akinoshiroihana
2025-08-15 22:30:10
11438文字
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名刺置き場12





涎を拭いてくれ、としきりに頼む者がいる
あの後野戦病院化した西口地下で

呆然としたままか、放心状態でゲットマシンごと搬出されていく竜馬弁慶をおいて、ゲッターから降りようとすれば、トレーラーから無言で飛び出してくる研究所員のスタンロッドと注射器を彼らに食らわせる。彼らのパターンは既に覚えたし、彼らの信用を一番得始めているのは人心掌握術というほどのこともしていないが、彼ら一人一人の名を既に覚えている彼に他ならなかった。
数で囲んで叩き伏される前にサクラヤの屋根まで飛び上がり見下ろして、被害状況を見てから戻る、さっさと行けと彼は言った。

涎か血か、吐瀉物なのか、気持ちが悪い誰か拭いてくれ
そうせがむ怪我人の一人を、慈悲心ではなく黙らせるために屈み込み覗き込み拭ってやって、そして彼は
あ、あああありがとうかんごふさんですか、お、おぉれ
そう輪郭の不確かな言葉で言いつのろうとする相手を行き合わせた「看護師」であるかのような、忙しそうな中にも「助ける」為に何かしてくれているような優しさを探させる触れ方をして、彼は制した
「黙って、順番に運んでもらえますからね。待っている間気を張ってたら疲れちゃいますから、目を閉じて、寝られるなら寝ちゃってもいいですよ、ね?」
彼を知る者なら驚くか大笑いするか、さもなければ黒塚の鬼女の微かな愛想笑いでもそこに見ただろう、最後のそれが一番近かった。

床に転がる怪我人を踏み分け、麻痺した地下鉄線路に向かおうとする彼は、小さく舌打ちして先程拭ったものを太い円柱に擦り付ける。

医療施設のただなかでさえどういうわけか、死者の顔に蠅が飛ぶことはあるし、なんなら死の近い患者の口から蛆が這い出すことさえあると聞いたためしはあった

だからさっきのやつはもうじき死ぬなと隼人は思った
誰のせいと言えば俺達が悪かったのだと。