ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
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!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



12


 放課後、宮くんに謝ろうとホームルームが終わった瞬間立ち上がって振り返る。
 目的は宮くんが帰る前に話をすること。そう思ったのに宮くんはもう教室を出ようとするところだった。うそやんはっや。そう思わずひとりごちた。
 教室の端、遠目から見てもその背はどこか近寄りがたいものを放っているように見えたのは私が朝ひどいことを言ったという罪悪感を抱いているからなんだろうか。都合のいい話かもしれないけれど今日の内に謝りたかったな。ちゃんと話をしたかったな。宮くんがもうとっくに出て行ったその方を見つめたまま動けずにそんなことを思った。

「メッセージしたらええんちゃう?」
「それは……ずるい気がせえへん?」
「そんなことないやろ」

 まあなんにせよ早い方がいいと思うけど、と見かねたあやちゃんがため息をつきながらそう言った。真面目に授業を受けていないのはさておいて、放課後になるこの時間までずっといろいろ考えていた。メッセージをすることも考えたけれど返信がないかもしれない、そもそも読んでもらえないかもしれないと思ったら少し怖かった。だから帰る前に直接声をかけて謝ろうと思っていたけれど。
 直接話しかけに行くという選択肢がなくなってしまった今、その方がいいのかもしれないとそう思い直す。練習に行く前に送ろうか。たぶん時間が経てば経つほど気まずくなるだろうから。そう思うのに手にしたスマートフォンの画面を開いてもそこで止まってしまう。文字でちゃんと伝わるだろうか。そんなことばかり考えていたらちっとも指が動かない。
 とりあえず帰ろうか、とあやちゃんに促されてのろのろと出ようとしたところで宮くんの片割れくんが来て教室の中をのぞき込む。侑ならもう出て行ったで、と銀島くんが声をかけるとはぁ?と驚くくらい凶悪な声が出て思わず振り返ってしまった。

「今日家に誰もおらんから一緒に帰らんとあかんて言うたやろがあいつ!」
「仲良しやなふたご」
「ちゃうわ、鍵あいつが持ってんねん! ほんまあのポンコツ……!」
「治は持ってへんのかい」
「持ってくんの忘れた」

 自業自得やなと明るく笑う銀島くんにもう知らんわ! と言いながら二組の教室を出て行く片割れくんを、夏に宮くんと初めて電話した日のことを思い出して少し微笑ましいなと思いながら見送る。その横であやちゃんが、今日バレー部練習ないん? と銀島くんに声をかけると休みやでーと返ってきた。
 それを聞いてはっとする。本当は休みは無くてもいい、けれどそれを言うとちゃんと休みも取らなあかんと主将にどやされるのだとそんな話をしたことを思い出して顔を上げた。

……あかり、今なら追っかけたら間に合うんちゃう?」
「行ってくる、あやちゃんありがとう!」
「うん、がんばってな~」

 あやちゃんの声を背に教室を飛び出した。どうか間に合いますように。ちゃんと話せますように。そんなことを願いながら階段を駆け下りる。人の行きかう廊下を抜けて昇降口に着いたらちょうど外へ出るとろこの宮くんの背中を見つけた。よかった、そう思ってローファーに履きかえるのももどかしくてその場で大声で宮くんを呼んだ。けれど。
 教室からここまで全力疾走して、いざと思ったけれどさすがに息も絶え絶えで、息を整えようとしゃがみこんでしまいそうになるのをなんとか堪えながら、話を聞いてもらおうと顔を上げると足を止めて振り返った宮くんと目が合った。その目を見てあかんかもと漠然と思った。そう思った通り宮くんが一瞬何かを言いたそうにして、そして顔をゆがめる。
 その表情に言おうと思っていた言葉が一瞬で全部頭から飛んで行った。どうしよう、なんやっけと真っ白になった頭を必死に働かせようとしている内に宮くんは何も言うことなくもこちらを一瞥してそのまま背を向けて行ってしまった。
 どうしよう。いつも何を考えているかわかってしまう宮くんの表情から何も読めない。この間冷えたリンクで感じたのとは別の、足元が竦むような何かがこれまでの楽しかった時間をガラガラと全部崩していくみたいだ、と思った。
 きっともう今までみたいに笑って話すこともなくなってしまうんだろうか。たぶんそうなってしまうんだろう。その答えだけが頭の中で鮮明に浮かんで、その背を追うことも出来ずもうとっくに見えなくなった宮くんの背中を思い出してその場から動けなくなった。




 しばらく呆然としていたらあやちゃんたちがやってきた。
 周りが急ににぎやかになったことに気付いて振り返ると話できた?とあやちゃんに声をかけられた。とっさに間に合わなかった、と答えたのは、これ以上心配をかけたくないと思ったから。それでも心配そうな顔で大丈夫?と言ってくれたのをなんでもない顔で大丈夫、と取り繕って振り切るように昇降口を出た。
 きっともう本当にこれで終わってしまった。あの日“もっと知りたい”と言ってくれた宮くんの気持ちを踏み躙った。終わるもなにも、と自分で招いた結果なのにそんなことを思った自分を鼻で笑った。

 せめてこれからはこんな気持ちにならないように。もしもまた宮くんとこれまでと同じように話をすることができるようになる日が来たら、その時こそ弱い私のこともちゃんと胸を張って聞いてもらえるように——そんな日が来るかは分からないけれど。
 今できることはちゃんとやろう、とのろのろと歩いていたのを無理やりに足を早めて歩き出した。