ユキ
2026-03-02 13:48:45
12513文字
Public 🌲🎏
 

🌲誕SSまとめ

こちらのワードパレット(https://x.com/torinaxx/status/2020069268432568568?s=46 )をお借りして🌲🎏ssを書かせていただきました
設定は違いますが、全部🌲の誕生日のお話です


4.『沈丁花』(転生現パロ)

かぐわしい
誘われるように
変わらない

-----------------------------

「いらっしゃい」
「お邪魔します……ん?」
玄関の扉が少し軋んだ音を上げながら開いた先、まだ肌寒い日も多いというのにTシャツと短パンを着た男の部屋から漂ってきたかぐわしい香りにすん、と鼻を鳴らす
時々貰い物だからといって部屋に置かれている香り物の類とは少し違うような、どこか爽やかな甘い香りに誘われるように部屋の中に足を進める
何度も来ている見慣れた部屋の中、写真立てが置かれた棚の上に白い花が生けられた花瓶が目に入った

「お前花瓶なんて持ってたのか……
「なにそれ、喧嘩売ってる?」
発言の物騒さとは裏腹にカラカラと笑いながら冷蔵庫を開けた杉元が何か飲むか聞いてくるのに、来る途中で見かけたチョークで描かれた期間限定商品が気になったので買ってきたコーヒー店の紙袋を掲げる

「誕生日プレゼントだ」
「わっ!ありがとー!」
……冗談だ」
文句は言われないだろうがどんな反応をするかな、と揶揄うつもりだったのにこんなに喜ばれるとは
俺のは無いの……と情けない顔で見てくる男に紙袋毎渡して好きな方を選ばせてやる。ぱぁっと明るくなった顔が可愛いなとか思ってしまったのがなんだか悔しくてむき出しの脛を蹴り上げた

……で?どうしたんだアレは」
「んー?あぁ、貰った」
暖かいからとコンセントが繋がれていないコタツに入って桜味は何味なのかとかそんなくだらない事をダラダラと話しながら、そういえばとこいつの部屋にあるのが不思議なくらい立派な花瓶に目をやる
さらっと言われた一言に頭に疑問符が浮かぶ
自分でも言葉が足りていなかったと気が付いた杉元曰く、近所のご婦人に頼まれて部屋の電球を変えてあげたらお礼として庭に咲いていた沈丁花と花瓶を貰ったらしい

……アレやっぱり高いやつ?」
「どうだろうな」
恐る恐る聞いてくるお人好しに適当に返して艶々と咲き誇る花を見上げる

……お前にピッタリだな」
「え?ほんと?」
なんで嬉しそうなんだこいつ
少し頬を赤くしてくねくねと気持ち悪い動きをする杉元の足を蹴れば、そこまで痛くもないだろうにぶうぶうと五月蝿い男を頬杖をついてまじまじと見る
どんな因果か出会った時には付いていた『あの頃』と同じ傷
今は無い胸の傷跡がじくりと疼いた気がしてそっと手を当てる

「鯉登?」
…………お前は変わらないなぁ」
同じなのに違う
変わっているはずなのに変わっていない
じっと何を考えているか読み取れない静かな目で真っ直ぐに見つめてくる何も覚えていないこいつは、本当かどうかも分からない『昔』を懐かしんでしまう私をどう思っているんだろう

……よく分かんないけどさ」
「うん?」
「鯉登はこの花が俺にピッタリだと思ったんだよね」
……ん、そうだな」
そっか、と頷いてスマホを取りだした男が少し操作して首を傾げちらりとこっちを見てくる

「あのぅ……この花、なんて名前……?」
情けない顔で聞いてくるこいつの顔が面白くてなんだか馬鹿馬鹿しくなって
思い切り笑って後ろに転がって
出てきた涙をこっそり拭った