ちよど
2026-02-19 06:14:14
33967文字
Public 以蔵さんとカルデアの日々
 

自覚する坂本さんと記憶を無くした以蔵さんの話【帝都騎殺】

タイトル通り以蔵さんが記憶喪失になる話。捏造多めです。以蔵さんとカルデアの日々シリーズ3。pixivからの再掲





 泥の雨とは打って変わった眩しい照明に龍馬は目を眇めた。ハレーションの向こうで細身の影がこちらに手を伸ばす。
 硬質な音を立てて見えない何かが崩壊した。
 数度の瞬きで視界が慣れた。カルデアの管制室を背景に怒り心頭といった風情の魔女が仁王立ちしていた。

「メディア、さん」

 彼女にしか解けないという結界を解除して、神代の魔女はきりきりと美しい眉を吊り上げた。
 ダ・ヴィンチちゃんとマスターの姿は無い。別チームの支援をしているのだろう。この場の指揮権はメディアに委譲されているのか、彼女は龍馬の腕をにらみつけた。

「まずは止血なさい。イゾーは医務室に連れて行くわ」

 カルデアの医務室には殺しても死なせない天使がいる。無事カルデアへ帰還出来たために汚染された聖杯に変質させられる心配もなくなった。
 もう安心だ。
 安堵した龍馬の横を担架を持ったカルデア職員が通り過ぎていく。彼らは手際よくぐったりとした以蔵を担架に乗せた。
「坂本さんも一緒に行きますか?」
 そのうちのひとりが龍馬に声を掛けるが、彼は首を振った。
「僕はここに残るよ。止血ならお竜さんがいるし。以蔵さんの意識がない今、何があったか説明出来るのは僕しかいないからね」
 龍馬の言葉にメディアは顔を顰めた。
「だめよ。行きなさい。貴方の霊基も影響をうけていないはずはないのよ」
 以蔵の下に敷いていた上着を血の滴る腕に巻き付けて龍馬はメディアに頭を下げる。
「ありがとう。あなたが以蔵さんに渡してくれたアイテムのおかげで僕らは無事にすんだ。このお礼は必ず」

「やめなさい。私の想定が甘かったせいでこの体たらくよ。―――以蔵が貴方を庇うなんてわかりきっていたのに」

「えっ?」
 メディアのため息に龍馬は息を呑んだ。以蔵は自分を斬りつけたい程憎んでいたはずだ。
 帝都で和解した記憶があるのならともかく、あの『岡田以蔵』とカルデアの『岡田以蔵』は違う。第一、彼は以前マスターの約束のみでもって龍馬への殺意を押さえ込んでいるのだと、そう言っていた。

 龍馬は思わず担架で運ばれていく以蔵を見る。力なく横たわる以蔵の口元は龍馬の血で赤く染まっており、半開きの口からは赤い舌が小さく見えていた。

 その舌の柔らかさと熱さを龍馬は知っている。

 龍馬の口元と以蔵の口元が赤く染まっており、龍馬の左腕からは今も血が流れている。それを見れば彼らがどうやって結界を維持していたかは誰にでも分かるだろう。

 今、以蔵の中には龍馬の魔力がある。

 龍馬の血で口元を赤く染めた以蔵の姿はまるで情交の後のように扇情的だった。
 くらり、と目が回る。
 ぐらぐらと煮立った頭の中でいろいろな感情と行動が結びついてひとつの形を成した。いや、とっくにその形になっていた事に今になって気づいたのだ。

 坂本龍馬は岡田以蔵の事を好きだ。

 そして、岡田以蔵も坂本龍馬の事を嫌ってはいないのだろう。でなければ自分が魔力切れを起こすことが分かっていて龍馬の事を助けようとするはずがない。

 龍馬は運ばれていく以蔵の後を追った。
 以蔵も龍馬のことを好いているのなら次は血の味がしない口づけがしたいと願いながら。

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