DRRV11037
2024-05-09 11:07:11
11486文字
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金を喰らう魔物

楸谷徹の過去を描いた短い話です。DRRV本編のネタバレはありませんので、お気軽にどうぞ。




ぐるぐる──

気持ち悪い──

明るい激しい目眩──

電話の音?

ぐるん!と目玉が裏返ったと思うほど急激に、クリアな視界が戻ってきた。全てが正常に立ち返った。

……身体が、軽い。

放心したまま天井を見上げていると、ややあって、その天井に見覚えがないことを自覚する。しかも辺りには、携帯の着信音が鳴り響いている。

身体を起こすと、すっきりした心地だった。体調が凄く良い。僕は徐々に冷静さを取り戻し、視野が広がっていくのを感じていた。

状況を確認しよう。
まず僕は知らない部屋の、明らかに自分のものではないベッドで、買ってもらったことのないスマートフォンの着信音を聞いている。

なんだ?

何かしてしまったのか?

僕は、傍に置かれていたスマートフォンを観察した。電話が鳴り響いていて、まるで怒られているような苦しい気分になる。発信元は「店長」。じゃあ部屋の主は店員なのか?

しかもこの部屋は、誰かの住み家のようだ。生活感がある。開きっぱなしのクローゼットに引っ掛けられた衣服を見るに、部屋の主は男性のようだ。

僕は再度スマートフォンに目を戻した。着信が止んでから、そっと画面に触れる。携帯を触るのは初めてで少しドキドキする。



あ、指紋認証がかかっている。



駄目元で自分の指を当てると、



──ロックが解除された。



どういうことだ?これは僕の持ち物じゃないはず。僕は携帯を持っていないはず。なのにこのスマートフォンは僕を認証する。

現れた画面には、先程の店長の電話のほか、知らない人からのメッセージの通知が並んでいた。どうやらスマートフォンの持ち主は「トオル」と呼ばれているようだ。

何か日記でもないかと期待してメモ帳のマークを押すと「あずさへ」と題されたメモがあった。

心臓が鳴った。このトオルという男は、僕の名前を知っている。



メモ帳に書かれていたのは、頭がくらくらするような情報の羅列だった。



僕は楸谷徹という名前を使っているらしい。

まだお客さんのいない、最近入店したばかりの見習いのホストで……酒ばっかり飲んで女を口説く仕事をしている、らしい。

店長に拾われて、店の寮に住んでいるらしい。

生活に必要な情報は、メモ帳に全て載せておいたらしい。いつあずさが目覚めてもいいように。

そんなことになってしまった、一ヶ月分の記憶がない。

そもそもトオルは誰なんだ。僕だというのか?意味が分からない。誘拐されたのか、超常現象で別人と入れ替わったのか、いかれた医者の精神実験にでも巻き込まれたのか、色々考えた。

ふと、手鏡が目に入った。
ポーチ型の筆箱からペンがはみ出ていて、なぜか近くに手鏡が置いてある。僕は、自分が自分だという証を求めて、手鏡を覗き込んだ。



……は?」



答えは最悪だった。

僕の知らない男がいた。

僕は変なうねった髪を固めて、蒼白い肌を余計に白く塗って、何となく高そうな黒い服に身を包んでいる。そして、およそマトモでなさそうな邪悪なオーラを有している。気が狂いそうだった。僕の操作で動くはずの肉体が、僕のものではないみたいだ。

でも、よく見ると、

………なんで」

目の下に二つのほくろがあった。それは僕にしかない僕の証だ。髪の色も目の色も、ママによく褒められた鼻筋もそのまんまだ。

あずさは、楸谷徹に変わってしまった。