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八上
2026-03-17 17:22:38
16185文字
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鬼の打掛
夜昂と玖寂の話。夜昂の因習実家関連の決着話(予定)
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■急逝
夜昂が天槻家に”引き取られて”から一週間ほどが過ぎた頃、八上・玖寂の端末に天槻・敬悟から連絡があった。
『会って話したいことがあるが、屋敷から離れられないのでこっちに出向いて欲しい』
凡そそんな内容の連絡に内心首を傾げつつも、玖寂は予定をつけて、その一週間後に天槻の本家が構える屋敷へと向かった。天槻本家の邸宅は大阪と京都の県境付近にある。新幹線で約三時間、在来線と私鉄に乗り換えて約一時間、徒歩で約三十分。
天槻から最初の依頼を受けてここ数年、今までにも何度か足を向けたことはあったが、やはり公共交通機関は疲れる。久々の車以外での移動に人知れず溜め息をついたところで、違和感に気づいた。
「
……
警察?」
すぐに玖寂は電柱の影に身を潜めた。
天槻家の屋敷の前に、数台のパトカーが止まっていた。
「
……
」
玖寂は一旦その場を離れると、大回りをして屋敷の裏手に出た。勝手口の取っ手に触れると、鍵が掛かっている。針を取り出して鍵穴へ差し込み、ものの数秒で解錠すると、人目につく前に敷地内へ身を滑り込ませた。開けた鍵を閉めておくことも忘れずに。
人目を避けながら母屋の廊下を歩いていると、縁側に身知った人影を見つけた。足音を立てずに歩み寄る。
「お久しぶりです、お嬢様」
そう声を掛けた、二十歳くらいの眼鏡をかけた女性は、玖寂を見ると翠の瞳に驚きを隠せずにいたが、すぐに彼の手首を掴んで近くの部屋に引き摺り込み、襖を閉めた。前々からそうだったが、勘が良く判断の早いご令嬢である。
――
かつて玖寂が彼女の父親と仕事話をしに来たところに、目ざとく玖寂を見つけて話しかけてきたことを思い出す。
「玄関には警察がいたでしょう。どうやって入ってきたんです」
「勝手口もディンプルキーか電子錠に変えることをお勧めします」
「
……
最近扉ごと新しいものに変えたばかりなのに」
天槻本家のご令嬢にして夜昂の異母妹
――
天槻・睡蓮は頭を抱えた。
「で、なんで今更この家が警察のお世話になっているんですか?」
「
……
人死にです」
睡蓮は苦い顔をして言った。
「父が、自室で死んでいました」
玖寂は眉をひそめた。
「どういう状況ですか」
「家政婦が客人のもてなしをどうするか確認しに父の部屋へ行ったところ、首を吊っていたと」
客人とは玖寂のことだろう。彼に呼ばれたからこそ、玖寂はわざわざこの屋敷までやってきたのだから。
「客が来る予定のある人間が首を吊りますか?」
「家政婦や私はそう言いましたが、近くに遺書らしきものがあり、他の家人たちが頑なに自殺だと」
露骨に怪しい。推理小説ならこの時点で本を閉じて捨てられるレベルだ。
考えられるのは、天槻・敬悟から玖寂への招待自体が虚偽で本当に自殺したケース、もしくは今日彼に客が来ることを知らない者が犯行に及び、自殺に見せかけたケース。前者は正直なところ考えにくい。天槻・敬悟と玖寂の繋がりを知っているのはこの睡蓮くらいだが、彼女に連絡の偽装をする手段は考えられないし、わざわざ玖寂を呼ぶ必要もない。後者の場合、睡蓮と発見者の家政婦以外の家人は主犯格に抱き込まれていると考えていい。
……
いや。
「夜昂くんはどこに行ったんですか。彼も自殺だと?」
「あの人は
……
見当たらないんです、屋敷のどこにも」
「何?」
「父が発見されて屋敷の中が騒がしくなっているうちに、いなくなっていて。この混乱に乗じて逃げたのではないかと言う者もいます」
本当に逃げたのか、それとも連れ出されたのか今のところ分からないが、この状況で”いるべきところにいない”ことは、彼にとって非常に不利になるのではないか。
玖寂が思考を巡らせるうち、睡蓮が「あの、」と唐突に切り出した。
「あなたは対価を払えばどんなことでもしてくれるんですよね」
「
……
そうですね」
「お願いがあります」
睡蓮の翠の瞳が強い意志を感じさせた。
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