akinoshiroihana
2026-01-11 20:15:43
8311文字
Public
 

ラ―ヒュンワンドロ2026名刺原文




地下書庫の閲覧席、その一つ
今回街で引き受けたのは、本の虫干しと虫退治、そろそろキャパが苦しくなるので廃棄されるか微妙な線の本の整理、それでも需要か稀少価値のある修理の必要な本の発見仕分け。
その筈だが閲覧席では先程からというもの、戸外の日光浴から帰って来た本の流れが堰き止められて、そして原因は明らかだった
書籍のチェックがただの立ち読み熟読座り込みに闇落ちしているのは
「おい」
「うんすまないもうやめるうんやめた」
実のところ相棒に咎められる事もう数度目のヒュンケルだった
「ちゃんと借りるか買うかしないと、将来記憶の本棚の中では名作同士が混ざってしまいそうで危険だ」と。
「ああ楳図かずお作品だと記憶していたら山岸涼子だったみたいな」
「なんだそれは」

いや、なんだか身につまされるようなのがいくつかあって。
いかん、もう脳内で混ざって来てる。大分違うと思うが大筋はこうだ。

「貴い使命を帯びた高潔な竜の騎士の近従殿が、恋する娘に「帰りに寄るから」と約束して逃げるんだ。娘は裏切りと片恋を悲しみ部屋に篭る。研究者はここを娘の死の暗喩とすることもあるらしいな。部屋で娘は巨大な蛇となり竜となって、自分より使命を選んだ男を追い、まばゆい炎を放って灼き殺す、娘もそれであさましい姿のまま力尽きる。」
ふむただ一度の出会いで人生が狂うのも憎からず思いつつ殺して終わるのも身につまされる。
「おい」
しかし娘の褥には卵が残っていた、思いを込めて一人で産んだ卵だ。そこからは鱗に覆われた竜が生まれた、母が人ではなくなっていたのだから。しかしそれは娘と男に似ていたというから恐ろしい、コココココ、ココ、コココ恋は恋は恋。
「?」

泣き明かした娘の目玉がそのまま溶けたか、乳の代わりに目玉をふたつとも置いて行ったのか、子供の竜は娘の双眸色の、緑の竜に生い育ち、霧深い海の傍に暮らすようになる。マジックドラゴンと呼ばれるが両親合わせても魔法は得意な方ではなかったから何か偉業を遂げることもなくだが平和に心穏やかにそこに一人で。ある日やってきた男の子と出会って冒険の旅に出る、きっと生まれて初めての輝ける日々だったろうな、親のせいでもって生まれた、鱗に覆われた体も変なぱふぱふいう鳴き声までみんなに愛されて。
だがその子はやがて成長し結婚し、悠久だが変わり映えのしない、その身に共に年月を刻んで歩んでいけない竜の存在は思い出の夕焼けの中の茜に染まる高い木や丘のように懐かしくもくすんで遠ざかっていくんだ。

「そしてあの子は、俺達の子は今日この夕方も海辺の桜の路がピンクから淡紫に輝くのを見てそぞろ歩くのも忘れ、ひとり巣穴の洞窟に」
「おいやめろやめろ帰って来い!」

道成寺と「ソノシート」付き絵本と児童文学とで何やら物語を錬成してしまい、ふっと目を潤ませる相棒を窘めてラーハルトが

「児相に通報されないうちにホナリーに行くか」と石田彰声できりりと言ったからこれはいけない。

優しい歌物語の魔法竜は、その奇妙な鳴き声にちなんで「パフ」と名付けられているはずである。


●お題『ぱふぱふ』