葉咲透織
2026-02-07 11:54:44
47641文字
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【創作BL】「サンカヨウの喪服」【J庭59サンプル】

3/22開催、J.Garden59の新刊サンプルです。エッチシーンはこれがすべてです。文庫サイズ160ページ/トレペカバー/900or1000円にて頒布。余った分は通販します。(委託・自家通販)


 
 太一は広海とそういうことをするとき、毎回俺のことを呼ぶようになった。ひょっとしたら、隠れ蓑にもなると思っていたのかもしれない。光次が勉強教えてほしいって言うからさあ、などと、彼は自分の母親にヘラヘラ笑って話をしていた。

 断ろうとすれば、「今度こそあいつのこと、殺しちまうかもしれねぇなあ」と、嘯いた。もちろん、彼が自分の輝かしい将来を棒に振るような真似をするわけがないのだが、子どもの俺にはわからない。

 初めて見たセックスが、どう見ても折檻であったのも相まって、俺は広海の安全を守るため、嫌々ながら本家の離れを訪れていた。

 初心な子どもの観客を、広海は望まなかった。

 こんなことはよくない。セックスを見せるのだって虐待なんだぞ。僕は犯罪だけはごめんだ、と威勢よく始まった説教は、機嫌を損ねた太一による暴力でストップする。こうも同じ行為が繰り返されると、逆にこの過程も彼らにとっては性交に必要な儀式なのではないかと思うほどであった。

 彼らがセックスをしている間、俺は基本的に、部屋の隅に体育座りをしてふたりのやり取りを眺めていた。息を潜めて、じっとしていた。
目を逸らすことは、許されていなかった。もう見たくない! と限界を訴えたら殴られた。

 目立つところに傷をつけたら関係が露見してしまう広海と違い、分家の子どもである俺は、太一の家来だった。頬を張り倒され、どす黒い痣ができたところで、「太一にやられた」と言えば、親は沈黙する。どころか父からは、「お前が何か気に障ることをしたんだろう」と、叱られる。

 余計な問題を起こさない方がマシなので、俺は目の前で繰り広げられるセックスを見つめた。

 セックスは、子どもを作るためだけにするんじゃない。保健の授業では、「好きな人同士、結婚して子どもを望んだときにしましょうね」と教わったが、あんなのはきれいごとだ。

 エッチな漫画だって、女の子は広海みたいに獣じみた声を上げないし、わぁわぁと泣いたりもしない。あれが嘘っぱちなのか、太一と広海のセックスが間違っているのか、未経験の俺には判断がつかない。

 太一はベッドに腰かけて、自分の上に広海を乗せる。わざわざ俺の方に身体の正面を向けて、ペニスが刺さっている尻だけじゃなく、そうされて広海がどんなふうに感じているのか、顔とペニスを見て俺にもわかるようにしている。

「あ、ううう、いい、あ、あ、あッ、だめ、え……
「ガキに見られて、気持ちイイなぁ、広海?」

 首を横に振る彼は、嘘つきだ。挿入され、腰を掴まれ上下に前後に振られて、薄い毛の中央にある広海のペニスは硬くなったままで、だらだらと粘液を垂らしっぱなしだ。今日は一際、感じ入っているように見える。

 耳を噛まれ、びくっ、びくっ、と二度ほど痙攣した。このときにはもう、太一によって教えられ、広海が射精せずにイくことができると知っていた。今、彼は達したのだ。

「あ~、あ~」

 赤ん坊か、心が壊れた人みたいな呻き声を上げる広海の目は、理知的な色などかけらも残っちゃいない。彼は高校でも成績が一番いいと聞くが、俺が目にするのは太一の暴力的なセックスによって呆然自失としているところばかりなので、疑わしい。

 何度も断続的に襲ってくる絶頂に、中に自身を埋めている太一も気持ちがいいのだろう。短く唸り、腰を使う。ガンガンと責め立てているとき、俺はここにいるのにいない、そんな気持ちになる。こちらは彼らを見ているのに、ふたりは俺のことを見ないのだ。ひどいときには、終わってすぐの太一に、「お前まだいたの? 消えろよ」と、最低な言葉をぶつけられることもある。

 だから太一が射精したのが彼の顔と広海の反応からわかって、すぐに追い出されることになるのだろうと思っていた。いつも通りであると。

 けれど、この日は違った。太一が俺のことを、見た。意地の悪い顔をしていた。自分の思いつきが愉快で仕方がないという、ご満悦な表情だ。嫌な予感がした。逃げたいと思った。だが、許されない。

「おい、来いよ」

 ずるりとペニスを抜いた。広海はそれすらも刺激になったのか、「あ、う」と短く鳴いて、そのままずるずると、されるがままに床にへたりこんだ。
 命令通りに接近すると、にやにや笑いがさらに深いものになる。

「お前、勃ってんじゃん!」

 羞恥で顔が燃えた。

 そうだ。壮絶すぎる彼らの交わりは、太一の言葉を借りれば、「ホモじゃないけど」反応はする。きれいな男が快楽と痛みの狭間で苦悶している顔に、俺は夢中になっていたのだ。

 ゲラゲラとひとしきり笑うと、太一は「呆けてんじゃねぇよ」と、広海の頭を小突いた。ぼんやりしていた彼は、突然の衝撃に悲鳴を上げると、「ごめんなさい!」と、ほとんど反射で謝っていた。

「俺への詫びはいいからさ、ほら」

 顎をしゃくる太一に、俺も広海も、いったい何を言いたいのかわからなかった。言わなきゃわかんねぇのかよ、とさらに強くどつかれた広海がかわいそうで、俺は「もうやめなよ」と、太一を止めていた。

 これまでにも、俺は何度か、乱暴すぎる振る舞いを制止したことがある。その度に太一は、嫌な顔をして荒れる。主な被害者は俺よりも広海だった。経験則で知っている広海自身も、太一からの攻撃を受け止めるべく、頭を抱えて小さくなっていた。

「だーかーら、しゃぶれって言ってんの。こいつのもん」

 は? とか、え? とか、声が出た。こいつのもん、が指すのは俺のちんちんだ。粗末で童貞で、太一のものとは似ても似つかない。
一丁前に硬く大きくなっていて、追い出されたらいつも通り、トイレで落ち着かせてから帰るつもりだったそれを、しゃぶる?

 思わず、広海の顔を見た。向こうも呆然とした顔で俺のことを見ている。この口で、俺のこれを、しゃぶる? 見つめ合う俺たちを馬鹿にして、太一は広海を脅しつける。

「おい。この間みたいに放置されてぇのか? 学校で同じことやってやろうか?」

 不特定多数が集う学び舎を冒涜する行為への恐怖に、広海は抗えない。わかりました、とできる限り無機質な返事をして、彼は俺のところへとにじり寄ってきた。

 俺は太一を見つめた。自分の奴隷たちによる性行為が始まるのを、面白そうに眺めている。

「ごめんね、気持ち悪いよね……

 そんなことはない。太一への怒り、何もできない自分へのもどかしさは常に胸の中でわだかまっている。だが、広海に対してはそうした感情を抱いていない。

 彼に向けるのは、ただただ同情であった。太一みたいな悪い奴に目をつけられて、この狭い部屋に閉じ込められ、夏の日を無為に過ごしている。

 広海の手が、無垢な俺のペニスに触れた。子どもの性器だ。硬く芯を持っているとはいえ、使い込まれた太一のそれと比べて貧相で、いつも突っ込まれてひんひん泣かされている彼にとっては、性器であるとすら思えないような、そんなもの。

 自分の手指以外が触れるのは初めてで、期待と不安で凝視していたら、不意に彼の手にたこができていることに気がついた。位置からして、ペンだこというやつだ。鉛筆を握って勉強に励んできた彼が、同じ手で汚い男のチンコを握らされていると思うと、俺は。

「はは。一丁前にでかくしやがって」

 広海の手筒の中で膨張したのを見て、太一が馬鹿にしてきた。真っ赤になって俯いていると、「大丈夫だよ」とでも言うように、指がペニスの頭を撫でていく。びくっと震えて恥ずかしかった。

 広海は俺の顔を見上げて、視線を離さない。たぶん、気持ち悪がったり痛がったり、様子がおかしと思ったら、すぐにストップできるようにと気を遣ってくれていたのだろう。でも、そのときの俺は、彼の心を知らない。

 ――誘っている。

 先端を熱い口の中に含まれて、俺は腹に力を入れた。愛撫されてすぐに射精するのは、「早漏」と言って馬鹿にされることだと知っていた。

 広海はそんなことで嗤ったりしないと思うが、太一は絶対に嘲笑ってくる。これ以上、尊厳を傷つけられるのはごめんだ。

 柔らかく湿った肉に、締めつけられる。右の頬奥で、広海は俺の小さなウィンナーを味わっている。眉を顰めたその顔は、彼がフェラチオを不得手としているのだとすぐにわかったが、何もかもが初めてで、俺には上手いも下手も何もわからない。ただただ、気持ちがよすぎる。

「ふーっ……ふッ、は、ぁ……ひ、ろみ、さ……

 名前を呼んだのは、このときが初めてだった。彼の背中がぴくりと動き、上目遣いで見つめられる。その表情にぐっと来た俺は、手を伸ばした。広海の頬を両サイドから包み、洞穴の浅いところではなく、もっと奥へと掘り進める。

「んんっ、ぐう……

 苦しそうに喘ぐのを見ても、俺は止まらなかった。自分勝手なセックスをしている、自覚すらなく彼のことを苛んだ。

「あ~、やっぱ見てるだけって、性に合わねぇわ」

 ベッドから下りて近づいてきた太一は、俺が「あっ」と咎める間もなく、広海の腰を掴んで挿入した。

「んんッ! んぐ、んッ!?」

 普段ならば自由になっている口が、俺のペニスによって塞がれている。かわいそうに、彼は熱い息を吐き、快楽や苦痛を喘ぎという形で発散することも叶わない。

 上も下も塞がれて、この状態を串刺し3Pなどと表現することを、当時の俺は知らなかった。

 衝動を我慢できず、俺は射精に至って、太一に追い出された。ふたりきりの部屋で、広海をもっと苛め抜こうというのだ。

 フェラ抜きをしてもらってから、俺は太一の家に自分から行くようになった。日によっては、広海がいない日もあった。当たり前だ。また、ふたりが在宅していても、太一の気分によって俺はぶん殴られ、帰宅を命令された。

 時々、部屋の中で太一の帰りを待ってひとりきりの広海に遭遇することもあった。

「いつもごめんね」

 ひとりのときの彼は物静かで、思慮深い人であった。太一には内緒だよ、と飴をくれたけれど、それが子どもの好きなフルーツ味でもなければ、しゅわしゅわのソーダ味でもなく、ただ甘いだけの黒糖飴だったのが、なんとなく彼らしい気がして笑えた。

「おじさんっぽい飴だね」

 そう言えば、広海も目を瞬かせ、それから笑った。無理のない笑顔に、ああ、この人はまだ笑えるんだ、と安堵したのを覚えている。

 黒い小さなパッケージをこちらに寄越す彼の手は、白くてきれいだった。ペンだこは消えてなくなることはなく、一生ものの付き合いなのだろう。そんな歪な箇所があってさえも、美しかった。

 この手が、望まぬペニスを握り締めることがなく、自分自身のために正しく使われることを願ってやまなかった。

 決して、そう、決して、そのとき抱いた俺の気持ちは、性欲一辺倒なんかじゃなかった。もちろん、欲望に負けてしまう場面は多々あったし、広海にとっては俺も、太一と同じく自分を好き勝手する最悪な人間のように見えていたに違いない。けれど、明確に違った。

 何度目かの3Pで、俺は相変わらず広海の口を犯していた。

 経験を積むとなんでも慣れるもので、俺は快感を逃がして射精のタイミングを調節するのが上手くなっていた。太一に合わせて、俺も広海の口に精子を放った。そうすると、太一は機嫌がよくなるのだった。

 そのときもご機嫌な様子で、脱力した広海の身体から萎んだ性器を抜き去りながら、こちらを見ずに言った。

「今度お前にもこっち、使わせてやるよ。クラスで一番に童貞捨てられるな。感謝しろよ」

(続く)