それはまるで
「『死んでもいいわ』が『愛している』の意味かというと、面倒な話だ」
古びた木箱に腰掛けてヒュンケルは言う、片手には古びた本、片手には、読書の伴にと持ち込んだものの、まだその歯を立て汁を溢れさせる気にはなれないらしく、書籍の中の物語の進行を追いつつその頬と唇を押し当てているリンゴ。自然光が差しいる以外は灯りを点けるでもない晩冬の午後の光量では果実の腹と彼の唇ばかりが赤く映る
「その国には『愛している』という表現が長く無かったから、翻訳者が四苦八苦したらしい」
だがそれは俺達の住むこの辺りも同じか、「一日たりと忘れたことはない」なども全部あれは「愛している」で、
「『死んでもいいわ』だ、『わたしはとっくにあなたのもの』で。」
古びた本はおそらくその原本だったのだろう、女が愛を囁き返した正確な台詞をようやく探し当てたらしいヒュンケルが笑った。今さっらな告白の甘ったるさに口許が緩みそうになった相棒の半魔は、つれないふりをして渋面で出掛ける準備をしている。
ああ、そういえばじゃないがいっそ「殺してくれ」ぐらいの意味になってしまうだろう言葉もあるな、
「何だそれは」
「ふ、さてな。」
いつか「あの子」が、また戦場に立つときが来るとして。その時彼は行くだろう、迷いなど無い。自分は待つだろう、選択肢など無い。その時のその言葉はきっと
夜釣りの為の弁当を差し出しヒュンケルは半魔に言う
「いってらっしゃい」
●お題『いってらっしゃい』
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