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kaisou
2026-04-14 12:53:12
11711文字
Public
1740年コンクラーヴェ話
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Habemus Papam. 我らは教皇を得たり
1740年コンクラーヴェ話・別視点7
コンクラーヴェ後の話。新しい教皇を得て、世界が前へ進みはじめる。自分だけは手放さない
※歴史創作なので悪しからず
▼本篇まとめ
Aliquid est quod memoria mea non relinquit.
私の記憶を離れないものがある
https://privatter.me/user/kaisou_ja?category=110867
全7章/幕間含む
1740年コンクラーヴェ話の本篇その2
視点違いの2つの話のうちの1つ。
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祝意のざわめきはまだ遠くで続いていた。その外側へ引かれるようにして、コシアの意識はさらに古い時間へ沈んでいく。
思い出すのは、収監中のことだった。
黴の匂いと、遠い水音。外と切り離された長い時間。昼も夜も同じ暗さの中で、確かなものは何もなかった。判決も、先のことも、すべてが遠く霞んだ。それでも手放さずにいたものがある。裁きの文句でも、罪名そのものでもなかった。
あの人の傍らで過ごした時間だった。
外から見れば、側近の務めでしかない。書簡を選り分け、会わせるべき相手を選び、教皇のそばで過不足なく手を動かす。そういう役目を望んだのは、コシア自身だった。形に収めておかなければ、もっと別のものが露出する。形はそのためにこそ要った。でも、実際にはそれだけでは済まなかった。
二人きりのとき、オルシーニは私的なものを隠さなかった。人前では伏せる疲れや迷い、言葉になる前の沈黙、判断を下す前のためらいが、そのままコシアの前に置かれる。隠してもよい相手だと思っていない、その無防備さだけが残る。信頼なのだと自分に言い聞かせた。実際、その通りでもあった。下心のないものを差し出されるたび、かえって抜けられなくなった。受け取る側だけが汚れていく。コシアはそれを、自分だけに許されたもののように感じてしまう。
そう感じること自体が、もう見苦しい。
わかっていて、なお変えられない。だから彼は、腹心としての手際を手放さない。そうしているあいだだけ、この距離はどうにか形を保つ。
近いほど、かえってよそよそしくなる。声の低さも、燭台の光の中で落ちる影も、ふとした拍子に近づく息の気配も、全部わかる。それでも、その近さには決して手を伸ばさない。伸ばしてしまえば何かが崩れる。手を止め、務めへ戻り、また同じ距離へ収まる。それを繰り返す。繰り返すたびに、抑え込んだものが少しずつ根を深くする。
着せられた罪名を、打ち消そうとは思わなかった。弁明したところで、何が戻る。名誉か。金か。そんなもので済むなら、ここまで長く手放せずにいるはずがない。返ってこないのは、些細で、取るに足らぬように見えて、だからこそ代えがきかなかった。
人払いの済んだ夜にだけ成り立つ沈黙。
何かを言いかけて、結局言わずに終わる気配。疲れた夜、少しだけ浅くなる呼吸。人前では決して見せない重さが、ただ自分の前にだけ落ちる、その瞬間。
そういうものばかりをコシアは覚えていた。覚えていて、それで足りるはずがなかった。問われた罪が見直されたところで、あの日々は返らない。ならばもう、どう呼ばれようとかまわなかった。醜く呼ばれるほうが、むしろ都合がよかった。きれいな顔で遠ざけられるより、汚れた影として残るほうが、泥の中から這い上がった自分にはふさわしい。浅ましいと知っていて、なお手を離せない。あの人のそばにいた事実だけは失われない。その一点だけが、黴の匂いの中でも、妙に澄んで残った。
その執着のまんなかに、ある夜の記憶があった。
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