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黒竹
2022-05-30 22:11:18
32290文字
Public
スタリラ
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黄金の地平 銀の地図
【スタリラ】【晶栞】
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「されど舞台は続く、か」
まあまだ始まってもいないとも言えるのだけれど。
続き続けている舞台、永遠の舞台のそのひとつ。それを最高のものにするために動いている人物がひとりいる。
鶴姫やちよは手の中で遊ばせていたスマートフォンを操作して、受信したメッセージを呼び出した。
グループではなく個人宛てに送られてきたそのメッセージを、つまらなそうに眺める。
「晶センパイを誘惑しろとか言われるよりマシとはいえ、これはちょっといただけませんねぇ」
とはいえ、逆らうのも難しい相手からの指示だ。とりあえず従うふりをしているけれど、いつまで続くのだろう、これは。
「スパイごっこは好きですけど、こういうのはちょっとね」
もともと、リュウ・メイファンと夢大路栞は仲が良い。
というかメイファンが栞に故郷の妹を重ねているせいで埒外に過保護なのだ。栞も自立心はあるのである程度のところでブレーキをかけるが、それでも親密さでいえば頭一つ抜けている。
それを少しだけ目に見える形にしてやるだけでいいと言われたものの、なんだか思っていた以上に効果が抜群で、晶に同情してしまった。
鶴姫やちよ、わりと良識的なのである。
レッスンでくたくたのはずなのに妙に目が冴えている。就寝の点呼もとっくに終わっているこの時間、空気は密やかだった。
やちよ自身は衣装製作の際によく徹夜をしているので肉体的なつらさはそれほどでもない。しかし、このまま起きていても仕方がないので、どうにか睡眠を呼び込むために、共同キッチンへ向かった。ホットミルクでも飲もうと思ったのだ。
「晶センパイを最高の王にするために、晶センパイの感情すら殺そうとする
……
かくも舞台少女というのは、因果なものですねぇ」
歩きながらひとりごちる。
舞台に生かされている舞台少女は、舞台のために『何を生かすか』さえ自分で選べない。
「ミチルセンパイだって、晶センパイと出会っていなければ充分に王を狙えたはずなのに」
それもまた運命、か?
最高の役者で演じる最高の舞台を目指した舞台少女は、自分自身も含めて舞台装置になることを選んだ。
「自分たちは所詮社会の歯車だ」などとうそぶく大人がいるが、歯車はひとつでも欠けたら機械は動かなくなる。それほどの価値が己にあると思っているならずいぶん傲慢だ。壊れたら交換すれば済むなどと、どの口が言うのか。交換までにどれだけの損失が生まれると思っているのだろう。その損失は取り返せない。
壊れず狂わない歯車の、なんと優秀なことか。
自分たちは正真正銘歯車である。白金の王を輝かせるための舞台装置である。シークフェルト音楽学院は、その歴史は、エリュシオンは、
気高き君
エーデル
はただ一人の王に差し上げる王冠そのものである。
そのことに不満はないが。
永遠の舞台『エリュシオン』。永遠に続く舞台は無限に終わり続ける。終わりと終わりと終わりが次の終わりと終わりと終わりに続いてそれからさらに次の終わりと終わりと終わりに。
物語は終わる、どうしようもなく終わる。永遠に続いても終わり、永遠に続く。
無限個の終わりのうちのひとつ、自分たちが演じる『エリュシオン』はこの一度しかない。二度と来ない永遠。だからこそ最高の輝きをと彼女は言う。だからこそ余計な要素はすべて排除すると彼女は言う。
歴史に名と誉を残す。それはご立派な目標ではある。そこに至るため、これまで彼女がどれだけの苦労を重ねてきたか、想像するに難くない。
これまでの歴史すべてを手中に収め、掌中に掴んで舞台へ上がり、舞台の上で飲み込んで血中に巡らせる。
その手がえがく、ひとりの王。
ねえ、宰相殿。
真珠の君
フラウ・ペルレ
は現実には呼ぶことのない呼び名で彼女を呼ぶ。次の永遠でその名を冠するのは彼女ではない。
それでも、あの失われた『もしも』の世界で生きた
蒼玉の君
フラウ・ザフィーア
に鶴姫やちよは呼びかける。
なんかちょっと、あなたの王を過小評価しすぎじゃないですかぁ?
平時と変わらぬ間延びした声で、言う。
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