DRRV11037
2024-05-09 11:07:11
11486文字
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金を喰らう魔物

楸谷徹の過去を描いた短い話です。DRRV本編のネタバレはありませんので、お気軽にどうぞ。


自室の机、積み上がった参考書。答えを覚えてしまった問題は使えなくなるから、どんどん買い足さなければならなかった。20年分の過去問も入手して、絶対大丈夫と言えるようになりたくて繰り返し繰り返し繰り返した。

痛みの出てきた右手の指の関節を撫でていると、背後でドアの開く音がした。肩が跳ねる。ママはいつも急だ。僕は慌ててシャーペンを引っ掴んで、勉強の真っ最中だと釈明できる用意を整えた。

「ただいまぁ、あずさちゃん」

よかった、今日は機嫌が良い。僕は回転椅子を揺り動かして振り向き、可愛らしく微笑んだ。

「おかえりなさい」

ママはブランドロゴの紙袋から、なにか布を取り出して広げてくれた。

「これ、貴方の新しい服ね。お父さんには内緒よ。お金がかかるって怒られちゃうもの。でもあずさちゃんって本っ当に美人だから、こういう綺麗な服が似合うと思うの

これを着るのは少し気恥ずかしそうだ。だけど、着るだけで褒めてもらえるならとてもいい。

「ありがとう」

「いいのよ〜!あずさちゃんは可愛いから、自分の服より選び甲斐があるわ。じゃ、洗っておくからね。今度はこれを着てレストランに行きましょうね」

ママは傍に歩み寄り、僕の椅子をくるりと回すと、一緒にテキストを覗き込んだ。

「じゃあここからここまで、19時までに解けたらご飯にしましょうね」

「!」

身体が一気に緊張し、脳が切り替わる。僕は問題に目を走らせ、シャーペンを握り直した。

「昨日は食べてくれなくて悲しかったわぁ

背中からそんな声が聞こえる。

「お母さん、せっかく貴方のために作って待ってたのに、裏切られちゃった。でも今日はできるわよね」

プレッシャーを背に受けながら、ひたすら紙に解を書きつける。
実のところ、ママはあまり勉強のことを分かっていない。だからママの設定するゴールは、あるときは簡単で、あるときは難しすぎた。それでも、たとえ一秒でも休んだら達成できないような目標であっても、応えられなきゃ冷泉北だって合格できないから。

「貴方のためなのよ。」

首筋をぬるい体温がなぞる。
筆が止まる。

「良い教育を受ければ選択肢も増えるわ」

首に腕が回されて、僕は抱きしめられていた。
強く強く、祈るように。

……温かい。

「お医者さんとか、弁護士はどうかしら。何だってなれるわねぇ。」

そんな自分は想像ができない……けれど、ママが望むような姿でありたいと思う。

「あずさちゃんは安全な良い人生を送ってもらいたいの。ママが合格できなかったとこに受かって良い高校、良い大学、良い就職をするの。今苦労すれば将来はずっと楽になる」

とん、とん、とママは元気づけるように軽く叩いた。

「受験まであと40日しかないから。頑張ってね」