黒竹
2022-05-30 22:11:18
32290文字
Public スタリラ
 

黄金の地平 銀の地図

【スタリラ】【晶栞】


10

「あーあ」
 デスクでひとり頬杖をつき、鳳ミチルは大きくため息をつく。
「結局こうなっちゃうのかぁ」
 と、ドアが勢いよく開き、「ただいま戻りました!」元気いっぱいリュウ・メイファンが生徒会室に入ってきた。その後ろを鶴姫やちよがついてくる。
「お疲れさま」
「お疲れさまです! どうしたんですミチルさん、浮かない顔ですね」
「ちょっとね〜。計画が崩れちゃったからどうしようかなって考えてるとこ」
 メイファンは首を傾げ、よく分からないけど大変そうだなとうなずいた。
「けっこう上手くいってたんだけどなあ」
「頑張ってください! 私にできることがあればなんなりと!」
「あはは、ありがと。メイファンとやちよは、今のままレッスンを重ねて、エリュシオンで集大成を見せてくれれば充分だよ」
「あら、あたしもですか?」
 ちょっと意外そうにやちよが言う。さては根に持ってるな、と胸中で毒づきつつ、ミチルは人好きする笑みでうなずいて見せた。
「もちろんだよ。あとは栞をどうするか、だね。ああもう、頭が痛いったら」
「栞ですか? 確かに最近ちょっと調子が悪そうでしたが、晶さんが殺陣の練習に付き合ってあげているのできっと大丈夫ですよ」
「それが問題なんだけど……。だいいち、計画崩れっていったらそこからなんだよね」
 やれやれと突っ伏すミチルに、メイファンとやちよが首をかしげた。
「もともと私の計画に、今年の『エリュシオン』のキャストに栞は入っていなかった」
「ああ、そうですよね。栞が入ったのは彼女のお姉さんが転校してしまったせいですから」
「そうだよ。それがなければ翡翠の君 フラウ・ヤーデは文のまま。役柄的に栞が紅玉の君 フラウ・ルビン真珠の君 フラウ・ペルレに選ばれる可能性はなかったし、安泰だったはずなんだけど」
 メイファンが椅子に腰を下ろし、不満そうに目を細めてミチルに向き合った。
「栞だって立派に翡翠の君 フラウ・ヤーデとしての責務を果たしています。お姉さんがどれほど優秀だったのか知りませんが、栞が引けをとっているとは思えません」
 かわいがっている後輩をないがしろにするような発言をされて我慢できなかったらしい。「そういう意味じゃなくて」誤解されているのでミチルはそう言いさして首を振った。
「厄介なのは晶のほう」
「晶さん?」
 ミチルが特大のため息を吐き出した。
「晶、昔っからああいうタイプに弱いんだ」
 金の髪と、小柄な体躯と、人好きする笑顔と、理知的な瞳と、舞台のために身を投げ出す献身と。
 聞きながら、メイファンがあれ?と首を捻った。
……なんだか、そういう人をもうひとり知っている気がします」
「だから、昔っからそういうタイプに弱いんだってば。誰だっていけ好かない相手より好みな相手に言われたことのほうが聞いてあげたくなるでしょ?」
 鳳ミチルは、雪代晶を王様にするためだったら、なんでもしようと決めていた。
 自分自身を殺すことすら厭わないくらいに。
 ふーんと相槌を打ったメイファンだったが、それでも食い下がるように言葉を続ける。
「それは、逆のような気がします」
「逆?」
「昔から一緒にいた、一番信頼している人と同じタイプに弱くなったのでは?」
 あなたが寄せたのではなく、始まりはあなたなのではないですか?
 リュウ・メイファンはヒーローだ。
 ヒーローは、いつだって正しい。
 誰かのそばにいる理由。
「まさか」
 ミチルはメイファンの推測を一笑に付し、「さ、お仕事お仕事」気持ちを切り替えさせるためにひときわ元気に声を出した。
 蒼玉のピースは一つ残らず一切の間違いもなくあるべきところに嵌っており、完璧な完成形を作っている。
 そう、八年ほど前から。