それは日の出の気配がした頃の、川縁の暗い木立の中、目覚めていっせいに声を挙げる鳥たちの喧騒
それは真っ暗で冷たい石造りの家屋を通り過ぎた時の、パン焼き窯が今日のパンを焼き上げた熱い空気とバターの香り
それは橇犬ほどには冬を愛さない地竜
―――あまりの聞かん気ぶりに昨夜からの行軍では半魔に地トカゲ呼ばわりをも受けた
―――が帰宅の主を下ろすやいなや、暖炉の前に身を伏せてしまい、以降はスープ鍋をかき混ぜようにも火に近付かせてもらえない今、朝食の準備だけなら流石に始めたい頃
「せっかくの魚のスープが。誰でも骨が弱る季節だから仕込んだというのに」
哺乳類
―――犬っぽい面構えがいかにも気味が悪いと半魔がリリースした先日の釣果を、青年はそんな蘊蓄と共にぶら下げて帰って置いていたのだった
「そういえばなんだそれは、またどこぞの大勇者どのか」
「いいや地底魔城時代の魔王様だ、長じて養父のような立派な地獄の騎士になりたければ肉ではなく魚を摂り、日に当たれと」
毎度師にして第二の養父である男の名が出るのかと、半目になっていた半魔が意外そうにするのを待つでもなく
「だからこれぐらいの時間ともなれば、城外の夜の『討伐』から戻る友達たちの帰りも、地上にほど近い踊り場まで平気で迎えに行かせてもらえて待っていたものだ、そういう土産をぶら下げて来る肉食の者もいたからな」
父が「これは絶対にいかん」と取り上げたお裾分けもいろいろあったようだが、本当に小さい頃は分からなくてな
あれは「はっきり人相がある魚」どころの騒ぎではなかったのだろう、やれやれ、などと涼やかな面差しが語る、その「早起き」の記憶は、どの程度までが無邪気ゆえの記憶として処理され、どの辺りからが決して触れられないのだろう
まだ話されてない事が沢山ある、だがまだ聞いて欲しいことも沢山あるのだと半魔は思う
●お題『早起き』
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