秋の澄んだ夕焼け空に小さな雲がぽつんと浮かんでいる。英語塾へ向かいススキが生い茂る道を歩くヒルマジュンはその雲をやや切なげに見つめていた。
「ヒルマジュンくんだね。」
そこに濃いグレーのスーツを身に纏った男が現れた。柔らかな顔立ちに似合わない広い肩幅を持つその男とはもちろん初対面であり、訝しむジュンは親や先生から教えられた通りにリュックにぶら下がっている防犯ブザーに手をかけようとした。
「ヒルマジュンくん、ガヴァドンは───可哀想だったね
…。」
その名前を聞いてジュンの手が止まる。

「ヒルマジュンくん、驚くことはないんだよ。あの雲によく似たガヴァドンのことはよく知っている。あの柔らかな肌触りのことも、晴れた日に干した布団のような匂いのことも。」
男はジュンと数名の子供たちしか知らないはずのことを語りかける。共に遊んで楽しかった日々を思い出してジュンの瞳は潤んでいる。男は話を続ける。
「───だがガヴァドンは消えてしまった。大人たちがよってたかっていじめたから───。」
ジュンの脳裏に防衛隊のミサイルを大量に浴び、ウルトラマンブレーザーによって空へ運ばれていくガヴァドンの姿が蘇る。男はシャツの襟のヨレを直しながら間髪入れずに言い放つ。
「ヒルマジュンくん、大人って勝手だと思わないか?生き物を大切にしなさいと言いながら邪魔になったら排除する。仲良くしなさいと言いながら戦争を繰り返す。そんな矛盾する奴らに地球を任せていいのだろうか?」
ムジュンって何だろうと思いながらもジュンの表情は固まったままでいる。男は屈んでジュンの目を見つめて言う。
「ヒルマジュンくん、私にこの地球をあげますと言ってくれないか?地球を人間と怪獣が仲良く暮らせる星に作り替えてあげるよ。」
「え?」
「重大な決断だからね、今すぐじゃなくていい。近いうちにこの名刺を通してまた会った時に返答をしてほしい。」
「??く人 メフィラス
…。」
「種蒔く人 メフィラスと読むんだよ。」
ジュンが名刺に書かれた文字を再び読んでいるうちにメフィラスと名乗るその男の姿は消え去っていた。ジュンはしばらく呆然としていたが塾に行こうとしていたことを思い出して慌てて走った。
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