葉咲透織
2026-02-07 11:54:44
47641文字
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【創作BL】「サンカヨウの喪服」【J庭59サンプル】

3/22開催、J.Garden59の新刊サンプルです。エッチシーンはこれがすべてです。文庫サイズ160ページ/トレペカバー/900or1000円にて頒布。余った分は通販します。(委託・自家通販)



「よぉ」

 太一が俺の家に来るのは、珍しかった。というか、初めてだったかもしれない。

 何せ彼の家は本家であり、自分が分家連中のところに行くなどという考えは毛頭ない。話があるのなら、呼びつければいい。彼の母親が、俺の母さんにしているみたいに。

 自由研究のために図書館に行って調べものをして、帰ってきたら太一が玄関先に立っていた。立ち止まり、何をしに来たんだろう、と考える。

「こんにちは」

 挨拶をしないと伯母に怒られるので、俺はきちんと頭を下げた。その後頭部を、太一はボールみたいに掴んだ。上げさせてもらえなくて、困惑する。じたばたする俺が面白いのか、喉の奥で笑っていた太一が、ふと笑うのをやめて、「三日前」とだけ言った。

 三日前? こんなふうに嫌がらせされなきゃならないようなこと、何かあったっけ?

 小学生の夏休みは、毎日が刺激的だ。昨日の夕飯のことすら思い出せないほど充実しているのだ。宿題の日記に何を書いたのか思い出そうとして、俺はちょうど、そこを空白にしていたことを思い出した。

 なぜ何も書けなかったのか。それは……

 動きを止めた俺のことを、太一はようやく解放した。

「あいつもいるから、俺んち行こうぜ」

 肩を掴まれて無理矢理歩かされたが、どうしてか俺は、そんな風に連行されずともおとなしく着いていったことだろうと確信していた。



 本家に来たらまずは母屋の仏壇に挨拶、とは伯母の命であった。俺はその通りにしようとしたが、太一はまっすぐに自分の暮らす離れに連れ込んだ。

「ババアの言うことなんざ、素直に聞いてんじゃねぇよ」

 自分の母のことは死んでもババアだとは思わないが、太一の母はババアだった。それも、クソババアだ。厚化粧で首と顔の色が違うし、皺がくっきりと目立っている。うちの母さんが若くて美人だから、嫉妬していじめているのだ。

 玄関には、太一の靴が散乱していた。その中に一足だけ、よく手入れされたローファーが揃えてあって、異彩を放っている。その隣に、俺は自分がつっかけてきたサンダルを揃えた。

 早くしろよな、と急かす太一は、備え付けのミニキッチンからペットボトルを三本を取り出すと、うち一本をこちらに投げた。取りこぼすと、「へたくそ」と嫌な笑いを浮かべる。投げ方が悪いんじゃないか、と思ったけれど言わなかった。

 最悪なことに俺に投げられたのは炭酸だ。飲みたくても、封を開けたら噴きこぼれるじゃないか。

 黙って唾を飲み、耐えることにする。

 自分はスポーツドリンクを飲みながら、太一は自分の部屋に俺を案内する。いやに丁寧に、ゆっくりと。俺は初めて家に呼ばれた友達でもなんでもないというのに。

 階段をのぼりながら、小さな音がずっと聞こえていることに気がついた。季節は夏。朝から夕方まで、セミの鳴き声がうるさい。ジィジィ言っているのはアブラゼミと記憶しているが、どうやら違う。もっと無機質的な音だ。電池とモーターで動く玩具の音が、一番近い。

 太一の部屋に近づくと、ごまかしようがないほどの音が聞こえた。機械音だ。それから、誰かのくぐもった吐息。

 不安になって、ここにいる唯一の人間を見上げると、太一は面白そうに顔を歪めた。俺の首に腕を回して締め上げ、小声で囁く。

「この間、お前、気づいただろ」

 血の気が引いた。ごまかしたり嘘をついたり、そういうのは苦手だった。何に? と問い返すという手すら思い浮かばなかったのは、記憶の片隅に追いやった青年の姿が、この扉の前に来て、はっきりと蘇ったからだ。

 毛布から覗いた白い肩。鎖骨にはくっきりと刻まれた、赤い痕。全裸でベッドの上に横たわっていた、きれいな顔をした男。太一と同じ高校生なのに、丁寧に靴を扱っている人。

 そう、靴だ。あの靴がある以上、彼はこの家の中にいる。ここまでの間に、人の気配はなかった。そして扉の奥には。

「太一兄ちゃんって……ホモなの?」

 まっさか。

 太一は喉の奥で笑った。馬鹿にしたような笑い方に、腹の奥が熱くなる。

「ホモなのはあいつだけ。な、面白いもん見せてやるよ」

 言って、彼はドアを開けた。反射的に、ぎゅっと目を閉じていた。ずっと聞こえていたモーターの駆動音が大きくなって、「誰か」の苦しそうな声も明瞭になる。

 背中を蹴飛ばされ、すっころぶ。いてぇ、と振り向くと、太一が顎をしゃくって「ほら、見てみろよ」と指図する。

 命令されて従うことに慣れてしまった体は、彼の言うことを聞いて、ベッドの方を見た。

 転んで低くなった視点からよく見えるのは、黒い機械をぶっ刺された肛門と、根元をきつく縛られて、真っ赤になって腫れている、ペニスだった。

 驚きに声も出ないでいる俺をよそに、太一は震えているオブジェ――あまりにも非日常すぎて、俺はそれが生きている人間であると、信じたくなかったのだ――に近づき、ベッドの上に乗り上げた。

 沈んだベッドスプリングの感覚で、太一がやってきたことに気づいたのだろう。苛まれている人間は――人間である、とようやく認められた――、拘束もなんのその、暴れた。

 目はアイマスクで、耳はヘッドホンで塞がれている。頭につけたその器具は、スマートフォンに繋がっていて、大音量で音楽を垂れ流しているらしかった。聞き覚えのあるメロディが、微かに聞こえてくる。曲名も、歌っている人間も知らない。

 口すらも自由になっていない、雑にタオルを詰め込まれた状態の男が意思表示をするためには、身体を動かすことしか方法がなかった。

 太一は「うるせぇ」と腹を一発殴った。じゃれる、とかそういうレベルではなく、明らかに暴力であった。小学校でこんなことが起きたら、担任のところに走って伝えに行かなければならない。

 彼はサッカー部のエースだ。パンチは大したことがないかといえば、そんなわけがない。体重がしっかり乗っていて、縛られたままの男は、苦しそうに呻き、やがて動きを止めて大人しくなった。

「あ……ぁ」

 異様な光景に、思わず声が出る。太一は人差し指を唇に当てて、「静かに」と言ってくる。俺は両手で口を押さえた。目を背けたいほどひどいことが行われているのに、どうしてか釘付けになってしまう。

 太一はまず、男の口を解放した。タオルは涎でぐちゃぐちゃになっていて、指先でつまんで顔を歪めた彼は、床にそのまま投げ捨てた。水分を吸って重くなった布が、べちゃりと落ちる。

 自由になったはずの口は、しかし、明瞭な言葉を発することができなくなっている。体中に枷をつけられているが、一番自由がきかなくなっているのは頭なのだろう。

「あっ、あう、あ、ぎぃ……ッ」

 尻に銜え込んだ機械を、太一はもっと深くに差し入れた。男は手だけじゃなくて、脚も開いたままで固定されているため、抵抗がまるでできずに、ずっぷり飲みこんでいく。

 ――ケツの穴って、こんな風になるんだ。

 他人の肛門など、まじまじと見るのは初めてだ。いや、自分のだって見たことはないし、見たくもないけれど。

 縁の部分がめくれあがって、黒いマシンを離さないよう、ぴっちり締めつけている。呼吸をしているかのように、時折隙間ができると、真っ赤になった中身が見えた。人の身体の内側を垣間見る機会なんてないから、鼻息が思わず荒くなった。

「あ、え、あ~ッ、あ、や、あ、だっ! も、や!」
「嫌、じゃなぇだろ。この嘘つき」

 太一は次に、耳を解放した。言葉で詰り、耳を噛む。ビクビクと震え、不規則に硬直する。それが何を意味するのか、ガキの俺にはわからない。ただただ、目の前でエロいことが行われている。しかも男同士で。脳みそが理解を拒んでも、事実は頑として変わらないものだ。

 縛められたままの性器を、太一は掴んだ。ホモじゃないって言ったのに、他人のチンコを平気で触ることができるのか。一番仲のいい友達の裸、そしてその性器に触れることを想像して、吐き気がした。

 赤黒くなって、今にも死にそうなソレ。ペニスが腐り落ちることを考えただけで、自分の玉がひゅんと竦む。

 この人のちんちん、なくなったら女の子になるのかな。尻の孔が、女のアソコの役割を果たしているようだから、そうなのかもしれない。

 だらだらと先っぽから滲む透明な液体は、精液ではない。精通を済ませ、時にオナニーに励む俺は、それが男の感じている証だということがわかる。根元を強く締められているから、射精できないのだ。

 今初めてペニスに触れられるというのに、それ以前から濡れて固くなっている。俺は「男は尻を弄られると気持ちがよくなる」という事実に思い当たり、戦慄した。

 太一はペニスを縛っている紐を揺らす。外してくれることを期待してか、男の腰が大きく跳ねた。先端が服に触れて、「マジきっしょ」と、吐き捨てられた言葉は、ヘッドホンをしていない男の耳にも届いていて、硬直して大人しくなった。

 奴隷、という単語が浮かぶ。太一の命令を聞いて、友達相手には絶対にしないようなことをして。エロティックな光景が、途端に凄惨な虐めの図に見えてきて、俺の腹の中の熱は、性欲ではなく怒りへと徐々にその割合を変えていく。

 やめなよ、と言いたかった。けれど、太一に、本家の長男に逆らえない。父も母も、本家の言いなりだ。俺もまた、彼らの子どもであった。

「あ、あん、あ、あ、ね、え! い、かせて……も、苦しい、ッ、死んじゃう、よォ……!」

 アイマスクの下から流れる涙と、口の端から垂れてくる涎と、全身の毛穴から噴き出してくる汗とが、胸のあたりで合流する。肌を伝い落ち、それは股間へ。濡れそぼったペニスに流れ着いたそれは、性液と何ら変わらなくなる。体液はすべからく、性的なものであった。

「もっとちゃんと媚びておねだりしろよ」

 主人は残酷であった。機械を銜え込んで震えている男の尻を平手で叩いた。それすら感じる要因になるのか、男はあんあんと喘ぎ、息も絶え絶えになりながら、懇願する。

「おねがいしま、しゅ! おちん、ちん、取って! イきたい、でしゅ! おねが、あああッ」
「もっと」
「なんでも、します、ぅ、からァ! お願い、たい、ち……さま……ッ」

 自分を自由に扱う権利を譲る発言を聞いたとき、太一の目の色が変わった。剣呑な光を見て、俺は呪縛から解き放たれ、「やめなよ! かわいそうだよ!」と、叫んだ。

「え……

 アイマスクをしたままの男が、この部屋にもうひとり存在することに気づき、絶望の声を上げる。子どもが驚き固まっているみたいな、心細げな声だった。

 太一は俺のことを一瞬睨んだかと思うと、「まぁいいか」と途端に凪いだ表情に変わり、男のアイマスクを外した。

 想像していた通りの顔が、想像していたよりもひどい表情で、俺を捉える。

 ――こんな、子どもを巻き込んで。

 ほんのわずかに理性を取り戻した目が、太一への不信で揺らぐも、刹那の間であった。

「あ、だめ、や!」

 太一は縛めを外す。堰き止められた快楽がせりあがってきそうになっている、あの日出会った美しい男は、先ほどまで「イかせてくれ」と願っていたのとは、真逆のことを乞う。

「イかせてやろうって言ってんだろ」

 紐を解くとほぼ同時に、太一は男のペニスの先の孔に、乱暴に爪を突き立てて抉った。ひぎゃ、と憐れな被害者が悲鳴を上げる。あんなにされたら傷つくし、痛い。

 太一が彼の身体に埋まっている機械のつまみを弄ると、モーターの音が変わった。動きも激しくなったようで、男の腰が完全に浮く。

「う、お、あ、があああッ! あう、あああ、い、イく、ぅぅ……イッ、で、るゔゔゔゔ!!」

 長く止められていた射精を急に促され、男は俺の目の前で豪快に打ちあがった。どろどろの精液が、太一の手を汚していく。

 俺はその光景に、夢中になった。また、怒りと性欲の比率が逆転して、股間が熱くなっていた。目が離せなかった。

 肛門を掘られ、ペニスを傷つけられ、全身を真っ赤にして獣じみた叫び声をあげる男――太一の恋人などではなく、性奴隷として手ひどく扱われながらも、傍を離れない男・風間広海は、凄絶なまでに色っぽく、美しかった。