ちこまる
2025-10-01 17:09:48
25205文字
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【げむ譲 零獄利き小説】




【テーマ】ドライブ


ロードサイド•ストーリー


あー、そうだなあ……
ある日、俺と天国先生は有名製薬会社会長が持つ屋敷へ車を走らせていた。
なんでかって? まあ詳しくは言えねえが仕事で利害が一致したってとこだな。

その屋敷ってのが金持ちの道楽か、よりによって山奥の森の中に建ってやがる。
一応、道は舗装されてはいるが見渡す限り草木しかねえ。
昼間だってのに空は木で覆われてて、ここら辺は霧もすげえから薄暗いし、
通ってる車もほとんどいねえから、対向車に気を付けるというよりは動物が飛び出してこねえか注意する方がいいレベルってもんだ。

そんな中、先生は無言でハンドルを握り続け、俺は助手席でお利口に座ってよ。

「先生、ラジオでもつけようぜ」
「却下」
「じゃあ俺が運転代わろうか」
「却下だ」

ぴえん。完全拒否。
にべもなくばっさり断られちまって手持無沙汰で重苦しい空気の中、代わり映えもしない景色を俺は何をするわけでもなくただ眺めていた。

だがよ、ちょっとおかしいんだよな。
さっきも言った通り、辺鄙なとこなもんで人はもちろん車通りもほとんどねえ。
なのに定期的にサイドミラーにちらちらと後続車のライトが映るんだよ。
そりゃ道なんだから後ろに車がくることだってあるわな。
でも違和感っつーか、見えたり消えたりする絶妙な距離感でずっとついてきやがる。

先生も気づいて少しスピードを落としたがそいつはぴたりと同じ距離を保ったまま離れねえ。
絶妙な距離で見えたり見えなかったり、車体全体は見えることはないが、しばらく走ってる道は一本道だったし、同じ車であることは必然ってわけだ。

屋敷の先に抜ける道はあるし、もう少し行けば分かれ道もある。
本当にただの後続車ってなら問題はねえんだけどよ。
先生が今度はスピードを上げてみたが、案の定後ろのライトは変わらずちらちらついてきた。

「なんなんだスピード上げても下げてもぴったりついてきやがって」
「そうみたいだなぁ
まあどうせ屋敷までもうすぐだし、ついてくんならそのままにしとこうぜ」
「天谷奴、お前心当たりはねえのか」
「ええ俺かぁ?標的は案外そっちってこともあるんじゃねぇか?
色んなとこで恨み買ってんだろ?天国センセ」
…………
「はっはー黙るのかよ」
……うるせえ」

その時はまだ余裕で2人ともちょっと妙な事になったなくらいの感覚だったんだけどよ。
突然、車内に俺でも先生でもない甲高い声がひびく。

「もうすぐ目的地周辺です。」

思わず同時に俺と先生は顔を見合わせた。
「お前設定したか?」
「いいや、してねえよ。先生が乗った時指定して出てこないって試しただろ」
「ああ

カーナビに屋敷の住所を入力したのはレンタカーを借りて乗り込んだ時に最初にしたことだ。
先生が悪態をついていたことまでばっちり覚えてるぜ。
画面を見ると何も映ってねえ、真っ黒な背景に赤い点滅が浮かんでいる。
俺達がそれに見入っていると、背後のライトがぐっと近づいてきた。

「ちっなんだって急に」
先生が更にアクセルを踏む。
赤い点滅が画面いっぱいに広がって進むたびに点滅も早くなっていく。
妙な空気にあんまスピード出すなよと俺が声をかけると、先生は前を見据えたまま低くつぶやいた。

「車、消えた」

俺もすぐにミラーを覗くと先生の言う通り、さっきまでべったり張り付いてたライトが跡形もなく消えてやがる。

……どこ行った?」
「知らねえよ。一本道だろ。脇道なんざなかった」
「いきなり止まったとか?」
「この森なんにもねえぞ」
「だよなァ

そのまま2人で疑問を口にしながら車を走らせてると全然が急にブレーキをかけた。
慣性の法則により前のめりになると同時にシートベルトがぐっと肩に食い込む。

衝撃が落ち着くと俺は横の先生に声をかけようとしたが、その目は驚いた表情で何かを凝視している。
それにつられて視線の先を見ると、すぐ先に車が道路脇の木へ突っ込んで道を塞いでいた。
フロントはぐちゃぐちゃと言っていいくらい潰れていて、
ちょっと見ただけでもありゃ中の奴らは明らかに無事じゃねえだろうなってくらいの。
かろうじて追突はしなかったが、このまま走らせていれば、俺らもこの車と同じ運命を辿ってただろうってのは想像に難くない。
流石のおいちゃんもちょっとばかり肝が冷えたぜ。

そもそも走っている間、霧で確かに見えにくくはあったが数メートル先まで見渡せてたしよ。
こんな近くに来るまで障害物に気付かないわけもねえ。
だから突然現れた車に先生が急ブレーキを踏んだんだな。

「先生、怪我はねえか?」
「ああお前は?」
「おいちゃんも平気」

とりあえず状況とお互いの無事を確認。
さて、面倒なことになったと改めて事故車に目をやると、あることに気付いちまった。

「なああの車、俺らの車と車体も色も同じじゃねえか?」
「何言っとんだ、それより警察と救急車をっ」

それどころじゃねえだろというようにスマホを取り出そうとしていた先生も途中で手が止まった。
この妙な一致に気付いたらしい。

同じなのは車体、色だけじゃない。
ナンバーもーーー

するとあの車は

不意にまたあの声が響く。

「目的地まで……あと、零・キロです」




______________________


ガタンと車が揺れ、車体が少し傾いた。

「着いたぞ降りろ」
今まで黙っていた天国がその一言だけ発し、早々に降りていく。
それに続いて天谷奴も車から降りるや伸びをした。
規格外の体は普通車の座席を目いっぱい後ろに下げても窮屈だったらしい。

「話もまとまってちょうどよかったなあ。」
「最後雑すぎんだろ」
「んなこと言ってちょっと怖かったんじゃねえ?」
暇つぶしにはなった」

最初の話の通り天国と天谷奴は屋敷に向かうために車を走らせていた。
途中暇を持て余した天谷奴が「面白い話してやろうか」と始めたのがさっきの怪談だ。

話を始めた当初は笑って突っ込みを入れていた天国も話が進むにつれ黙り込んでいった。
どうやら暇つぶし以上の効果があったらしい。
たが天谷奴もそこには突っ込んでやらず、傾いた車の後ろに回り後輪を確認する。

「おっいい具合に脱輪させたじゃねえか。流石だなぁ」
「念のためだ。
いいか、俺達は困っているところに偶然近くに屋敷があったんで助けを求めたってゆう体だ。
ヘマすんなよ?」
「へいへい」

霧の中をぐんぐん先を行く天国に置いていかれそうになった天谷奴だったが長い脚を大股で歩きすぐに並ぶ。
ふと当たった天国の指先が冷たいことに気付いた。
ちょっと怖がらせ過ぎちまったか、と詫びも込めてもともと体温の高い自分の手で包み込む。
いきなり手を握られた天国は驚いたようで反射的に振り払おうとしたが、力強く握られておりそれは失敗に終わった。

「離せっ!」
「まあまあ。置いてかれておいちゃんが迷子になったら大変だろ」
「別に俺は困らねえよ」
「ひでえなあ」

軽口を叩きながらすっかり冷え切った天国の指先を親指で撫でると、意図を理解したように握り返される。
今度は打って変わってその体温を全て寄越せとばかりの態度だ。
天谷奴が仰せの通りにと更に強く握り込むと、爪を立てられた。
そのままお互いの手で戯れのような攻防を繰り広げていたが、屋敷の玄関まで辿り着きどちらともなく自然と離す。
さっきまでの悪ガキのようだった天国の顔がすっとよそ行き用の顔になった。

その表情に天谷奴は少しだけ懐かしさを覚える。
出会った当初の頃はまだその張り付けたような表情をしてくれたもんだが、最近はめっきり見なくなった。
まさかこうやって一緒に仕事をすることになるとはと少し感慨深くなる。
今回は本当に天谷奴が何か策を巡らせたわけではなく偶然が重なって天国と目的が一致したのだった。
思わぬ僥倖に天谷奴はほくそ笑む。

さあて、本番はここからだ。楽しむとしますかね。

仕事モードに切り替わった天国を尻目に、自身も胡散臭いと評される表情を浮かべながら天谷奴は呼び鈴を押した。