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黒竹
2022-05-30 22:11:18
32290文字
Public
スタリラ
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黄金の地平 銀の地図
【スタリラ】【晶栞】
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どうも最近、雪代晶の様子がおかしい。
生徒会室の窓から外を眺めていたかと思えば、前触れなしに忍び笑いを洩らしたりする。
「何か見えるの、晶?」
予算管理計画書をななめ読みしながらミチルが問いかけると、「いや」笑い混じりの返答。
「あそこでドラを鳴らした者がいたな、と思い出しただけだ」
言われてすぐに思い当たる。そんなことをした生徒は、知る限り一人しかいない。
ミチルもあははと苦笑いをして晶の視線を追った。
「あったね、そんなこと。あの後でメイファンを
紅玉の君
フラウ・ルビン
に指名したら大騒ぎになったっけ」
「とんでないインパクトだったからな。我々より一足先に、シークフェルトの歴史に名を残したな、あいつは」
「名は残ったけど、名誉なのかどうか微妙だけどね〜」
「来年から
気高き君
エーデル
志望者が我先にドラを鳴らしたらどうする、と教師陣に言われたしな。もしかすると本当に真似をする者が出るかもしれん」
「あは! いいじゃない、楽しそうで。伝統を守るばかりで新しいものが生まれなかったシークフェルト音楽学院に、新しい風を吹かせたのかもしれないよ」
「そんなこと思ってもいないだろう」
やれやれと息をついて、晶が的確に指摘してくる。
そのとおりだった。鳳ミチルは何よりも伝統を重んじる。この学院に伝わる最高の戯曲を。それ以外はわりとどうでも良い。ドラを鳴らす生徒が続出しようが、それで結果的に『エリュシオン』が良いものになるなら大歓迎だ。
逆に言えば。
『エリュシオン』の醸成を邪魔するようなものは、すべて排除したいと考えているのが、鳳ミチルだった。
まだニヤニヤしている晶の横顔を、薄い視線で見つめる。
「思い出にひたるのもいいけど、『エリュシオン』は刻一刻と近づいてるからね。晶、気を緩めないで」
「ああ、承知しているとも。我々の夢、大いなる舞台だ」
威厳のある低い声が応えてくる。
長かった、というのが正直な感想だ。
公園で声高らかに名乗り口上を響かせてから、ずっと、自分のすべてを彼女の夢に捧げて。
この純真な親友のために、どれだけのことをしてきただろう。
目的のためにありとあらゆる筋道を立てて、目印を置いて、道をえがいて、他人を操って、時には自分自身も操って。
驚いたことに一片の後悔もない。
楽しかったとさえ、言える。
──ミチル、基本的に性格悪いのかなー。
色々と回顧するにつれて、自虐的にそう思った。
「揃いも揃って、今年の
気高き君
エーデル
は個性的なんだから。まとめるのも一苦労だよ」
「それは感謝している。私ではとてもじゃないがあの三人を御しきれなかったろう」
「いーのいーの、晶は抜群のカリスマ性でドーンと構えていれば。王ってそういうものだもん」
ひらひらと手を振りながら言う。そう、絶対王者として彼女を君臨させるために、この立場を選んだのだ。真ん中に立つのは彼女、それ以外の全ては自分。そう役割分担を決めた。
「晶はシークフェルト馬鹿でいてよ。それが一番助かるんだから」
「そうか? まあ、お前がそう言うなら」
「うん」
それにしても。
「ねえ晶。さっき、本当にメイファンのことを思い出していたの?」
「ああ、そうだが、それがどうかしたか?」
「
……
ううん」
まったく、馬鹿にしている。
ミチルは椅子に深く腰かけ、背もたれに寄りかかって両手を組んだ。天井を仰いで細長く息を吐く。
いったい、何年の付き合いだと思っているんだろう。
おそらくそれは彼女の油断だ。最も油断してはいけない相手が、最も油断しやすい親友だった不遇。
「どうしよっかなぁ」
ほとんど口の中から出ない、吐息だけの呟き。
制服のポケットからスマートフォンを取り出して、画面を眺めた。
いつかの光景を思い出す。
上着を脱いだ格好で作業していた彼女の手が止まった、その一瞬の、表情。
その視線の先にいた少女。
ここに来て、彼女があんな顔をするなんて。
「
……
『エリュシオン 神世の章』は、何も知らない無垢な天の神のお話だよ、晶」
だから君は、何かを知ってしまったら、いけないんだよ。
君は、完璧な王として舞台に立たなければいけないんだから。
そのために私はここにいるんだから。
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