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八上
2026-03-17 17:22:38
16185文字
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鬼の打掛
夜昂と玖寂の話。夜昂の因習実家関連の決着話(予定)
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■家探し
窓を遮光カーテンで覆われた部屋は真昼でも薄暗い。玖寂は決して広くはない部屋をざっと見渡し、ある程度の目星をつけた。
大伯母、天槻・弥貴子の書斎を調べて欲しい、というのが天槻・睡蓮からの依頼だった。鍵を掛けられているので真っ当には入れないのだという。
『突然、あの人を迎え入れると言い出したのはあの大伯母です』
そう口にする睡蓮の目は疑念の色で満ちていた。
彼女は睡蓮と夜昂の祖父の姉で、元は他の家へ嫁いで行ったが、夫と離縁して出戻ってきて以来、長年天槻本家のご意見番として、男尊女卑の根深いこの家で、女性でありながら時に当主に匹敵する権力で君臨しているという。
確かに怪しい、と思う。しかし証拠がない。だから探す。本人が警察の事情聴取に引っ張られている間の限られた時間の中で、玖寂は家探しを始めた。
書斎というだけあって、収蔵されている物はほとんどが文献だった。それも古い物が多く、解読が難しいものもある。そんな中でも多かったのは『鬼女』にまつわる書物だった。
玖寂に分かったのは流し読み程度だが、どうやら天槻家には鬼女にまつわる伝承があるらしい。彼女はそれを熱心に調べていたようだ。文献や手記への書き込みがそれを物語っている。
『お山の鬼女』に『兄』を与える。そうすれば鬼女は天槻家に恩顧を与え、栄える、といった内容であるようだった。戦後あたりからは”それ”が途絶えているとも。
手記に書かれた文章を読むだけでも彼女の『お山の鬼女』への執念は凄まじく、同時に天槻の家人への罵詈雑言も散見された。
『敬悟を連れて行くには遅すぎた。お山の鬼女に捧げるには妻も子供もいない男でないといけない』
『睡蓮の婿選びが難航している。男など一皮剥けば皆同じなのだから早く決めてしまえ。そして私が生きている間に兄妹を産め』
そして最も最近と思われる記述はこうだ。
『あの馬鹿と端女にも褒めるべきところがあったとは』
――
この人物が手記に何でもかんでも書き残す人種で本当に助かった。
物を持ち出すのはリスクが伴うため、頭の中に調査の結論だけを持って、執念に満ちた書斎を後にした。
落ち合った睡蓮に調査結果を伝えると、彼女は考え込むように手を顎に当てた。
「
……
では、あの人は鬼女への生贄としてお山に連れ去られたと?」
「そう思います。お父上が殺されたのは目眩しでしょう。もし他殺を疑われたとしても、夜昂くんに全部被せればいい。彼には一応動機がないこともないみたいですし、死人に口はありません」
「
……
」
睡蓮は指先で頬を叩きながら考え込んでいる。この状況で随分肝が座っている娘だ。
そして、玖寂の想像していた言葉を口にした。
「もうひとつお願いが出来ました」
「構いませんが、別料金でお願いします。危険手当も必要なので」
「
……
相場を知らないんですが、如何程必要ですか?」
「そうですねえ、」
玖寂が『相場』を告げると、怪訝そうに睡蓮の眉根が寄った。
「それは相場というか
……
それを決めるのは本人では?」
「そうかもしれませんね。天槻としてはどうです?」
「別に構いません。私はその方が困らないので」
そう言って睡蓮は、玖寂の顔を覗き込んで笑った。
「
……
貴方、意外と執着するんですね」
「自分でもそう思います」
仕事に必要な情報を聞き、また勝手口から出てください、と睡蓮に促されて廊下を歩いていた時、角の向こうに気配を感じて隣を歩いていた彼女を引き止めた。廊下の角から静かに現れたのはきっちりと和服を着込んだ品のある老女であった。彼女はこちらに気づくと、口元だけの笑みを浮かべた。
「まあ、睡蓮さん。敬悟さんが亡くなったばかりだというのに、殿方なんか連れ込んで。どこの誰かしら」
開口一番の不躾な質問に、睡蓮はにっこり笑った。
「ご心配なく大伯母様、父と懇意にしていた探偵さんを雇ったんです。父が自殺だとはどうしても考えられなかったものですから」
「まあまあ、睡蓮さんは心配症ね。ああでも、夜昂さんがいなくなってしまったし、あの子が思い詰めてしまったのかもしれないわね」
ほほ、と上品に笑うが、話の内容はとても品が良いとは言えない。
「ではね。探偵さんも、くれぐれも我が家で余計なことはしないように」
「承知致しました」
その場を去ろうとする老女に玖寂は一礼した。
――
すれ違いざまに、玖寂は老女の着物の後ろ帯に僅かに触れるようにして隙間に手の内の何かを押し込んだ。
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