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ちこまる
2025-10-01 17:09:48
25205文字
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【げむ譲 零獄利き小説】
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【テーマ】ドライブ
吹き付ける風と眩しい太陽を肌の上に受けながら、零はハンバーガーの紙袋から一枚の紙ナプキンが飛ぶのを目で追った。
FMラジオから流れるUKロックは風とエンジン音にかき消され途切れ途切れにしか聞こえないというのに、ハンドルを握る獄はその英語の歌詞を気持ちよさそうに歌う。
海にでも行こうか、と提案したのは零だった。獄の淹れたコーヒーを飲みながら、まるで突然思いついたかの様に口にした零の視線は海岸線で浜焼きの出来る店の特集を見つめていた。
二人の間でデートプランを立てるのはいつの間にか専ら零の役目となっていて、もう秋分の日も過ぎたというのに未だに夏の日差しの強さが残る今の時期には丁度いい遠出かと獄も頷いて賛同したのだった。
今日はまだ土曜日で、もし明日海に出かけるのならば今夜は早めに床に就くのか。そう一人この週末の予定を頭の中で組み立てる獄をよそに、少しスマホを操作した後零は、んじゃ出かける準備すんっかとソファから腰を上げた。
「そうだ、今日は髪セットしねぇ方が良いかも」
さっさとシャワーを浴びて服を着替えてしまった零と入れ替わりに浴室へと向かう獄に、零はそう声をかける。獄はそんな零の言葉に首をかしげながらも、一つ分かった。と答えると洗い乾かしたその髪を後ろで小さく一つに結んだ。
「は、レンタカー?」
「海に行くなら、オープンカーが一番だろ?」
先ず寄ってほしい所があると、そう言われ零が口頭で伝える道案内でたどり着い場所を見た時、獄は思わず大きな声を上げた。だけど、そんな獄の反応など予想の範囲だと、小さなサプライズを成功させた零は口角を片方だけ上げて答えるだけだった。
レンタカーの店舗に車で乗り付けた二人を店員は困惑した顔で迎える。獄と店員、困惑した二人の人間を前に、にこやかな笑みを崩さずさっさと手続きと支払いを終えた零は、渡された鍵を手の中で遊びながら「大人の贅沢って感じだろ?」と獄にだけ聞こえる声で言っていたずらが成功した子供の様な笑みを浮かべた。
「オープンカーは我慢ならん」
「獄君は日焼け弱いもんな」
「それもそうだが、こんな目立つだけで実用性の無い車、意味がない」
「カスタムしたバイク乗り回してる男がよく言うぜ」
図星を指した零の言葉にムッとしながらも、一度借りた車を目にすると獄は自分が運転すると言って零の手から鍵を奪い取った。運転席に乗り込んで、海岸沿いの車両数が少ない道に出るまでは屋根を畳まないとくぎを刺した獄は、それでもその瞳に浮かぶワクワクが隠せていなくて。零は一つ笑みを浮かべると、クラッチを踏む獄の左足を右手で撫でた。
そう言えば食事がまだだったと、ハンバーガーのセットをドライブスルーで買って。車内での飲食は控えろって言われなかったか?と苦言を溢す獄に、汚したら清掃費用取られるだけなんだから思いっきり楽しもうぜと、零は包み紙を剝いたハンバーガーを獄の口に押し付けた。
海岸沿いに出て屋根を開ければ、時速60㎞/hで全身に感じる潮風と10月だというのに照り付ける太陽を全身に感じる。
「あっちいなぁ」
「屋根無いんだから当たり前だろ」
「確かにこんだけ開いてちゃ、クーラーも意味ねぇしなぁ」
ぶっきらぼうに答える獄の口調はいつもと変わらないが、明るい声色からサングラスのレンズに隠れた瞳は笑顔を浮かべているのが想像できる。吐き出される傍から風に吹かれる冷風をそれでも全開にしたところで、シートに密着した背中や腰は既に汗で濡れていた。
「あんたが髪セットすんなって言った意味が分かったわ」
「折角セットしたのに風で崩れたら、機嫌悪くなるだろ?」
「そらな」
風にかき消されるから声を張り上げて会話を交わして、獄は楽しそうな笑い声をあげる。零は氷が解け切って炭酸の弱くなったコーラをずずずと音を立てストローで飲んだ。
「髪結ぶの、あんましねぇよな」
「結んだら跡が付くでな。家に居るときは下ろしてても気になんねぇし」
「そっか」
セットされていない獄の前髪が風の中で激しく踊るのに対して、後ろで低い位置に束ねられた後ろ髪は大人しくちょこんと項の上に乗っている。色素の薄い首の肌は、もう既に少し赤みを帯び始めていて、零は思わずその首筋に右手を伸ばした。
「あ、それ気持ちいわ」
「ん?」
「濡れてんの。涼しい」
そう言って一瞬、横へと振り返り笑顔を向けた獄に、零は自分の身体が強張るのを感じる。
何気ない日常の、ほんの一瞬。それでも、普段は気を張って生きている男が自分だけに見せる穏やかな表情。
獄にとって自分が特別な存在であると常日頃感じてはいても、こんな瞬間に心を許されていると実感して、それが零は堪らなかった。
この男の全身を甘やかしてやりたいと思う。獄の首筋にキスをして、少し潜められた声で跡付けんなって咎められたい。骨と筋肉だけみたいな肩を両手で固定して、獄の控えめな乳首に唇を沿わせたい。そしたら獄の鼻にかかった吐息が頭の上から降ってきて、顔を上げれば、少し恥ずかしそうに見下ろす熱の篭った瞳と目が合う。そして、次の動向を期待するその表情に、零は年甲斐なくがっつきそうになる自分を窘める為小さく息を吐き出すのだ。
今日誘ったら何と答えるだろうか?ずっと運転してて疲れた。昨日もしただろ。なんて断られるだろうか?そしたら、挿れなくて良いって引き下がって2人で触り合ってもいい。零が触る度に手の中で獄のものがびくびく跳ねて、獄が小さく吐息を溢す度に手の滑りが良くなって。零のものを焦らす様に動いてた筈の獄の指は、獄の余裕が無くなれば徐々に単調な扱くだけの動きに変わる。腰が跳ねる瞬間零の肩に添えられた獄の左手が零の肌を少し引っかいて、そんな微かな痛みさえ煽情的に感じる零は、獄の項に鼻を埋めてその汗の匂い嗅ぎながら、耳の後ろにキスを落として獄の耳まで愛撫して涎で光らせる。
零の腹の中にはいつだって、ある種の破壊衝動の様なものが眠っていた。
金曜の夜、獄の元を訪れた瞬間から月曜の朝まで。離れた距離に住んでいるからこそたまにしか許されない逢瀬の時間を極限まで使って、獄の身体を食らい尽くしてしまいたい。獄の事組み敷いてベッドに縫い付けて、意味のある言葉が紡げなくなるまで快楽の海に溺れさせたい。ベッドサイドにエアコンのリモコンと2Lのお茶のペットボトルだけ何本も用意して、サガミの箱全部使いきってもまだ足りぬ程、お互い空腹も忘れ排泄の必要がないほど体中の水分を汗やら体液で全部出して。そのあと二人してぐったりしてそのままぐちゃぐちゃのシーツの上で寝てしまうような、そんな退廃的な空間に獄を閉じ込めてしまいたい。
完璧な姿の唯一の汚点になりたい。それを作るのが自分であればいい。
だけど、そんなことを言ってしまえば獄はきっと顔を引きつらせ、その後セックスするってなった時絶対に1回だけだぞ。とか、今日は2回までだ、と念押ししてくるだろう。だから、零はただその厚い唇を閉じ、曖昧な笑みを浮かべ獄を見つめる。
「あぁ、それにしてもまじで暑いな」
「アイスでも食べちゃう?」
「そうするか」
道すがらコンビニの駐車場に車を滑り込ませて、それぞれ好みのアイスを買う。先程まで車内を汚すことを気にしていた筈の獄も、シートへと戻ってきた瞬間その包装紙を勢いよく開けた。
「うわ、もう溶け始めてる」
「はは、ほんとだ」
片手でハンドルを回して、掌でギアを変えながらアクセルを踏んだ獄が、コースアイスを口に運び真っ直ぐと延びる海岸線に車を走らせる。パクリとアイスを含んだ獄の喉仏が上下するのを、零はじっと見つめた。
「あ、クソッもう垂れてきた」
白く溶けたそれが手首に伝うことに悪態をついた獄が一直線の道で後行車が遠く離れてるのをいい事にアクセルを踏む力を弱める。前方を見つめたまま左腕を顔の前に持ってく獄の動作を零は目で追った。
あ、欲しい。
喉の奥をぐぅと鳴らして、半分まで食べ進めた自分のアイスが溶けて垂れるのをそっちのけに零は獄の腕を掴む。べろりと獄の肌に舌を沿わせれば、甘くクリーミーな味と共に煙草と日頃の不摂生で乾燥した肌の毛穴の凹凸を感じる。そのままぬるりと舌を這わせ指の間に溜まったものまで舐めとって、どうせだからと手に握られたコーンの上に残るアイスまでぱくりと口の中に。
「あっ!おい、自分の食べろよ!」
「はは、いやぁ獄君のが美味しそうでさ」
途端呆気に取られてた獄が声を上げて、零はそんな獄の手首を解放すると自分のアイスをさっさと食べ終わる。
今はこれで我慢してやるんだから感謝しろよ。そう心の中で思いながら溶けたアイスを飲み下して、喉を通るその冷たさに零は腹の中に生まれた熱を今日も一人抑えるのだった。
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