レゾン・デートル|CASE. 01 緋色の邂逅

曰く、人は彼女を天才と呼ぶ。

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学術研究都市〈いとしま医学特区〉を舞台に描く、現代ドラマ×オカルティックサスペンス! 厚生労働省の〈螺旋捜査官〉市ノ瀬咲良は、ある任務のために学術研究都市〈いとしま医学特区〉へ赴く。彼に与えられた任務はとある人物の監視だった。
その人物の名は──四宮椿。ある一方では〈医学における万能の天才〉と呼ばれ、またある一方では〈忌まわしき名探偵〉と呼ばれる彼女と共に、咲良は殺人事件へ挑むこととなり──? いとしま医学特区の港湾部にて、逆さ吊り状態で発見された遺体。科学で解けない殺人事件、二人の邂逅が導く真実とは?(CASE FILE.01)

※同人誌版の原稿をそのまま移植しているため、改行が少なく横書きでは読みづらいと思います。縦読みリーダー表示をお勧めします。

作者X 🦜 https://x.com/asunashoko
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 研究室と繋がっている居室は、医学書や恐らく一切目を通してないであろう書類が積み上げられ、その傍に読みかけの本が所狭しと並べられている。
 はっきり言って片付けられていない乱雑な場所だった。しかし室内の家具類は全て黒で統一されており、色のおかげで多少は部屋が引き締まって見える。しかし物がとにかく多いのでそれも目の錯覚に思えてくるのだった。
 四宮は適当に机を埋め尽くしていた書類や医学書を床に移動させ、銀色の随分と薄いMacbookを起動した。素早いブラインドタッチで二十字の複雑なパスワードを入力すれば、[accept]と短く単語が表示される。こんな起動の仕方したか、と考え込んでいれば、俺の思考を勝手に読んだ四宮が口を開く。
「ラプラス」
 何だラプラスって。聞いたこともない単語に頭を捻る。四宮は分析機器が置かれた隣の部屋に移動し、謎の機器と接続した。
「私が開発した電脳の事だ」
 本当に作り上げていたのかと背筋が凍る。黒い箱の中に収められた何かが、もし本当に人間の意識の抽出物だったら、と俺はこわごわ彼女を見遣った。
 四宮は素早く薄いキーボードを叩き、何やら黒い画面に次々とよく分からない言語を打ち込んでいく。
「形態としては人工知能に近いが、最大の相違点は生きた生物の脳を使っている事だ。チョウゲンボウの脳を生きた状態で電脳化し、この培養槽の中で電極に接続し、」
「あー、ああ、うん。わかった。もういい。もういい」俺は嫌気がさしてきてとてもではないが全てを聞く気にはなれなかった。
「確かに今、ラプラスは重要事項ではない。これを使えばあの男の身元を一瞬で特定できるという事が重要だ」
「DNA鑑定やるなら……」俺は隣で埃被っているサーマルサイクラーを見た。あまり使われていないのは俺でもわかった。
「ラプラスは個人を特定する塩基配列を読む作業と、その塩基配列を有する人間を絞り込む作業を同時にさせる事ができる。つまりマルチタスクだ」
「嘘やろ」俺は耳を疑った。そんな夢のような分析機器があったら鑑識は泣いて喜ぶだろう。「塩基配列を読む機能とそれの持ち主を照合する作業って全然違う事やねえか」
「しかし最大の問題は倫理委員会の承認も研究監査部の承認も全く得られない事だ」
「そりゃあ得られんやろうな」
 俺は呆れながら円筒型の黒い金属の水槽を見た。中を伺うことは出来ないが、この中で電極に接続された哀れな猛禽の脳が浮いているのだろう。
「出たぞ」
 四宮はそう言って俺に画面を見せた。そこには若い男性の写真がある。写真の横には氏名や所属、血液型、そして個人を特定する塩基配列が示されていた。
坂木柊作さかきしゅうさく。二十四歳。所属は不明、おおかたフリーターだろう」
……なあ、この個人情報データって……一体どこのと照合……、」
「基本は科学捜査研究所に保管されたデータを閲覧しているが、それ以外にもDNA鑑定を請け負う研究所に保管された個人データを閲覧している」
「お前! 個人情報保護法知らんのか!?」
「大事の前の小事だ。野々花にも許諾は得ている」
「あの人が許しても警察庁と検察が許すわけなかろうが……
 俺は本気で頭を抱えた。そうは言っても被害者の身元が分かったことに関しては喜ぶべきなのか? それとも四宮椿という大厄災の事を上に報告するべきなのか。もう頭がおかしくなりそうだった。
「坂木柊作という人物だが、就職もせずフラフラしていたようだ。予想通りだな」
 四宮はキーボードを叩いてInstagramの投稿を表示した。
「ネットリテラシーの欠片もない。友人関係も出身大学、高校も簡単に割り出せた。類は友を呼ぶとは正にこの事だな。だがこいつは……
 俺は横から画面を覗き込む。そこには高級ブランドの服を着たボンボンの姿があった。
 右横には恐らく母親だろうか? 女性が両肩に手を置いて微笑んでいる。左横には父親と思われる男性が難しい顔をして写っていた。
「しかし——ふむ。〈坂木〉ということは……やはりか。坂木民間警備の経営陣一族の息子だ」
 新たに表示されたタブには坂木警備の住所とオフィスの外観を写した写真がある。そして経営者の顔写真は先程、ボンボンこと坂木柊作の横に立っていた男性と全く同じだった。住所は博多区を示している。ここからだと車で三十分もあれば着ける場所だ。博多駅の傍に立っている、比較的新しいビルの中にオフィスが構えられているらしい。
 実際俺も四宮椿のしでかした犯罪の片棒を担いでいるようなものだ。俺たちが殺人犯を捕まえるのが先か、それとも個人情報保護法違反で市中引き回しにされるのが先か。チキンレースである。

諸注意
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本作品はフィクションです。実在の団体・名称とは一切関係ありません。
一部猟奇的な表現や犯罪に関する表現がありますが、これを助長する意図は持ちません。

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