かを考えるような顔をして、そんならこれ、とスマートフォンを差し出してきた。
「
……
?」
「連絡先。家着いたらメッセージしろや」
「え、あ、うん」
言われるがまま画面に表示されたコードを読み取って登録を確認していたら、間髪入れずにスタンプが飛んできた。ぽこぽこと表示されるスタンプに追いつけずあわあわしていたら、お前もなんか送れやと言いながらいくつもスタンプを送ってくる。あまりの早さにずっと笑っていたら、いつの間にかホームに電車が滑り込んできた。
「ほら、もう乗って」
「しゃあないなあ
……
」
「気を付けてね」
「それはこっちのセリフや!」
気ぃ付けてな、またな。そう宮くんが言うのと同時にドアが閉まる。ゆっくりと走り出した電車の窓際で何だか名残惜しそうな顔をしていた宮くんを見送って、ようやく改札口を出た。
家に着いて何となくさっきの宮くんからのスタンプだらけのトーク画面を開く。あの後またいくつか送ってきていたみたいでさっきはなかったスタンプが増えていた。思わず顔が緩むのを抑えながら着いたよ、と一言。そしてスタンプをひとつ。さすがにもう見てないかもなあと思ったらまたすぐに返信が届く。早っ、と思わず画面に向かってツッコミを入れながらまた笑ってしまった。
それからまたややしばらくやり取りをしながら、もう寝ようかというところで今日のことを振り返る。ちょっと怖かったのはさておき、本当にいろんな話をしたなあと一つずつ思い出す。今日あそこに来ていた理由。家でのこと。片割れくんとの喧嘩の理由もいろんなバリエーションがあるんだなあと感心してしまった。あとはバレーのこと。スケートのこと。宮くんが想像していたよりもずっと真剣にたくさんバレーのことを考えているのを聞いて、私も負けられないと思ったり。
あとは
……
と今日の出来事を頭の中で辿っていって息が止まった。自分でもびっくりするくらいにひどく緊張しながら無言で歩いた駅までの薄暗い道。今考えてもどうしてあんなに緊張していたんだろうと思う。そして。思い出してうわあ、と思わず声を出してしまった。部屋にひとり、誰もいないのに顔を覆う。
支えてくれた腕の感触。背中に感じた身体の熱。支えた衝撃でもれた言葉にならない声が耳元で聞こえた気がする。心臓が爆発するんじゃないかと思うくらいに音を立てたこと。そして、気をつけろと笑った宮くんの顔。あんな顔するなんて、そんなん知らんかった。
そんなことを考えてひとりで身悶えていたら、突然スマートフォンが鳴る。誰こんな時間に
……
とのろのろとスマホを手にしてひえ、と情けない声を出してしまった。うそやん、どうしよう、なんで
……
と出るかどうか考えあぐねていたら自分が思うよりも動揺していたのか知らずに画面に触れていたようでスマホの向こうからあ、出た!と聞きなれた声が聞こえてまた声にならない悲鳴をあげてしまった。
「あれ、なんや聞こえてへん?」
「
……
っ、聞こえとる!どうしたん!」
「聞こえとるやないか
……
なんや元気やな」
「いや
……
そう
……
?」
気持ちがジェットコースターみたいでぐったりしている私のことは気にしていないみたいで、寝とるかと思ったなんて少しご機嫌な声で笑いをもらす。その声ははいつもと同じはずなのに電話越しのせいかいつもと少し違って聞こえてまた心臓が跳ねた。
「どうしたん?なんかあった?」
「んー
……
なんとなく?」
「なんとなく
……
」
「ん、そう」
なんとなく、と少し声をひそめて笑う声が耳にくすぐったい。どうしよう、何か私も話さなきゃと思うのに上手く頭がまわらなくて、いつもより控えめに宮くんがぽつぽつと話すのに一言二言返すのが精いっぱいだ。今日はもう色々といっぱいいっぱいやとぱたりとベッドに倒れこんだ。
「もう眠いん?あした練習?」
「あ
……
うん、午前中から」
「そおかぁ、まあ俺もやけど」
「そっか、頑張ってな」
真嶋
もやん、と言いかけたところで宮くんの後ろからガタン!と大きな音が鳴る。同時にうぉあ!という悲鳴のような声とバタバタと、たぶん携帯が手元から離れて床に落ちた音。それとは別に何か怒鳴る声が聞こえた。見たことも無いのになんだか光景が目に浮かぶ。電話の遠くの方、ずっと向こうで
――
それでもだいぶ大きい宮くんの、さっきの怒号に応戦するような声がした。噂に聞いた双子乱闘、まさかこんな形で遭遇すると思わなかった。話には聞いていたけれど声だけでも迫力がすごいなあと改めて思う。
それにしてもまさかこのまま本気の取っ組み合いが起きたりしとるんやろか
……
感心しとる場合やなくない?と心配になり呼びかけてみた。その呼びかけに返事はなくて急に静かになったけれど遠くの方で人の気配がするから大丈夫そうやなとそのまま待っていたら、バタンとドアの閉まる音とすまん!と元気な声が帰ってきた。
「おかえり、無事やったん?」
「なんとか
……
」
「ふふ、仲ええんやね」
「今のが仲良しに聞こえたんか」
ありえへん、いま俺部屋追い出されてんぞとぼやいた宮くんのため息が電話の向こうに聞こえる。ぐったりとした声でそう言った姿がなんとなく想像がついて笑ってしまったら、笑うなやと拗ねたような声で宮くんが言った。
「ごめんて
……
て、もうこんな時間やもんねぇ。そろそろ寝よか」
「せやな
……
、なあ」
「ん?なに?」
「あー
……
、や、あの」
名残惜しいけれど、そろそろ切り上げた方がいいかもしれないと思ってそう声をかけたら、返事は帰ってきたけれどなんだか要領を得ない。そしてそのまま黙ってしまった。電話の向こうでかすかに息を吐いたのが聞こえる。どうしたんやろうと思っていたらもう一回なあ、とこちらに呼びかけてきた。
「うん、なに?」
「
……
また」
「また、ね?」
「ちゃうわ
……
また、電話する」
「うん
……
、えっ」
ほな、またな!とそう言ってぷつりと電話が切れた。急に静かになった携帯を握りしめたままややしばらく動けずにいた。耳元で聞こえていた宮くんの声がずっと離れない。また、宮くんが言ったその言葉を声に出したらそれが合図みたいに治まっていたはずの心臓がまた、二人で歩いていた時よりもずっと早く、痛いくらいに音を立てる。けれど。
――
どうしてもっと、ほしいと思ってしまうんだろう。あの時支えてくれた腕も、耳元にかかった吐息も。これまでで一番優しく笑ったその顔も。ぜんぶ、もっとたくさん、わたしだけが知っていたらいいのにとこの先絶対ありえない、叶わないであろうことを思ってぎゅっと目を閉じた。
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