佐藤
Public P4
 
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P4 chapter2:油断大敵

4月頃の話。うっかり事件に巻き込まれる(全11話)


08.君のことを教えて

「意外とあっさり、信じるんですね………?」

アパートの一室、自身の部屋で紅茶の入ったマグカップを両手で持ちながら、三琴は目を丸くした。その身体は敷き布団の上に腰掛け、薄いブランケットを羽織っている。格好こそ普段着ではあったが、自室ということもあり幾分寛いでいる様子だ。
足立は持参したインスタントコーヒーに台所から拝借したケトルでお湯を注ぎつつ、テーブルのところへ敷かれたカーペットに腰を落ち着けた。

「意外も何も、君の言うことが間違ってるって証拠も無いし、そう言うなら信じるしかないでしょ。
っていうか、テレビに腕突っ込めるって時点で相当アレだよ?」
………それはそう、ですけど。占いはあれだけ信じなかったのに」
「そりゃ、あの時は自分にこんな力があるなんて知らなかったからね。むしろあんだけ常識じゃ説明つけられない体験しておいて、まだ常識に当てはめようと粘着する方が、頭の固い馬鹿だと思うけど」

言いながらぐるぐると小さなスプーンでマグカップの中をかき混ぜると褐色の液体に微細な泡が浮上し、独特の匂いが鼻をくすぐる。カップを持ち上げて口を近づけ、二・三度軽く息を吹きかけてから少しずつ啜るようにして飲み込む。
その温かさにふう、と一息ついてから足立はテーブルにカップを置き、三琴の方へ向き直った。

「それで?なんで君はこの世界のこと知っておきながら何もしないの?なんでもわかるなら、好き勝手良いようにできそうなもんじゃない」
「なんでもわかるってわけじゃないですよ、自分に関することはわからないですし、取り敢えず今知ってる予言は足立さんのことだけです。
今後の展開について起こりうる可能性は知ってますけど、実際どういう風に話が進んでいくかはゲームのプレイヤーによるところで、たぶん私の預かり知らない範疇です。
それに予言といってもゲーム自体の本筋には関係ないような、既に決まっていることの予言ができるだけで、私が何してもさして変わることはないみたいですし」
「ふーん」

なるべく丁寧にと思いつつ編んだ言葉に、さして興味もなさげな相槌が返ってきて三琴は少し脱力した。
「色々聞きたいことがあるから、起きたら呼んで」というメールを見たときにはてっきり今後都合よく利用されるものかと思っていたのだが、どうやら本当に話を聞きたいだけだったらしい。あるいは三琴が予言以外は何もできないということがわかったから早々に興味を失ったのかもしれない。

……自分に関する予言はわからないのも、予言に対して変化を起こすことができないのも、
私がこのゲームの登場人物、この世界の人間じゃないから……だろうか)

今のところ元の世界に戻る方法もわからないし、これから私はどうしたらいいんだろう。
そう考えて、三琴はなんとなく胸のあたりにもやもやしたものが渦巻くのを感じた。なんだか頭も重たい。
自分には何にもできない、一人じゃ何もできない。向き合ったつもりだったもう一人の自分が泣きじゃくるような気がして、三琴はカップを持つ手にぎゅっと力を込めた。

「あぁ、そういえば少し前の話だけどさ、急に冷え込んだ日があったじゃない?」

唐突に間が抜けたような明るい調子の声が聞こえて、三琴ははっとした。
落としていた視線を持ち上げると、いつものようにどこか気の置けない、力の抜けた緩い笑顔を浮かべる足立がいた。

「ほら、君がクッキーくれた日の翌日」
「え、………あー、あぁ」
「覚えてる?君、『コートの他にもマフラーと手袋があったら持っていった方が』とか言ってて、僕がマフラーも手袋も捨てちゃったって言ったらすっごい呆れたような顔しちゃって」

眉尻を下げながら、あの時は正直ちょっと傷ついたよ?なんて言って見せる足立の意図するところを読めず、三琴は疑問符を浮かべた。しかし、次に続く言葉と表情にそれは直ぐ様掻き消える。

「でさ、その時君が貸してくれたマフラー、どーせ使わないだろうけどまぁ一応って思って受け取ったんだけど。すっごく助かっちゃった」

起きて支度して外出たらほんっとに風が冷たいんだもん、びっくりしちゃったよ。僕と同じでマフラーも手袋も持ってないって人が次の日体調不良で欠勤って聞いて、もっと驚いたなあ。

「ありがとね」

そう言って困ったように笑う足立が、なんだかやたらとあどけなく見えて。
三琴は思わず慌てて視線を逸らした。

………べ、べつに、大したことは」
「あ、もしかして照れてる?」
「は……っ!?」
「いつもすました顔してるけど、可愛いところもあるね~」
「あ、はは、またまた、ご冗談を」
「本気、って言ったら?」
「やめてください」
「即答とか……傷つくなあ」

おどけたように言う足立に、三琴は眉を下げながらも内心救われていた。
もしかして、気を遣ってくれたのかも知れない。幾分解れた緊張に胸を撫で下ろす。
気を許すのは不安だけれども、こういうのは嫌いじゃないかも知れない。そう思って、三琴は無意識にほろりと頬を緩めた。

そんな三琴を見つめて、足立もやはり笑っていた。

ここじゃない世界から来て、この世界のことを知ってる、なーんて聞いたら、すごく面白そうじゃない。
もっと知りたい。この子がいったい何なのか。
どうせ帰れないんなら、退屈してる僕にしばらく付き合ってよ。

そうしたらこのクソつまんない世界も、少しはマシになるかもしれないから。


<了>