ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
Public あつむとあの子
 
639508

かけらの紡ぎ

あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
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!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。

4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結



20

 全日本が終わってあっという間に年を越した。ありがたいことに日本代表としてこの後の試合にも出場が決まってより一層気が引き締まる。
 そんな中〝見てろよ〟とひと言届いたメッセージ。昨日の夜宮くんから届いたそれに返信して以降珍しく音沙汰がないのはきっと試合に集中している証拠なんだろう。そんなことを思いながら今日の午前中にあるらしいその試合を見届けるべく、タブレットで配信サイトを開いた。

……なんで自分の試合より緊張した顔しとるん」
「緊張はしてへんけど……ちゃんと試合見るの初めてやし」
「にしたって顔やばすぎやろ……
「そんなひどい顔しとる……?」

 朝練の後、あやちゃんと合流してリンクそばのファミレスでふたり並んで画面をのぞき込む。ちょっと眠そうにしているあやちゃんを付き合わせていることに申し訳なさを感じながら試合開始を待っていた。うちの応援、相変わらずエグいなぁとあやちゃんがこぼす。確かに稲荷崎の応援団も、他の学校の応援も相まって会場内はまだ早い時間だというのに画面越しでも熱気が伝わってきて、この間の自分の試合の熱を思い出した。

「生で見たらもっとテンション上がりそうやね」
「せやなぁ。これと次勝ったら全校応援の連絡来るかもな」
「そうなんや。行ってみたいねぇ」

 見に行けるなら行ってみたいよなぁと話している内にコートに選手が入って整列をしていた。いよいよ始まる。勝てますように、きっと大丈夫、と気合を入れるべく深呼吸したら、だからなんであかりが緊張するんとあやちゃんに笑われたけれどもう緊張はしていない。画面越しではあるけれど、この間私がもらったその熱を宮くんに届けられたらいいなと願った。




……だいじょぶ?」
「ん、ありがと」

 でも悔しいなぁ……と眉間にしわを寄せてぽつりと呟いた。一方的じゃなく、競った結果だから余計に。 
 オレンジ色のユニフォームが印象的な相手チームのブロックで終わった試合はフルセット。最後、そのブロックに弾き飛ばされてコートの端まで飛んで行ったボールを追いかけた銀島くんがコートに落ちたボールを見つめて動かないのを、ネットの側でしゃがんだままの片割れくんと並んで相手コートをじっと見ていた宮くんを、あやちゃんと二人何も言えず画面のこちら側で見ているしかできなかった。

「なんかやるせないなぁ」
「うん……でも、何が起こるか分からないってやつなんやと思う」
……あかりが言うとめちゃめちゃ実感こもってるな」

 実力だけやないなんかってことか。しみじみとあやちゃんんが言った言葉にそうやね、としか返せなかった。今、宮くんは何を思ってるんだろう。へこんだりするんかな。宮くんのことやからもしかしたらもう次のことを考えてたりするんかな。きっと立ち止まることをしないだろうから。もし嫌やなかったら、直接顔を見て話をしたいな。そんなことを考えながらタブレットの画面を閉じた。



 数日後。練習に向かう道すがら、後輩のリンクメイトから入口に怖い人おるから気を付けてとメールが来てどういうことかと首をかしげた。曰く〝金髪のでっかい人が入口の外にずっとしゃがんでる〟とのこと。気を付けるねと返信したもののその外見に心当たりがありすぎる。まさか、いやでも。あの試合の日以来宮くんからの音沙汰はなかったからもしかしてと足を速めた。

「うわぁ、ほんまにおる」
……あ”?」
「ごめんて……ひとまずそんなとこおったら冷えるから中入ろ?」

 案の定入口の側で座りこんでいたのは宮くんで、知らない人が見たらそう言われてもしょうがないくらいの凶悪な顔をして顔を上げた。自動ドアの向こうでリンクメイトたちが心配そうな顔で集まっているのを見てまあそうなるよなぁとひとり笑っていたら、見世物ちゃうぞ……と凄まれた。

「そんな顔しとったら知らん人はびっくりするやろ」
「なんやねんそんな顔って」
「こーんな顔。かっこええ顔が台無しやん」

 こーんな、と言いながら顔をしかめたらそんなブサイクちゃうわと冗談めかして少しだけ笑ってくれる。この時間、この辺りはまだ日陰になっていてこのまま外にいると本当に風邪でもひきかねない。中入ろ、とエントランスに招き入れたら入ってええん? と立ち上がった宮くんが今度は少し遠慮がちに言うから、まだ大丈夫と後ろに回って背中を押してようやく中に入った。そもそも前に来たときはどうしてたんやろうと思うと可笑しくなった。
 リンクメイトたちには同じクラスの子やからと声をかけてから奥まったところにある小さな休憩所の方に向かって、側にある自販機でホットドリンクを買って少しだけ気まずそうにしている宮くんに手渡してようやく人心地ついた。

「はい、冷えたやろ……いつから居たん?」
……さっき」
「うそやろ、あの子らからメール来たの結構前やけど?」
「なんでそんな報告行っとんねん……

 不審者扱いすんなや……と解せない顔をして側のベンチに腰掛けた宮くんの隣に腰を下ろす。お互いに黙ってしまって、熱いせいか宮くんが飲み物をすする音だけが時々ひと気のない休憩室に響く。試合お疲れとも言えず、どうしたん? とも聞けずしばらく無言のままで、時間が過ぎて行った。

……見たんか?」
……うん、見てたよ」
「まじかぁ……

 無言に耐えられなくなったのか、いよいよ宮くんが口を開く。見てろて言われたし、と応えればそうやねんけど……と宮くんが肩を落とす。結果は残念だったし悔しいけれど素人の私が見ていてもすごかったと思うし、頑張らなかった結果というわけでもないからそんなに落ち込まないでほしい。

……宮くんはこう言われるの嫌かもしれんけど」
「あ?」
「いい試合だったなて思ったよ」
……そおか」

 まあいつまでもうだうだ言うてられへんもんな。そう言ってやっと笑った宮くんから目が離せなかった。あの日よりもやわらかい午後の陽に髪色が透ける。きれい。二度目のあの夜は声に出してしまったけれど、今度はちゃんと心の中に留められただろうか。
 いつの間にかお互いの視線がぶつかる。目が合った瞬間宮くんが一瞬目を見開いて、ひとことぽつりとつぶやいた。

 好きや。