ユキ
2026-03-02 13:48:45
12513文字
Public 🌲🎏
 

🌲誕SSまとめ

こちらのワードパレット(https://x.com/torinaxx/status/2020069268432568568?s=46 )をお借りして🌲🎏ssを書かせていただきました
設定は違いますが、全部🌲の誕生日のお話です


3.『桃の酒』(原作後)

お酌
ほんのりと色づく
理由がほしい

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「少し付き合え」
久しぶりに会った少尉からの誘いに珍しいなと思いながらも頷いた。三月になってもまだまだ雪が残っている道をピンと背筋を伸ばして歩く青年の背中をどこか浮き足立った気持ちで眺める

所用で訪れた町でたまたま会っただけだけど、今日この日にこいつに会えて、しかも誘われたって事にだんだんと落ち着かなくなってソワソワと周りを見ながら歩いていたからか、いつの間にか立ち止まっていた鯉登少尉の背中にぶつかってしまった
ほんの少したたらを踏んでじろりと睨めつけるてくる青年にごめん、と謝れば大きいため息をついてから目の前の扉を開けて中に入っていく

入ってもいいのかな、と開けられたままの扉の前で躊躇っていたら思いっきり腕を引かれた
足を踏み入れた先で、勢い余ってぶつかった鯉登少尉が後ろに倒れそうになるのを慌てて抱きとめれば、柔らかくなんてない鍛えられた身体からほのかな汗の匂いと何となく甘い感じのいい匂いがして慌てて手を離した

……ごめん」
「いや……さっさと中に入れ」
ふいっと背を向けて中に入っていく鯉登少尉の襟の隙間から僅かに見える肌が赤く染っているのが見えて
だめだ、と茹だりそうな頭をぶんぶんと振って先を行く青年の背を追いかけた

湯を使わせてもらって、替えの服まで用意されていて
目の前に並ぶなんだか豪華な気がする食事の前で正座している俺の前に差し出された徳利
お酌しろってことかな、と受け取ろうとすれば違うと怒られてしまった

「お前今日誕生日だろう」
…………へ」
呆れたような顔で早く、と言う鯉登少尉に気圧されて持ち上げたなんだかすごく高そうなお猪口の中に注がれた酒の表面がゆらゆらと揺れているのをぼやっと見ていれば自分で注いだ鯉登がすっと猪口を持ち上げる

「誕生日おめでとう」
…………ありがと」
恐る恐る口を付けた酒はすごく美味しくて、ほぅと息を吐いて顔を上げると、なんだか意地悪い感じで笑う鯉登少尉

「コレはかけてもシミにはならんぞ?」
……かけんなよ」
ははっと楽しそうに笑う鯉登が、なんだかすごく大人びているように感じて落ち着かない気持ちでぐいっと盃を空けた

「だいたい、貴様らはいつもいつも……
「あーはいはいごめんごめん」
美味しいお酒に美味しい料理
気を使う必要もなく軽口を叩きながら飲んでいればだんだん酔いも回ってきて、気が付けば目の前に座る鯉登のきっちり着込まれていた着物は、さっきちょっとだけ取っ組みあったからか少しはだけていて、ちらりと覗いたほんのりと色づく肌からそっと目を逸らした

そろそろ休んだ方がいいだろうと声をかければぼんやりと眠たそうな目でそうだな、と鯉登が頷く
俺はこのまま床でもいいけど、こいつはちゃんと布団で寝かせてやりたい
少しふらつきながら立ち上がり、ゆらゆらと機嫌良さそうに揺れている酔っ払いに布団の場所を聞いて、もにょもにょと口の中で呟かれる言葉を何とか聞き取って引っ張り出した布団の上に鯉登を転がす
はぁー、と布団の横に座り込んで何が面白いのかずっとくふくふと笑っている鯉登の頭を撫でてやる
こいつが俺の誕生日を知っていた事も、祝おうと思ってくれた事も
意外だったけどこいつらしいなって思えるのが不思議だ

「すぎもとぉ」
「んー?」
「たんじょぉび、おめでとぉ」
…………うん、ありがと」

ふふ、と満足そうに笑った鯉登の呼吸が深く穏やかなものになってから大きく息を吐いて頭を抱えた

「どぉしよ……
手を伸ばすには問題がありすぎるこいつに、触れる理由がほしい
そう思ってしまった自分の欲を自覚した、長い夜が始まった