ちよど
2026-02-19 06:14:14
33967文字
Public 以蔵さんとカルデアの日々
 

自覚する坂本さんと記憶を無くした以蔵さんの話【帝都騎殺】

タイトル通り以蔵さんが記憶喪失になる話。捏造多めです。以蔵さんとカルデアの日々シリーズ3。pixivからの再掲





 談話室の床に敷かれたマットレスにはコピー用紙が散らばっていた。
 ランチを一緒に食べようとお竜さんを連れて岡田以蔵を探していた坂本龍馬はその中心に目的の人物を見つけて歩み寄った。
「以蔵さん」
 坂本龍馬が靴を脱いでマットレスにあがると、座り込んでコピー用紙を折っていた以蔵が顔を上げる。
「ええところに来たな。―――わしより詳しい奴が来たぜよ」
 その言葉に以蔵と一緒にコピー用紙を折っていたポール・バニヤンとナーサリー・ライムがぱっと顔を輝かせた。
「いぞーより詳しい? お花をつくれる?」
「私は象がいいわ!」
「象はちょっと無理かなぁ」
 以蔵の手元を見て龍馬は苦笑した。幼なじみはコピー用紙の端を切り落とし、意外と器用な手つきで鶴を折っている。
 よく見れば、兜や奴、箱などいくつかの完成品が散らばっていた。
「以蔵さん。この紙どうしたの?」
 カルデアにある物資は限られている。折り紙が無かったのは分かるがこのコピー用紙はどこから持ってきたのだろうか?
「アンデルセンに貰うた。ちょさくけんを寄こせ言うたら快うくれたぞ」
「著作権
 鶴を作り終えた以蔵はそれにふうっと息を吹き込んで形を整えるとにたりと笑った。
「わしの音声データを勝手におんしに渡したろう?」
「それは著作権とはちょっと違うんじゃないかな?」
 言いながら龍馬も腰を下ろし、少女達に笑いかける。
「お花でいいかな?」
「うん」
 コピー用紙を折り始めると子供の期待に満ちた目が龍馬の指先を追い始める。
「懐かしいね。乙女ねいやんに教わった時を思い出すよ」
―――知らん」
 以蔵はそう言うが、以蔵の家庭環境で折り紙を習う可能性は低いだろう。だから、この折り紙の数々は幼い頃龍馬と遊んだ時に覚えたものだ。

 ―――本当に嘘がばればれなんだよね。

 以蔵が龍馬の事を好きだと、分かりきっている事を指摘して以来ずっとへそを曲げて、記憶が戻っていない振りをしている幼なじみは本当にかわいい。
 そんな龍馬の視線に慌てたように新しいものを折り始めた以蔵は折って返して折ってあっという間にひとつ仕上げてしまう。
「スベタ。ほれ、やる」
「なんだ、これ?」
 龍馬の後ろを漂っていたお竜さんが以蔵が折った折り紙を受け取ると彼は子供のように笑う。
「へびじゃ、へび。おんしじゃ」
 お竜さんの赤い目が白い蛇の折り紙を隅から隅まで眺める。
「ニンゲンは面白いものを作るんだな。うふふ。お竜さんは気に入ったぞ」
 楽しそうに蛇の折り紙を動かすお竜さんに、二人の少女が声をあげた。
「いぞー! 私のはないの?」
「私のは?」
 ふたりに迫られて以蔵はあきらかにしまったという顔を浮かべた。女の子の折り紙なんて姉がいた龍馬ですら知らない。
 以蔵の飴色の目がうろうろと泳ぐ。

「あー。後でキアラに聞いておいちゃる」

 昼飯を一緒に食べる約束したきな、と続いた言葉に龍馬の眉がぎゅっと寄った。
「以蔵さん! 以蔵さんは僕の恋人でしょう? なんでキアラさんと食事をするの?」
「わしは同意しとらん! それにわしが誰と一緒にいようとわしの勝手や!」
「否定もしてないよね! ―――じゃあ僕も一緒に食べていい?」
 龍馬の提案に以蔵は目を丸くする。てっきり止められて喧嘩になると思ったのだろう。
 記憶が戻っていない振りをしている以蔵が龍馬に隠し事をしているのは分かっている。それを教えてもらえないのは結局のところ龍馬が以蔵に信頼されていないからだ。
 思えば当然かもしれない。昔ならともかく大人になってからは、龍馬は以蔵を説得した事はあってもその意見を聞いたことはなかった。
 聖杯の泥を浴びそうになった時も、龍馬は以蔵に何も聞かず自分だけで全てを決めて実行した。
 あの時事前に以蔵がメディアからもらったマジックアイテムを持っていると分かっていれば、いろいろ方法はあった。一時的とはいえ以蔵は記憶を失わずに済んだだろう。
 
 ―――わしが好きなのはおんしやない!

 メディアの薬を飲む時に以蔵に言われた言葉が胸に蘇る。
 今の龍馬は以蔵に好かれるようなことをしてこなかった。龍馬はもし以蔵がまた記憶を失うような事があっても、泣き虫の自分の涙を拭ってくれる彼をまた好きになるだろう。だけど幼なじみの記憶を持たない以蔵は今の龍馬を選ばなかったのだ。

「以蔵さん」

 龍馬が呼ぶと以蔵は決まり悪そうにそっぽを向いた。
「しょうがないのう。キアラに聞いてみるき。いかんったら諦めい」
 懐から端末を出した以蔵の耳がすこし赤くなっているのが見えて、龍馬の体温が上がる。
 手を伸ばして以蔵をこちらに向かせると、驚いた顔に唇を落とした。
「以蔵さん。好きぜよ」
―――知らんっ!」
 真っ赤になった以蔵に突き飛ばされた龍馬に、幼女ふたりが修羅場だわ!修羅場だね!と楽しそうに囁き合う。頭から落ちかけた帽子を手で押さえて、龍馬は以蔵ににっこりと笑いかけた。

「必ず言わせてみせるから」

 ―――僕の事を好きだと。そしてその隠し事の内容も。なにもかも。

 口にしなかった続きが伝わったのか、以蔵は盛大に顔を引き攣らせた。
 坂本龍馬は欲したことは必ず成し遂げる男だ。すぐに岡田以蔵はそれを思い知ることになる。




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