ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
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!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



05


 前言撤回。火のないところに煙が立たん訳ないねんよな。という感じで本当に巻き込まれてしまった。噂は噂なんてこと思ったあの日の私よ、それは間違いやったよと言ってやりたい。
 そんなことを思いながらうんざりした気持ちを顔に出さないよう眼の前にいる宮くんの元彼女さん……曰く元ではないらしい、どっちでもいいけど……の先輩にそっと視線を向ける。
 対して負けじと視線を返してきたその人は、一見笑顔に見えるけれど伝わってくるのはどこか挑戦的で怒りとか――嫉妬とか、そんな感じのあまりよくないネガティブで圧のあるものだった。そんな顔されても私も、この人とは話したことも無いし何かしたりということは全くないし、あの時初めて顔を逢せたはずなのだけれどと思いながらその顔を見つめる。
 宮くんとのあのやりとりから数日後。再びやってきたこの人が再び宮くんを訪ねてきたであろうところにまた居合わせてしまった。
 侑呼んでもらえる?そう言ったその人の視線がやけに痛い。その理由は十中八九宮くんだろう。教室以外で宮くんと話すことはないからこの人が誤解するような何かはを見ていることはないはずだけど、あるとしたら本当にあの時、宮くんを呼び出しに来たときに声をかけられたことくらいだ。もしかしたらその一件があったから、あえて私をつかまえて声をかけてきたのかもしれないと思い当たる。 ……それはとんでもなくとばっちりすぎひん?

「居るよね?」
……ちょお、待ってください」

 はぁ、とその人に大げさにため息をつかれていよいようんざりを通り越して湧いた嫌悪を隠すのをやめようとした時だった。なあ、と私以上にうんざりした声と背中に感じた威圧感が割って入ってきて身を竦めてしまった。
 私が思わずうわ、と声を漏らすより早く先輩が宮くんの名前を呼び掛けた声をかき消すように、何しに来たんですと鋭く言い放ったその声は私にもわかるくらい――すこしだけこわいと思うくらいに不機嫌で冷たかった。

「この子やろ?こないだ言ってた理由て」
「関係あらへん、こいつはただのクラスメイトやし」

 縋ろうとするその手を、宮くんの腕に触れるよりも早くかわしてこれ以上話すことないんでもう来んといて、と先輩と目も合わさずに言い放ち宮くんは踵を返して自分の席へ戻っていく。傍から見たら、いや事実今の流れはまるでドラマみたいな痴話喧嘩のようだ。颯爽と戻っていったけれど一応外野の私のことを置いて行かないでほしい。
 そもそも二人の会話が何の話なのか全然分からないし、私なんも関係ないしな……と思い一応会釈をしてその背を追うように戻ろうとしたら、あんたになんか渡さへんから!とそれこそまるでドラマか映画のようなセリフが飛んできて呆気に取られる。渡すも何も。なんも関係ないただの隣の席の同級生なのでお好きにお持ちくださって結構ですし、二人のごたごたに巻き込まないでほしかった。
 息巻いて去っていった先輩の背を見送りながらに思わず冷静にツッコミを入れてしまったし、この声に振り返った当の宮くんはちょっと半笑いやったのが腹立たしい。いや誰のせいかと。

「おつかれさん〜」
……よお言えたねぇ、それ」
「悪かったて、ごめん」

 未だ半笑いで席についた宮くんが軽く言うものだから腹が立つ。ほんまにそう思っているのかよくわからない顔で言うのが余計に。絶対面白がっとるなぁと思うとちょっと意地悪したくなって、へらりと笑う宮くんにわざとらしい冷たい視線を向けた。

……もう宮くんとは話しせん」
「えぇ、嘘やろもっと仲良くしよや」
「やってまためんどいこと巻き込まれるもん」
「ないて、あんなんもうないわ」

 なぁ、と顔を覗き込まれて言葉に詰まってしまった。ちょっとだけ上目遣いで下がった眉。その顔はずるい。そう思うと同時にこないだのもやもやがまた胸の中に広がっていく。他の子にも、たぶんあの先輩にもそうやってしてきたんかな。というかずるいって何。なんでそんなこと。
 そんなことが過ぎったその時、何かが頬を掠めた。掠めるに留まったのは思わず避けてしまったから。避けたあとにそれが宮くんの指だとようやく気付く。咄嗟の出来事に自分でもびっくりしていたら、は?と宮くんも驚いた顔でこっちを見ていた。その顔に少しだけ不機嫌をにじませて。そのタイミングで先生が入ってきてよかった、と思う。おい、と呼びかけてきた宮くんの声には応えずに前を向いたのは少しずるいかなと思いながらその呼びかけは聞こえないふりをしてしまった。
 小さなため息と、なんとなく不貞腐れたようなそんな気配を感じたけれど、いつかのようなこちらを伺う視線を感じることはなかった。
 どうして指が掠めた頬が熱くて、心臓の音がこんなにうるさいんだろう。掠めただけの指がもし、ちゃんと頬に触れていたら。そっと撫でられていたら。そんなことを思って顔が熱くなる。授業中も先生の言葉も何も入ってこなくなる。
 自然と下がってしまった視線の先に見えてた気がするのは、開いた教科書の文字ではなくてさっきの不機嫌を纏った宮くんの顔だけだった。