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ちよど
2026-02-19 06:14:14
33967文字
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以蔵さんとカルデアの日々
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自覚する坂本さんと記憶を無くした以蔵さんの話【帝都騎殺】
タイトル通り以蔵さんが記憶喪失になる話。捏造多めです。以蔵さんとカルデアの日々シリーズ3。pixivからの再掲
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痛い。いたい。
牢屋の隅。踏み固められただけの土の上に転がされて以蔵はいつものように体を丸めた。
ここに来たばかりの頃はござが敷いてあったが、止むことの無い拷問のせいで流れる血で汚すのはもったいないと取られたのだ。薄いボロの着物が奪われないのはただ既に以蔵の血やその他のものでどうしようもなく汚れているからに過ぎない。
時折、同じ牢屋に入れられた誰かがやってきては以蔵を蹴りつける。裏切り者だと罵る。ほんの数年前は以蔵の剣の腕をもてはやしたその口で唾を吐く。
罵声はすでに遠い。
潰された足だけでなく裂かれた背中も剥がされた爪も、焼かれたように痛むのは最初だけだと学んだ。死なない程度の手当しかしてもらえない傷は時間が経つにつれじくじくと膿み、無数の虫に肉を噛まれ続けるような感触に変わり以蔵の精神を削っている。
いくら以蔵の頭が良くなくても、ここまでされれば自分が、自分達が悪いことをしたのだと分かる。
人を殺したのはよくない事だったのだ。いくら師のため、理想のため、国のためと聞かされても以蔵は人を殺すべきではなかったのだ。こんな奴らのために自分の才能を使うべきではなかったのだ。
―――
龍馬、すまん。
賢い幼なじみはいつだって正しい道を選ぶ。
土佐勤王党が天誅を是とする前に彼は脱藩した。以蔵が人斬りをしていると知ってやめさせようとしてくれた。以蔵には似合わない護衛の仕事も紹介してくれた。
天に昇る龍のように道を間違えない男。
―――
だから、彼はここにいない。
幼い頃は目印をつけた蜂をふたりで追って何度森の奥まで迷い込んでしまっただろうか。帰り道が分からなくなって途方にくれる以蔵と違って、龍馬は目印の小石を常に用意していた。どんな場所からでも龍馬が行きに落としてきた小石を辿って帰ってこれた。
今はもう、龍馬も、目印になる小石もない。
もし帰れたとしても、この足と傷と、腕の入れ墨がある限り。以蔵はこの牢屋の先から逃れられない。
牢が開けられる音がした。尋問の時間だ。
何人もの手が動けない以蔵の体を乱暴に引き起こす。傷ついた足を引きずられて以蔵が思わず悲鳴をあげれば拳を打ち付けられる。口の中に血の味が新しく吹き出して以蔵は咳き込んだ。
ここは地獄じゃ。
数えるのも嫌になるほど縛られた台座にまたくくり付けられて以蔵はぼたぼたと血を零す。
「全部話したら楽にしちゃる」
そう地獄の獄卒が笑う。以蔵の知っていることは全て話した。お互いにそれは分かっている。だから、これは『知らない事』を話せということだ。
ぎしぎしと音を立てて何度も潰された足の肉がまたつぶれていく。削れるような痛みが焼かれる痛みに上塗りされる。打ち上げられた魚のように体が勝手に痙攣し、以蔵は絶叫した。
「あいつは裏切り者じゃああ!」
ぎしり、と足の重みが増す。以蔵の頭が真っ白に染まる。だけどそれに抗って以蔵は叫ぶ。
「あいつはわしらを裏切ったんじゃぁあ! あいつさえ、わしらを裏切らざったらこんな事にはならざった!」
脱藩しておきながら派手に動いている男を気に入らない者がどこかにいるのだろう。そいつにとって以蔵の捕縛は二鳥を落とす石となり得る。
人斬り以蔵の供述があれば、それが真実ではなくても彼の風評に傷をつけることが出来る。だから以蔵は叫び続けた。
「裏切り者、裏切り者、裏切り者っ! わしがこんな目にあうのもあいつのせいじゃ! 恨んでやる! 地獄に落ちても許さんぞ! 坂本龍馬ぁああ!!!」
結局。首を落とされるまで幼なじみの男を罵り続けた岡田以蔵からは、どうやっても坂本龍馬が人斬り以蔵の犯行に関わっていたという供述は得られなかった。
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