ちこまる
2025-10-01 17:09:48
25205文字
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【げむ譲 零獄利き小説】




【テーマ】二日酔い/ドライブ


「ひ〜とや〜、おいちゃん酔っちゃったァ」
「アンタが酔うわけねぇだろ、ワクのくせに」
「え〜、んなことねぇよ」
「黙ってろ、ったく無駄に呼び出しやがって……

定時より遅い時間に仕事を終え事務所をあとにしようとした俺の元にかかってきたのは零さんからヘルプの電話だった。
動けないから助けに来て、その言葉を信じ車を走らせた先にはいつもと変わらない様子でへらへらと笑う零さんが路地裏にしゃがみ込んでいて、騙されたと悟った俺が足元を蹴り付けると、おっと、と尻もちを付き壁に背をつき悪態をつく。

「いってぇ、ひどいなぁ獄、優しくしてよ」
「うるせぇ、迎えに来てやっただけ優しいだろうが詐欺師野郎」

これ以上汚い路地裏で会話する気にもなれず踵を返し駐車場へと向かえば後ろから、よっこいしょ、とおっさんくさい掛け声が聞こえるがあとに続く足音が聞こえず振り返ってみると視線に気付いた零さんが取り繕うように笑い大股で追い付いてくる。
俺の隣に立つその姿はいつもと変わらないはずなのにどこか引っかかりを感じ、その疑問を投げかけようとした瞬間、ぐっと腰を抱かれ引き寄せられバランスを崩してしまう。

「っ、あぶねぇだろ」
「ふふ、獄との夜デート嬉しいなぁ、って」
「はぁ?ただ迎えに来ただけだろ、さっさと帰んぞ」
「は〜い、ふふ、ドライブだ」

気温が下がりようやく秋らしくなり過ごしやすくなった外にいたわりに零さんの体はくっつかれると熱いくらいで、人目に晒されるのも我慢ならず、胸板を叩くように押し返すとあっさりと離れていった。
その代わりと言うように手を握り込まれる。そちらも振り解こうとしても余計に強い力で捕らえられしまい、ため息を吐く。

「駐車場までだからな」

そう告げればわざとらしく歩みを緩める大男を引きずるように急ぎ足になる。

「あんまり離れると手、見えちまうぜ?」

脅しをかけられれば、思わず舌打ちを鳴らし仕方なく零さんの元へと戻るしかなかった。

車までの僅かな道のりは随分と長く感じられた時間にしたら2.3分もかかっておらず、車のドアを開け零さんをエスコートすれば、ありがと、と繋いだ手にキスをしてから助手席に乗り込んだ。
運転席側に回り込み乗車すると零さんはすでにシートベルトを着用しており、自身のそれを締める前に体を乗り出すと零さんの前に覆い被さった。

「わ……キス、されるかと思った」
「やっぱり、アンタ熱あるな?」
「二日酔い……かもかぁ、頭痛いし」
「たぁけ、ただの風邪だろ」

額同士を合わせてみると零さんの方が随分と熱く感じられ体調不良を確信した。早く休ませるために運転席へ戻ろうとした体は零さんに抱き留められ、異を唱えようと開いた口を奪われる。
普段よりも熱い舌がにゅるりと咥内に潜り込む前に犬歯を突き立ててやれば、いてっ、という言葉とともに抜き取られ排除に成功した。

「っ、俺には我慢ならねぇモンが二つある、一つ、風邪ひいてんのにマスクをつけねぇ馬鹿、二つ、それを感染そうとしてくる詐欺師野郎だ。大人しくしてろ」
「獄の顔がこんなに近くにあるんだもん、据え膳食わぬは、だろ?」
「はぁ……これで感染ったら休業損害請求するからな」
「もちろん、そん時は俺が付きっきり看病してあげるから安心して」

ぺしり、と軽い力で頬を叩けば観念したのかようやく体が解放された。シートベルトを締める前に後部座席の鞄からペットボトルを取り出すと零さんに手渡す。

「飲みかけで悪いが水飲んどけ、んで家まで寝とけ」
「ありがと、貰うね」

三分の二程残っていたミネラルウォーターはあっという間に飲み干され、空のボトルがホルダーに置かれる。
改めて体調不良を自覚したせいなのか帰路に就く車内はいつもより静かで、信号待ちで零さんの様子を伺えば眠りについたかはわからないが目を閉じてシートに体を預けている。

本調子でなく弱った零さんが珍しいのと、体調不良を明言されなかったとはいえ最終的に頼られたの自分だったという事実が俺に充足感を与え零さんに抱き着きたくなる衝動に駆られるが今は早く休ませることが先決だ。

家に病人が食べられそうなものがあっただろうか。
あぁ、この前空却から押し付けられた林檎があるからそれを剥くか。
常備薬はまだあるはずだから大丈夫。
病院は行きたがらないだろうけど、あまりにも熱が高い場合は無理やり連れていこう。

そんなことを考えながら車を走らせていれば隣からすぅすぅと寝息が聞こえ、呼吸音に異常はなさそうだな、と判断する。
いつも運転する俺を気遣い助手席という名前通りのサポートをしてくれる零さんが寝てしまうなんて、相当具合が悪いのかもしれない。

この週末は零さんのために費やすことにしよう。
もしも大したことがなければ、こんな短い距離ですらデートだと喜んだ零さんのためにドライブに行くのもいいだろう。

そう決意し自宅の駐車場に到着した俺はせっかく眠った零さんをとうすれば起こさずに部屋に連れていけるだろう、と考えるのであった。