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ゆの
2024-07-13 16:43:51
57084文字
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あつむとあの子
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かけらの紡ぎ
あつむとあの子の本編連載 (サイト掲載:2023/08/19~2025/3/23完結)
隣の席の宮くんとゆっくり進む両片思いの話。サイト掲載済。
!名前変換しない場合はデフォ名が表示されます。
!夢主の設定が少し強めです。苦手な方はご注意ください。
4/4 17~21話(17~21ページ目)UP !完結
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夏休みに入ってすぐ始まったシーズン最初の合宿があっという間に終わった。これで終わりではなくてこの後も色々と予定は続く、のだけれど合宿最終日の帰りの電車の中で明日は練習は来たらあかんよ、ちゃんと休むのも大事、と先生に素敵な笑顔で言い渡されてしまった。怪我なんかをしたら元も子もないのはわかっているけれど、どうにも落ち着かなくてランニングでも
……
と外に出ようとしたら今日は休みなんやろ先生に言うで!としっかり外堀を固められていたらしく家族にも大分強めに引き留められた。先生、抜かりなさすぎやないです?
自分の部屋とリビングを無駄に往復したりストレッチをいつもの三倍くらいやったりして、それでも時間を持て余す。今日に限って講習もないし、休むってなんやろう
……
と後から考えたら何言うとるん?みたいなことを思わず独り言ちたら、ツッコミも入れてもらえず盛大なため息をつかれた。今日はおとなしくしとき、とバイトに行くお姉ちゃんにも釘を刺されて言い返すことも出来ずすごすごと部屋に戻ってきた。
おとなしく参考書を開いたり合宿中に撮ってもらった自分の演技中の動画を見てみたりしたけれど、どうにも身に入らない。
——
スケート、したいなあ。合宿中一緒に練習していた選手たちと一緒にしんどいしんどいと言っていたのに、もう今すぐにでもスケートがしたい。そんなことを考えていたらくぅ、とお腹が鳴った。時計を見るといつの間にかもうすぐお昼。なんもしてへんのにどうしてお腹は空くんやろう。やけに悲し気になったお腹をなぐさめるように撫でながら部屋を出た。
お昼ご飯を食べながら、そういえば買い足ししなければならないものがあったなと思い出して外に出てきた。これはたぶん許されるやつ。せっかくならちょっと遠出してみよかな、と電車に揺られて街中の駅ビルまで足を延ばす。さすがに夏休み時期と言うこともあってあちこちにぎわう街を、久しぶりだからとのんびりと見て回っていたその時だった。よそ見をしていてすれ違った人にぶつかってしまった。すみません、と一言謝って立ち去ろうとした
——
のだけれど。
「
……
なんですか?」
「お姉ちゃんかわええやん、怪我せんかった? ごめんなぁ」
「え、あ、大丈夫です
……
」
「お詫びしたいからちょっと付き合ってや」
「すみません急いでるので
……
」
「ええやん、ほらこっち来て」
「ちょ、離して
……
っ!」
顔を上げるとたぶん少し年上の
——
たぶん大学生
——
のやけににやにやとした人に見降ろされていた。いつの間にかがっちりと腕を掴まれてそのまま歩き出そうとする。驚きすぎてとっさに反応できず何テンポか遅れて抵抗してみたけれど取り付く島もない。ええからええから、とさらに強く引かれた腕を掴んでいるその手の感触に嫌なものが身体中に走る。え、まってどうしよう。腕を振り払おうにもその力に抗えず半ば引きずられるように連れて行かれそうになる。通りすがる人たちも、なんとなく視線を寄越すけれどそれだけ。関わらんどこ、ていうのをなんとなく感じ取ってしまった。たぶん私もそっち側やったらそうしてたかもなあとどこか冷静な自分がそう言ったような気がした。けれどほんまにどうしよう。当然力では勝てないし声もうまく出せない。
——
こわい。そう思ってぎゅっと目を閉じた瞬間、反対側にぐいと肩を引かれた。
「
……
おい、何しとるん」
「あ?なんやおま
……
っ」
「なんか文句あるん?」
離せや、と頭の上から聞こえた普段の聞き覚えのある声よりもずいぶん低くてどすの効いたそれに、あるいは平均よりもずっと上から刺すような、圧をかけるような視線に怯んだのか、それまで離す気配が全くなかった腕をあっさり離してご丁寧に舌打ちまでつけて去っていった。そんなすぐ諦めるんなら最初からすんなや、と不機嫌な声。顔を上げると顔をしかめた宮くんが大丈夫か?とため息をついた。
「なん、え、どうして
……
」
「動揺しすぎやろ」
「するやろあんなん
……
」
「まあ、そらそうやな」
「でも助けてくれてありがとう
……
」
茶化すように俺が居ってよかったなあと笑ったけれど、偶然とはいえ宮くんがいてくれて本当によかったと思う。あんなことそうそう無いしきっと一人じゃどうにもならなかったし、まだちょっと掴まれた腕の感触が消えなくてぞわりとした。別に、と素っ気なく言った宮くんの手が離れた瞬間、支えをなくしたみたいに足の力が抜けてその場にしゃがみこんでしまった。
「うわ、ちょ
……
っ、大丈夫か?!」
「ごめん
……
だいじょぶ
……
」
「やないやろ
……
とりあえずどっか座るとこ
……
」
あらへん!なんでや!と周りを見回しながらなんでか慌てる宮くんを他人事みたいに見てたら何だか気が抜けてふは、と声が出てしまう。宮くんにも聞こえたのか何わろてん、とこっちを向いたしかめっ面がみるみるうちに目を見開いた。
「どうしたん?」
「どうしたんて
……
それわろてんのか泣いてんのかどっちやねん」
「
……
え?」
そう言われて気が付いた。滲む視界とぽたりと膝頭に落ちた水滴。それが自分から落ちたものだと気付くのにややしばらくかかった。なんで、と独り言ちる。そして怖いと思ったあの、腕を引く握られた感触を思い出してさらに視界が歪んだ。あんな風にストレートに欲をぶつけられたり、むやみに触れられることなんかこれまで経験したことなかったから。
うわ、ちょおまじで。とっさに伏せた頭の上からそんな声が聞こえた。慌てとるなあ、それはそうやんなあ、こんなに慌てる宮くん珍しなと思ったら少しだけ可笑しくて怖かったあの気持ち悪い感触はどこかに飛んで行った。
「長く付き合わせてもうてごめんね、もう大丈夫」
「ほんまかぁ?」
「ほんまほんま。ありがとうね」
慌てる宮くんの姿を見て涙はあのあとすぐに引っ込んだ。それからややしばらく、少し歩いたところにあったベンチでとりとめもない話をした。宮くんのインターハイのこと、私の夏合宿のこと。今日は何をしていたとか宮くんは夏休みの課題があかんらしいとか。他にもいろんな話をしながら途中で側にあったコーヒーショップで買ったドリンクがいつの間にか空になって、空がうっすらと濃い色になってようやく二人ではたと気付く。待ってなんかもう暗ない?今何時や?宮くんがそう言った瞬間、向こうに見える観覧車のライトアップがちょうど点灯する。それを見てどんだけ居んねん!てかタイミングよすぎん?と二人で顔を見合わせて笑った。
「そろそろ帰ろかぁ」
「
……
送るわ」
「え、ひとりで帰れるよ?大丈夫」
「ええから、行くで」
ベンチから立ち上がった宮くんの背に、ほんまに大丈夫やからと声をかけたけれど聞く耳持たず。数歩先で振り返って早よ行くでと何でもないような顔をして言うから、こんな時間まで付き合わせてしまった申し訳なさを仕舞ってその背を追った。
駅までの道のりをさっきまでの時間が嘘みたいにお互い何にも喋らずに並んで歩く。無言で歩いているほんの少しの気まずさとたぶん今までで一番近い距離で隣にいることへの緊張に気付いてしまった。触れそうで触れない片側だけがなんだか熱を帯びているような気がする。
二人きりなんてそういえば初めてや。そう気付いて急に肩に力が入る。もしかして宮くんにも聞こえてるんじゃないかっていうくらいに心臓がばくばくと音を立てているし、さっき太陽の真下で陽を浴びながら話していた時よりも顔が熱い。うわあ、あかんどうしよう。きっと顔、真っ赤や。陽が落ちててよかった。どことなく歩くのもぎこちなくなってる気がする。もしかして右手と右足一緒に出とらん?
そんな風にいろんな事をぐるぐる考えていたら何かに、たぶんコンクリートの割れ目につまずいてかわいげのない声を上げてしまった。思ったよりも勢いよくつまづいたらしく転ぶ、と思ったのに。
「うそやろ
……
なんで?」
「わからん
……
、っごめん!」
別にぃ、どっか痛めとらんのと何でもないように、たぶん宮くんにとっては本当に何でもないことだったのかもしれない。倒れかけた私をしっかりと抱きとめてくれて難を逃れた。けれどさっきよりももっと激しく心臓が音を立てる。咄嗟にその腕から逃れて距離を取ったら笑われてしまった。
「いや、ほんま怪我せんかったん?」
「だいじょうぶ
……
重ね重ねほんまにごめん
……
」
「なんもないならええけど」
気ぃ付けやと言いながら可笑しそうに笑う。その顔はたぶん、からかったりしてるんじゃないだろうと思った。だってそう言った声が。その目が、今まで見たことないくらいにすごく優しかったから。
そんな宮くんから、まるであの最初の日みたいに目を離すことができなかった。
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