akinoshiroihana
2025-08-15 22:30:10
11438文字
Public
 

名刺置き場12





『本日14:00、―――で国内観測史上、最高気温を記録』
「なんじゃと」


食堂の職員達のかなりの数が振り向いたのは今日のそんなニュースにではなく、いささか頓智気なその合いの手のことばと、その声の主にだった。
暑気あたり予防の夏野菜炒めだけを気の無い様子で口に運んでいた筈の隼人は、塗り箸もろとも口を覆い、なにやらしまったという顔をしたところであり。差し向いに座っていた竜馬が椅子を蹴立てて立ち上がり、彼の肉餃子を宙に舞わせつつ飛び掛かるかのように、はしっこい小動物でも捕らえるような躍動感をもって、ばん!と隼人の両の頬を両掌の間に挟み込んだのは衆目の見守る前での動作だった。
(なお十数年後の竜馬は、これと概ね同じ所作でもって、小型肉食恐竜の頭を粉砕する)

「何しやがる……のじゃ」
「いやおぬしが、おまえがいきなり地の喋りなんぞしゆるから、熱射病でボーっとでもしちまってるのかとよ」
「それは隼人の方じゃよ、流石にこやつに任せると今日は頭がふわふわしておる、じゃがもっぱら寝不足じゃな」
「畢竟竜馬のおとないじゃな、よしよし今宵は隼人の身体をすやすやさせてやろ―――オーイティッシュもっかいくれえ!、やっぱとまらねえ!」
隼人が開いている手で貫手を返して鼻の下を突いたから、ツボを突かれた竜馬は滝のような鼻水が止まらなっている。

「しかし伊賀桑名が四十度とな」「どうなってんでぃこの四百年後はよ、真水のシャワーを行水につこうてもずっと温かいのよ」「処暑も過ぎたにのう」「地獄の釜焚き鬼が盆が済んでもさぼってやがって、地上でなんぞ焼(く)べてやせんか」「さての」

御疲れ様です、との声とともに新たな一団が熱い外気とそれに熱された体で入ってくる。こういう時鍛えられた身体の中でもある者たちは、夕暮れにも、夜闇の中にさえ赤々と見えるものである。生きる力か生命力か、のう、と半蔵は彼らと、それに目の前の竜馬の体躯を見遣る。竜馬はテーブルに片肘つき「竜馬として」、顔馴染み達に手を挙げるので、その熱の海がこちらに動く
剥き出しの腕に湿った熱風がぶわりと来て産毛を鳥肌立てたのを、熱い濡れた肉のひれにでも触れられたようだと竦む「隼人」の身体の反応を、澄ました顔してこの好き者めと「半蔵」は少し笑った。